原作と関わらないように生きようとしたら、メインヒロイン全員知り合いだった

荒星

第1話

 やぁ! ところで本当にいきなりなんだが、皆は異世界転生と言うのはご存知だろうか? ん? なになに? 『いきなりなんだ?』『んなもん言われても知ってるよ』ふむふむ『はいはい、どうせ異世界テンプレ転生の導入』とか言わない。合ってるけど。だけど、だけどねぇ!


 ……唐突に体が赤ん坊になっていた僕の気持ちが分かるかッ! いざ自分の身に起きると文字通り泣くしかないんだぞッ!


コホン、話が逸れた。実はと言うべきか案の定と言うべきか、赤ん坊の頃にそのテンプレめいた異世界転生をしていて、ここは前世で人気だったギャルゲー『サイン・ハート』略して『サイハ』の世界だった。なんてベタベタな展開だったりする。

 メインヒロインが三人居て、一人がどこぞの国のお姫様で二人目がアイドル、三人目が生徒会長という濃ゆーいメンツとラブコメするゲームだ。このゲームの大ファンの『俺』としては女風呂に忍び込んででも、画面外の人間としてCG回収しようと思うんだけど……。

 いや、だって主人公組と関わろうとしても出自からして一般人の僕じゃ死んじゃうし。なのに。


「どうしてこうなったァァァァァァ!」


 ギャルゲーの舞台となるアステリズム学園。その入学式にて、お姫様とアイドルの二大巨頭に挟まれながら、冷酷な瞳でこちらを見据える生徒会長。という図に対して、僕『有馬末広』は現実逃避をするしか無かった。






 

 初めまして、僕は『有馬末広ありますえひろ』。容姿普通、運動能力普通、学力普通で、瞳の色が金色でそこだけは二次元って感じがしてビックリするけど、超絶美少女な幼馴染が起こしにきてくれるようなイベントも持っていない、極々普通の新高校一年生だ。ただ唯一変わっているところがあるとすれば、両親が10歳の頃他界しており、時々親戚のあやしい叔父さんが様子を見に来ることと転生者であること。これに尽きる。


 前世の自分自身のことはあまり覚えていないが、気がついたら大好きなギャルゲー『サイン・ハート』の世界に赤ん坊として転生していた。この世界では太古の昔に12星座を司る邪神と、オリュンポスの12神を代表とする神々が争い、神々の加護を受けた二組の聖女と勇者が邪神を討伐した……そうな。

 んで神々も去った後に様々な要因としてダンジョンとなった遺跡から、聖剣や強力な鎧や医薬品等々とんでもない物が出土する。それらを手に入れる為に冒険者という職業があり、冒険者を育成する『アステリズム学園』があるわけだ。


 ちなみに『サイハ』自体のストーリー大筋なのだが、主人公は邪神を現代に再び甦らせるための元実験体で前世邪神を倒した勇者の魂を流用していて、主人公含めて数多くの失敗作から生み出された最高傑作。まあこの時点で重いのだが、邪神を復活させてこの世を終わらせようとする、古代からのはた迷惑な自殺願望者の集まりな教団『サクリファイス教団』と戦いつつヒロインを攻略していく。と言った感じだ。ちなみに敵さんは平気で邪神を降ろそうとして失敗した人間とかモンスターの他にも、完成品まで主人公達に幾度もぶつけてくるのだ。


 うん、こちとら一般人ぞ。モンスターは兎も角ジャンル違いなレベルのバケモノ共の相手なんて出来るか。

 てなわけで、原作主人公が何処に住んでて中学時代にどんなイベントがあるか把握していたので、なるべく接触せずに生きてきた。あ、ちなみに叔父さんは普通だよ。警察のお偉いさんっぽくはあるけど。


 そんなこんなでいよいよアステリズム学園の入学式当日。いつも通り歯磨きして顔を洗って、ご飯食べて出る前に仲が良かった中学時代の元生徒会長にメッセージアプリでメッセージ飛ばして……。


「ん?」


『入学式前に少し生徒会室に来てくれ』


 どういうこと?


 あ、ちなみに中学時代の元生徒会長さんの名前は『高田凛子』グルグル眼鏡にボサボサ頭、偶にポンコツな所を発揮する上、口を開けば悪態や悪口のオンパレード。まあその悪態も悪口も相手の事想って言ってたから嫌えなかったんだけどさ。

 ただ、先輩が先に卒業してからのこの一年。遊びに誘っても乗ってこずに疎遠になっていたんだけど、ここ最近連絡が来るようになった。


 どうでもいい話だが、『サイハ』でのメインヒロインの内1人。凛々しい某女性が男性役やる系劇団めいた性格の『鈴木凛子』とは名字違いである。生徒会長って役所は同じだけど。ポンコツだし。

