1-1~七星殿にて~

 柏麟ハクリンは、司命シメイと歩きながら、

「しかし、露風ロフウ上帝じょうていは、お厳しい方だとお聞きしましたが、このようなことをして本当によろしいのでしょうか?」


 司命シメイは、

「ええ」

「何かあっても、吾が保証する。そなたは気にしなくてもよい」


「それなら、安心ですね」


 司命シメイは、足を止めて

柏庸ハクヨウ


 柏麟ハクリンは少し驚き、

(服に縫い付けてあった、あの名をなぜ知っている?)

(たとえ、司命しめい帝君ていくんとはいえ、過去の我と関わりがなければ分からぬはずだ)

(もしや、過去の我と関わりがあったのか?)

「...。はい。なんでしょうか」


「ここは、吾の目が届かぬところも多い」

「自分のことは自分でやらねばならぬぞ」


「承知しております」

 

 司命シメイは、再び進み、

「とはいえ、まだ天界のことはわからぬだろう」

「吾は時々、教鞭を取って天界と下界のことについて授業をしている」

「下界の講師として、そなたも参加するか?」


「ええ。もちろん」


「吾の神殿についたぞ」


 今は無き、司命シメイの神殿、七星殿しちせいでんの美しさは他の神殿と比にならない。

 鮮やかな青を基調とした大きな古建築の建物の門は、奥にある神殿にまたたく北斗七星の輝きを強調させる。下界の夜空に描かれた北斗七星を思わせる。

「美しく、壮麗な神殿...。素晴らしい」

司命シメイ帝君ていくんにお似合いな神殿だ...」


「...。ええ」


「とりあえず中へ」


「わかりました」


ーーーーーーーーーー

「この書類をあっちに持っていって、こちらの書類は上から2番目の棚に入れる。あと、この書類は上から4番目に入れて、奥の方にある書類は辰の方位にいる神に渡す」

「それから、これもお願い」

「これも」

「これも」


 腕には、柏麟ハクリンの顔が隠れるほど多くの巻物が積まれる。

「承知しました」

 ・・・

「終わりました」


(??! この量をわずか3秒で正確にこなすとは)

(そういえば、人間時代に他人から聞いた物事を完璧にこなすことは得意だったな)

(いや、でも、いくらなんでも早すぎだろ!!!)

「.........」


「次は何をすればよろしいですか?」


「次は、下界のことについて教えてくれぬか」

「吾は、命や運命を司る神だが、人々の生活まで覗けるわけではない」

「故に下界の細かい部分は知らぬ」

「幼い神達に、下界の細かい部分について、質問攻めにされ、我ながら答えることはできなかった」

「教えてくれぬか」


「承知いたしました」

 柏麟ハクリンは、天界にある数少ない下界についての資料に補足を加え、司命シメイに説明する。

 七星殿が、残酷な姿になるとは柏麟ハクリンでも予測はできなかった.....。

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