【他力本願】な最強が【魔物使い】となり異世界に殴り込み!?〜【万魔の魔王】と恐れられた男の復讐劇〜

幼少期編

第1話 最強陰陽師、罠に嵌る

 僕の名前は、芦屋蓮あしやれん

 座右の銘は『他力本願』の天才陰陽師です。

 現在、僕は自慢の式神に今回の依頼について説明しています。


「てことで、よろしくねしゅんちゃん」

「よろしくねじゃないですよ、大将。ちゃんと説明してください」


 僕の目の前にいるのはあの伝説の妖怪、酒呑童子しゅてんどうじのしゅんちゃん。

 今回、僕について来てもらう予定の式神です。


「だーかーら、僕依頼に行く。君それに着いてくる。OK?」

「OKじゃないです。そもそも、大将自身が出張る程の依頼ってなんですか?あんなに、かたくなに自分じゃ行きたがらない大将が自分から行くって言い出すなんて…」

「おいっ!ちょっと待てよしゅんちゃん。僕をダメ人間みたいに言っちゃってさぁ。僕だって、たまには仕事するんだよ!!いつも式神任せじゃ、周りから笑われてしまうからね!」


 今回、僕が陰陽連を通して国から受けた依頼は、超高難易度の調査依頼です。

 依頼内容は、2週間前に『魔のトライアングル』にて猛烈な謎の力を確認。

 その後、調査員が近くまで確認しに行くと、そこには記録上には無い孤島ができていたので、調査員はそのまま帰還。

 今回はその島を調査することが目的です。


 ただ、不可解な点が1つ。

 この歴史上類を見ない天才最強陰陽師の僕が、本気でその島を見ようとしても何も分からなかったこと。


「カクカクシカジカで、何があるか分かんないから着いてきて」

「着いてこいって言われりゃついて行きやすが…。大将が見れないって、本当にそんな場所存在するんです?」

「そりゃあ、あるよ。いくら現代の奇跡と呼ばれてる僕でも神様じゃ無いんだ。ただ、僕が過去に1度だけ見れなかった所って、神様が絡んでたんだよねー」


 僕がそう言うと、しゅんちゃんは思考が止まってしまったようで固まってしまった。

 …数秒後


「・・・ん!?それってヤバいんやないすか!?」

「うん。やばいよ?」


 ヤバいから僕が行くのだ。

 全く何をそんなに驚いてるのやら…


「それなら、自分以外にも兵隊必要じゃないですか!!自分1人で大将守れるか不安ですって!!ちょっと、茨木いばらき達呼んできてもいいっすか?」

「それはダメだよ。もし僕達じゃ手に負えなかった時のために使えるやつはなるべく多く現世に残しとかなきゃ。それに、しゅんちゃんさえ居れば、最悪なんとかなるでしょ?」

「いや…まぁ、そんなに信用して貰えてるのは嬉しいですけど…。いやでもいける…か…?」

「まぁ、なんだかんだ大丈夫だって。いつもみたいに、パッと行ってサッと終わらせて帰ってこようよ。それに明日は、ちょっと僕の方も用事があるからね」


 そう言って僕は、部屋の扉に向かう。


「それはそうと、今から行くんですか?」

「あったりまえじゃん!何事も、悪即斬だよ、悪即斬!」

「大将…、それ言いたいだけじゃ?」


「いいから早く行くよ?深く見れなかっただけで、場所は把握済み。呪力ピンも刺してるから、あとは僕の空間呪術で、瞬間移動するだけなんだから」

「はぁ〜、さっすが大将。神様なんてなんのそのってやつですね」


 次の瞬間、2人の姿は一瞬にして無くなった。



 ※※※※※


 

