第11話

「……それで、僕に用って何かな」


 僕は同じ学年の不良グループに属する生徒達に呼び出され、校舎裏に来ていた。


「はッ、姉貴の言ってた通り生意気な野郎だな。お前、姉貴達の忠告無視してるらしいじゃねえか」


 どうやらこの中のリーダー格らしい、スポーツ刈りで目つきの悪い男子生徒が喋り出す。

 

「姉貴? ……誰の事かな」


「ちっ、とぼけてんじゃねえぞ」


「悪いね。僕は君の事、碌に知らないんだよね……」


「あのクソウザイ生徒会長してるクソ芋女についてだよ。折角お前があのキモいお節介なアマと仲良しに見られないように、姉貴が親切にしてやってるってのによぉ」


 どの口でコイツは先輩の事を貶しているのだろうか。


「……。ん、あぁ。先輩に嫌がらせの手伝いさせようとする、中学生にしては老け顔過ぎる二年生の女子生徒の事?」


 叔父さんには『多少』と言ったものの、最近は結構しつこく強要するようになってきて参っている。そんな無駄な事に人生費やしてないで、もっと他の事していれば良いのに。


 にしてもこの、人間の醜い部分を体現したような表情、本当に姉弟なんだな。全く持って嫌になるくらい似てるよ。


「オイ、舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!!」


「ガッ!?」


 如何やら、彼を怒らせてしまったらしい。僕は腹部に蹴りを受けてうずくまる。いやぁ、つい口が勝手に余計な事を。


 ……どこの世界も、いつの時代も人間は変わらないな。


「あれ? 違った? ゴメンね。てっきり人間として最底辺を行き過ぎて、顔に行いが出ちゃってるあの人かと思ったよ。君達、もう少しその悪人顔どうにかした方が良いと思うよ。中学生の癖してげんなりするような悪意塗れの顔してるから。その年でそんな表情が板についてるなんて、よっぽどだよ?」


 そういう顔してる人間には辟易してるんだよねぇ。……あれ? 僕、そんなに悪意に塗れた人と会った事ない筈なんだけど。多分極稀に会った事例が心に残ってるだけか……。


「テメエは……!」


「うッ!? はは、本当に直ぐに手が出るね。他に芸はないのかな?」


 僕は嗤いつつも腹部を抑えながら、目の前の不良君を挑発する。


「笑ってるんじゃねぇぞクソ野郎! あのアマと言いテメエと言い本当に気に入らねぇんだよ。テメエらみたいなのは、素直に俺らの言う事聞いてりゃ良いんだよ!」


 何故か脳裏に浮かんだ、ノイズ混じりの気色の悪い人間の笑みがよぎり目の前のコイツと重なる。


 あぁ……本当に気に入らない。


「お前こそうるさいよ、クソ野郎。その汚い口閉じてろよ……」


「チッ、オイお前ら。この馬鹿に現実っての教えてやれ」


 スポーツ刈りの生徒がそう合図すると、不良たちは一斉に襲いかかってきた。


「グッ!? ガハッ!?」


 5人から同時に攻撃を受け、このままじゃヤバい。そう思ったその時だった。


「へへ、いい気味じゃねえか。喰らえよオラァ!!」


 先程話していたスポーツ刈りの男子生徒が拳を振り上げた瞬間。その拳の軌道が見え、身体をどう動かせば良いのかが何となく分かった。


 僕がこちらに向かってくる拳を手のひらで受け止めると、男子生徒は目を見開く。


「て、テメエ……」


 なんだ? なんで今、僕……。


「この、離しやがれッ!」


 僕に右の拳を掴まれたまま、男子生徒は左の拳で僕の顔面を狙う。だが僕は咄嗟に男子生徒の右の拳を離すと、右足で相手の腹部に回し蹴りを叩き込んだ。その結果、スポーツ刈りの男子生徒は吹っ飛んで壁にぶつかる。


「なッ!?」


「調子こいてんじゃねえぞ!? テメエ!!」


 どうやら、今のを見て再び全員でかかってくることにしたらしい。一人目は伸ばしてきた手を掴むと、背負い投げのように投げる。


「一人」


 二人目。無防備に殴ろうとしてきたので、懐に潜りこみアッパーを食らわせる。


「二人」


 三人目。何かの格闘技の経験者らしい背の高い生徒が蹴りを叩き込もうとしてきたので、四つん這いになり蹴りをやり過ごす。そしてジャンプしながら相手の顔面を掴んで後頭部を地面に叩きつけた。


「三人」


「死ねぇぇぇ!!」


 四人目。どうやら錯乱したらしい。落ちていたそこそこの長さの鉄の棒を兜割りのように振るってきたので、左手で掴み右手で顔面に拳を叩き込んでスポーツ刈りの生徒と同じ所まで吹き飛ばした。


「ひッ!? うわァァァ!?」


 5人……目。僕が構えた瞬間、怖気づき逃亡したので僕は構えを解いて息を吐く。


 ……これは一体どういう事だろうか。前世含めて僕は荒事に巻き込まれた経験はほぼなく、こんな事出来っこない筈だ。というか痛みもだいぶ引いた気がする、どうなってるんだろう……。


 そうやって一通り考え込んだ後に背を向けて去ろうとした、だが。


「この……化け物」


『この化け物が!!!』


 スポーツ刈りの男子生徒がその言葉を発するのと同時に、聞いたことも無い筈の誰かが恨むような声が聞こえてくる。


「化け物、か」


 何故か、その言葉は僕の胸に深く突き刺さった。





 「こんにちは」


 校舎裏から戻った後、沈んだ気分のまま僕は生徒会室のドアを開ける。


「こんにちは有馬君……ってどうしたんだ!?」


 あ、制服がとんでもない事になってるの忘れてた。



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 え、なんで投稿頻度が遅いのかだって? いくら頑張っても出てこない邪ンヌと後回しにしていた用事が悪いんです。あははは……ごめんなさい。


 いつも応援ありがとうございます!

 

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