第12話
「こんにちは有馬君……ってどうしたんだ!?」
マズい、なんも考えずに来たせいで見た目がとんでもない事に!?
「え!? いや、そのえっと……」
先輩は大慌てでこちらにすっ飛んで来ると、僕の腕を持ち上げて見たり、顔面を心配そうに見る。
「良かった……。怪我は無いようだな」
アレ? 僕結構ボコボコにやられてたし、顔面にも何発も蹴りやパンチ貰ってた筈なんだけど。僕は派手に蹴りを喰らった筈の箇所を触るが、一切痛みが無い。
僕が身体をペタペタ触っていると、先輩は心配そうな顔をする。
「大丈夫……なのか?」
「あ、はい。結構派手に転んだんですけど大丈夫みたいです。すいません、来たばっかりなんですけどトイレ行って来ますね」
「あっ……」
僕は荷物だけ生徒会室に置くと、トイレに向かった。
……おかしいな。確かに蹴られたり殴られたりした瞬間は痛かった筈だから、怪我が全く無いなんてことは有り得ないよな。けど思い返してみると身体が勝手に、と言うよりも身体の上手い使い方を急に理解できて派手に動いた時には、もう既に痛みを感じて無かった気がする。
殴られ過ぎてアドレナリンが分泌されて痛みを感じない。なんて事を考えたが、それだと見た目は酷い有様になってるだろう。なのに、先輩は怪我が無いと言っていた。一体……。
そんな事を考えながら歩いていると、トイレに着いた。途中、土塗れの制服なせいでじろじろ見られてたけど。
そして、トイレの鏡で自分の姿を見た……。
「嘘、でしょ……」
鏡に映ったのは瞳が金色な以外至って平凡な日本人と言った見た目の、いつもと変わらない一切傷の無い自分の姿だった。
上着を脱いで、上半身に打撲や傷が無いか調べても一切外傷は無い。どう考えても、不自然だ。
一瞬ゲームの世界だから、なんて事を考えたが有り得ない。今までこの世界で生きて来たが、転べばちゃんと擦り傷は出来るし打撲になる。間違ってカッターで手を切った時だって血が出る。だから怪我をしても瞬時に治ったり傷を負わないなんて事は有り得ない。そもそも、スポーツ刈りの男子生徒の姉とやらに殴られた時も、ちゃんと痛いし傷もあった。なのに……。
「痛くもなければ、少しの傷もない」
『この……化け物』
「ッ……!?」
もう、この事を考えるのは辞めよう。怪我が無いならそれでいいじゃないか。
僕は一瞬痛んだ頭を抑えた後、上着を着て制服の汚れを落としトイレを後にした。
トイレから生徒会室に帰還して暫く。いつも通りの時間を過ごしていたのだが、先輩は先程の出来事について話を切り出して来る。
「有馬君。さっき、派手に転んだと言っていたが本当かい……?」
「ほ、ホントですよ。階段を踏み外しちゃいまして、そりゃもう漫画みたいに派手にゴロゴローっと……。ははは……」
「どこのかな?」
「え、えっと。二階の図書館前の階段ですね」
「さっき来た時には制服に土が付いていたが」
あーもう、僕の馬鹿。なんでそこの気が回らなかったのか……。
「あ、すいません。実は二回転んだんですよね。グラウンドの所の座れる段差あるじゃないですか、あそこでも転んじゃって」
「わざわざ何故外に……?」
だ、ダメだ。気が動転し過ぎてボロが出る言い訳しか出てこない!?
「え、えっと……」
「やっぱり、転んだというのは噓なんだろう? ……アイツらにやられたのか?」
「うっ……」
む、無理だ。これ以上誤魔化せない……。
「あー、その。ちょっとだけ嫌がらせを受けたようなそうじゃないような……」
「やっぱりそうか……。きっと今回が初めてじゃないのだろう?」
先輩は唇を噛み締めると、俯いてしまう。
「アイツらの標的が私だけで終わるハズが無い、分かっていた筈なのにな」
「……先輩のせいじゃないです。僕もついイラッとして初めて会った時に挑発しちゃいましたから」
「けれど、きっかけは私だ。きっと私に嫌がらせをするのを手伝えとか、そんなところなんだろう?」
「それ、は……」
「良いんだ。分かっていた、分かっていたさ。だけどいつの間にか君と話すのが、君と一緒に居るのが心地よいと感じてしまっていたんだ。だから、怖かった。その事について考えるのが」
そう言うと、先輩は顔を上げた。
「もう、君はココに来なくて良い」
先輩がそう口にした瞬間、僕の頭は真っ白になる。
「え? 先輩、今なんて」
「君はもう、ココに来なくて良いと言ったんだ」
「なんでですか!?」
僕は納得出来ずに、先輩に詰め寄った。
「分かっているだろう? 私に関わればアイツらに絡まれる、だからもう君は来ない方が良い」
「僕は嫌です! 僕もココが気に入っているんです、だから!!」
「私が困るんだ、私は君にそんな目に遭って欲しくない。だから」
そう言うと、先輩は僕のカバンを持つと僕を出口まで押しやる。
「待ってください、先輩。待って」
頭が真っ白になりながらも、僕は抵抗出来ずに居る。何故なら、きっと今の状態の先輩に抵抗したら突き飛ばしてしまう。そう思う程に先輩の僕を押す力は弱かった。
「あ……」
そうして僕が生徒会室の外まで押し出されて呆然としていると、先輩は泣きだしそうな顔で僕に鞄を押し付ける。
「さようなら、有馬君。君の事は忘れない。ありがとう、今まで本当に楽しかった」
先輩は儚く、消えてしまいそうな笑顔でそう言うと生徒会室の扉を閉める。最後の一瞬見えた先輩のその頬には、一筋の涙が伝っていた。
抜け殻みたいになって家に帰宅し、ひたすらベットに籠って迎えた翌日。学校には来たものの授業も碌に聞かずに一日を終え、放課後暫くボーっと教室で過ごした後に靴箱を開けると、何かを書きなぐった紙と写真が落ちてくる。
『女は預かった。町はずれの倉庫街、6番倉庫まで来い』
そこに映っていたのは猿轡をされ、手足を縛られている先輩の姿だった。
それを見た瞬間、僕は紙を握り潰し走り出す。先輩の無事を祈りながら。
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邪ンヌがマジで出ない……おかしいぞ。もう既に未回収石も底を尽きそうなんだけど。
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