 あれから1時間。

 僕の空間呪術で島に転移したあと、僕達は、周囲を確認しながら島の中央を目指して歩いていた。


「着きはしたものの、本当になんにもないね」


 目の前に広がるのは、草木がひとつもない、枯れた大地。

 自然に生成されるには、あまりにもおかしい異常な光景があった。


「確かに…。それにさっきから思ってましたが、こりゃあなんですかい」


 そう言いながら、しゅんちゃんは屈みながら地面を触る。


「土でもコンクリでもないみたいですし…。不気味ですね」

「うん、不気味だね〜。それに、島の中央部分から神力が溢れ出て来てることも要注意かな…」

「えっ!?それ、マジですか?」


 現世では、感じることが決してないはずの神力が、この島の中央部分からは溢れ出ている。


「いや〜、困った困った。これは、想像よりもヤバそうだ。とりあえず、急ぎめに中央部分を目指してみよう?」

「了解しやした」


 それから2時間ぐらい、警戒しながら、中央に向かって進んでいくと、段々と、像らしきものが見えてきた。


「なんですかい、あれ。なにかの像みたいですけど」

「うーん、なんの像なんだろ。まぁ、とりあえず近くまで行ってみようよ」


 段々と近づいてくる像に違和感を持ちながら歩くこと1時間。


 近くまでいくと、よりはっきり見えてきた。

 どうも、どこかの女神を模した像のようだ。

 天使の羽が生えた女性が手を胸の前で組み、空に向かってなにかを祈っている様子だ。


「さて、どうしたもんか。…とりあえず、しゅんちゃん触ってくる?」

「ちょいちょいちょい!!なんでそうなるんですかい。わしはぜっっっったい、嫌ですよ!!」

「まぁ、だよね。転移させて行かせてもいいんだけど…」

「!?う、嘘ですよね大将?」

「うーん、まぁ、今回は式神に行かせてみようかな」


 そう言って、式札しきふだを取り出して、呪力を練り出す。

 すると、ここで僕はおかしいことに気づく。


「あれぇ、おかしいな。さっきまではできてたんだけど…。ねぇ、しゅんちゃん。ここで呪力練れないんだけど」

「またまた、そんなわけ……って、練れない!?」


 普通、現世ではどこに行っても、一定の呪力があるため、呪力が練れないなんてことはない。

 呪力が練れないということは、この場所に呪力が全くないということ。

 つまり、異常事態である。

 僕たち陰陽師や妖怪は、呪力がなければ、全ての力が使えなくなり、自分の体一本で戦わなければならない。


「なるほど、これで納得が言った」

「急にどうしたんですか?」

「あぁ、今になって、なんで僕が見ようとしても深く見れなかったか、分かったよ…」


 そう言って、像を指差す


「あれのせいだ。あれから、神力が溢れ出てるせいで呪力の溜まり場なくなり、呪力での干渉が全く出来なかったんだよ」

「なるほど。・・・ん?ってことは、ここは擬似的な神域になってるってことですか?」

「その通り。さすがしゅんちゃん察しがいいね」


 僕も過去に何度か神域に入ったことはあるが、ここと似たような空気感だった。

 まぁ、ここの方が100倍気味悪いけど。


「やっぱり予想的中だ。どっかの神さんの仕業だなぁ、これ…」

「うげっ!」

「うげって、嘆きたいのは僕もだよ!」


 しかし、困った。

 神様は皆一様に自分勝手だ。

 僕ら人間のことなんか考えもしない。


「となると・・・はぁ、これは僕じゃ解決できないかな。帰ってからうちの神さんにでも相談してみるかな」


 これ以上ここに居ても収穫はなく、僕達じゃ手に余る依頼であるため、ここで一旦帰ることにする。


「それはいいんですけど、呪力ないっすけど帰れます?まさか、泳いで帰るなんてことありませんよね?」

「フッフッフ。この天才最強陰陽師がそんなミス犯すわけがなかろうよ、酒呑童子くん!」


 僕は、こんな事があろうかと密かに、まだ誰にも言っていない奥の手を持っている。


「流石、大将。よっ、日本一。 それで、どんな方法なんですか?」

「聞いて驚け。僕は、うちの神さんから、神力の扱い方を教えて貰っておいたのだ!!」

「マジすか!?人間って神力使えるんすか!?」


 普通の陰陽師じゃ不可能。

 僕が歴史を見ても生粋の天才陰陽師ゆえ、実現可能にしたことだ。

 本来、神力とは神が使うことを前提にあるため、制御するだけでもかなり膨大な処理が必要となる。


「でも、1つ問題があるんだ」

「なんですか?ここまで来て、やっぱ出来ませんとかはなしですよ?」

「そうじゃない。まだ僕自身、神力の扱いに慣れてないから術式完成までに少し時間がかかるんだ。その間、しゅんちゃんには、像を見張りつつ、僕を守ってもらいたい」

「なんだ、そんなことですか。お易い御用です。ちなみにどのぐらいかかるんですか?」

「転移ってなると、だいたい30分ぐらいかな。それじゃあ、作業に入るから、見張りよろしくね」

「合点!!」


 僕は、早速印を組みつつ周りの神力を僕の制御下においていく。


 ※※※※※



 それから20分ぐらい経って術式も完成目前に迫ってきた頃、しゅんちゃんが突然話しかけてきた。


「大将。あの像、最初見た時と比べて口元笑ってませんか?」

「なんだよ。もう少しで完成なんだ。ちょっと静かにしててくれない?」

「・・・いや、やっぱりそうですって。今も少し口元動きましたって!絶対、あの像動いてますって!!」

「そんなことあるわけないだろ。像が動くって、像は生き物じゃありませんよ?酒呑童子君。遂に頭までおかしくなったんじゃないか?」


 まったく、しゅんちゃんは。

 部下の前では、あんなに立派なボスなのに、2人きりになるとすぐこうなる。

 こっちも術式完成までもう少しだってのに…


「大将!大将っ!!たいし…」

「なんだよ!術式完成まで、ほんとあと少しなんだって」

「大将。まじで、笑ってますってあの像。気持ち悪いです」


 しゅんちゃんは、まだ僕を驚かせようとしてるらしい。さすがの僕でも、そろそろ我慢の限界だぞ。


「もう、しゅんちゃん。そんなわけないでしょ。像が動いて、笑うなん……てっ…。え?」


 ちょっとキレ気味に、像の方を見たら、恐怖で固まってしまった。

 最初は、清廉潔白な女神を模した像だったはずのそれは、口元が、ニタァーと不気味に笑っており、何か楽しげな様子だ。


「ちょっとちょっと、しゅんちゃん。何あれ?気持ち悪くね?」

「だから、呼んでたんじゃないですか。大将、ずっと無視するんですもん。あれ、明らかやばいでしょ」

「ヤバいってもんじゃないでしょ、あれ。早くこの場から逃げないと、なんか嫌な予感がするんだけど」


 そう言って、今までよりも高速で術式を組み出した。幸い、あと少しで術式が完成しそうだったので、そう時間はかからない。


 術式完成まであと2分のところで、突然像が輝き出して、周りに滞在していた神力が女神像に吸収されるという妨害がおこる。


「こりゃあ、本格的にまずいかも。しゅんちゃん、僕から離れないでね」

「了解です。何があっても大将だけは守り抜きます!」


 僕は、像に神力の制御を取られまいと、必死に神力の制御を維持しながら、術式を完成させていく。

 僕と象の攻防が数分続くと、更に像が黒く輝きだして、島全体の地面から見たことも無い不思議な魔法陣が浮き出てきた。

 その瞬間、魔法陣の模様を見て、僕は嵌められたことに気づいた。


「あっ…、これダメなやつかも…」

「ちょっとちょっと、大将。なんですか急に!!」

「ごめん、しゅんちゃん。これ誰かに嵌められたみたい…」

「謝らんといてください、大将。今まで、大将に付き合って、何度滅茶苦茶めちゃくちゃな目にあってきたか。わしは大将に忠誠を誓っとるんです。死ぬその瞬間までわしはあなたのお傍におります」

「ありがとう。でも、しゅんちゃん?急にクサイこと言うの恥ずかしくない?」

「ちょっと大将。絶賛大ピンチのこんな時にも、からかうんですかい?」


「アハハハハ。いいじゃん。こんな時だからだよ。僕とあろう者が対応策が全く出てこない。こりゃあ、完敗だね。でも、このままってのは悔しいから、とりあえず残った神力で、僕としゅんちゃんに結界だけは張っとくね」


 その間にも、どんどん輝きは増していき、遂には地面からも黒い輝きが出だした。


「あーあ。来る前にかえでに一言言って来たら良かったなぁ」

「何諦めてるんですか!魔法陣からして転移っぽいんで、また帰って来れますって!!」

「あれ?しゅんちゃん分かんない?これ、僕たちの世界とは違う世界の神さんの仕業だよ?」

「・・・へ?」

「僕たち、多分こことは違う世界に飛ばされるんじゃないかなぁ?」


 一日で島を作り、そこに神力が溢れ出る女神像を置いて、僕たちをおびき寄せ、見たことも無い魔法陣で島全体を覆いおおい隠す。

 こんなことを僕たち、神の化身に気付かれずにできるのはこの世界に知られていない、異界の神しかありえない。


 流石は神様。やることが派手でございますなぁ〜。


「ん?ちょっと待ってください。て事は嬢ちゃんとはもしかして会うことは…」

「まぁ…ね?出来ないって断言は出来ないけど、限りなく難しいだろうね…」

「えぇ〜。じゃあ、誰があの嬢ちゃんをコントロールするんですか…。大将いなくなったら、何しでかすか分かりませんよ?」


 まぁ、心残りがあるとすれば、僕の許嫁であった、楓くらいかなぁ。

 ちょっとメンヘラちっくで、若干の怖さはあったが、いざ会えなくなるってなると寂しいもんがある。


「まぁ、神さん相手だと、僕たちがいくら頑張ってもなかなか厳しいよ。てことで、手、繋いどこ。離れ離れにならんように」

「いいですけど。これワシ達死ぬとか、ありませんか?」

「それはないよ。さすがの異界の神さんも、違う世界の罪なき者を殺すことは出来ない。神様法的なのに引っ掛かるからね!」


 そう言うと、しゅんちゃんは、びっくりしたように見てきた。


「流石というかなんというか。良く知ってますね、そんな事…」

「そんな事より、今からが大変だぞ。どんな所に転移させられるか分かったもんじゃない。覚悟はできてる?」

「それはもちろん。大将に、忠誠を誓ったあの日。あの時より、わしの命は大将の物。覚悟などとうの昔にできております」


 しゅんちゃんの、瞳の奥から異様なまでの覚悟が見て取れる…。

 まぁ、あの件があって以来、しゅんちゃんからの信頼がうなぎ登りで、怖い…。


「ヒュー、流石しゅんちゃん。ありがとう。じゃあ、また」


 僕としゅんちゃんは、手を繋ぎながらただただ、時を待った。


 それから数秒後、島は黒い輝きと白い輝きがマーブルのように全体を覆い、突如として島ごと消えた。

 まるで何事もなかったかのように、そこには何も無く、ただただ静かな波が漂っているだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る