 苗字さえ違えばなー、と思う反面デッドエンドだらけの『サイハ』メインストーリー大筋に関わりたくないので複雑な気持ちになる。


 ちなみに凛子さんとは何もない。仲は良いけど。というか僕の二度目の人生、女っ気自体ない。なんなら友達すらほぼ居ない。昔は沢山いたし幼少期の黒歴史期には親友が1人、結婚の約束までしたような気がする名前を思い出せない幼馴染が1人居たけど、どっちも家庭の事情で引っ越してる。


「もうほぼほぼ記憶も無いしなぁ……」


 いや、痛い奴じゃないよ!? ただ、10歳までは何故か精神が身体に引っ張られていたせいで言動が幼かったと言いますか、行動も制御が聞かずにやんちゃだったし、記憶もあやふやで覚えてないんだよ……。

 良く一緒に遊んでてどんくさすぎてよく泣いてた、ちょっとドジっ子な親友のアーサー君、元気かなぁ。無駄にイケメンでキャップ帽抑えながらスカした殴りたくなるようなキメ顔、よくしてたなぁ……。

 

 まあ兎も角、平穏無事な学園生活を送ろう。そう決意し、一通りLINKを打ち終えると、僕は少し浮足立ちながら玄関を出た。







「ここかぁ、デッカイな……」


 浮足立ったまま、アステリズム学園に着くとそこは異様な敷地の広さを誇っていた。具体的に言うと東京ドーム2個分程度の敷地であり、中には初心者ダンジョンも地下に内包されている。


「さてと、クラス分けの掲示板は……」


 実物を目にすると校門ですら学園に少し圧倒されながら、新入生のクラス分けが掲示されている所まで向かう最中に話声がした。


「おい! あれ見ろよ! アイドルのまなかちゃんだぜ!」


「うぉ! マジかマジでここにまなかちゃん来るって話マジでマジだったんだ!うえぇ?マジで!?」


「お前がまなかちゃんのガチファンなのは分かるけど、マジしか喋れない生き物と化してるぞ、戻ってこーい」


 人が集う掲示板の前で、多数の人に話しかけられながらもにこやかに対応しつつ、一際輝くように彼女はそこに居た。


 宮崎愛華みやざきまなか。人気のスーパーアイドルで青髪ツインテ。主人公と同じく孤児院に住んでいるので幼馴染。ちなみに『サイハ』のストーリーでお姫様の方のヒロインが聖女様と見せかけて、実は愛華が聖女だった。なんて展開になったりする重要人物だ。……そして、その隣にいるキャラクリ前のデフォルトっぽいイケメンは……。


「毎度毎度愛華は人気だね……。僕だったら四六時中注目されるなんて耐えられないよ……ハァ、孤児院の皆に会いたい」


「ああ、もう! 勇獅! 折角の入学初日なんだからシャキッとしなさいシャキッと! それにね! 視線なんて気にするから恥ずかしくなるのよ! もっとこう堂々とすれば気にならないってば」


「が、ガンバリマース」


 なんてやり取りの後に愛華に背中を叩かれて痛そうにしているアイツの名前は神田勇獅かんだたけし。どうやらゲーム内でのデフォルトネームのままらしい。名字だけ違ったりしなければだけど。彼を言い表すならば優柔不断、モブ顔とイケメンの奇跡の両立、おい朴念仁そこ変われとよく言われるようなキャラ、かな。まあありがちなギャルゲー主人公だ。前述した前世邪神を倒した勇者様な主人公である。


 そんな彼らを尻目に僕が掲示板で自分の番号を見つけ、そそくさと主人公組から逃げ出そうとしたその時、誰かに右腕を掴まれる。


「ね、ねえ。もしかして、なんだけどさ。ヒロ君?」


 ……あれ、おかしいな。僕の事ヒロなんてニックネームで呼ぶの、引っ越した幼馴染か親友だし……。いや、けど尚更おかしいな。今の声、完全に愛華だったぞ? 前世で何度も聞いた声なんだから聞き間違う事なんて無いし……。そう思い後ろを向いた瞬間、何かにタックルされた。


「やっぱりヒロ君だッ! ずっと前から会いたかった!!」


「へぶるッ!?」


 その何かは、このゲームのメインヒロインであらせられる愛華様でした。なんでやねん。






「ねえねえ覚えていない!? 昔よくヒロ君の家に遊びに行かせて貰ってた愛華だよ!」


 えー現在、僕の目には前世やってたギャルゲーのメインヒロイン様が幼馴染を自称しているという、なんとも形容しがたい光景が広がっております。


 ふむ、これがメインストーリーにガンガン関りたい系転生者なら兎も角、僕はそこそこのダンジョンで楽に稼ぎたくても、死にたいわけじゃない。よし、よくわからないが誤魔化そう。


「え、えっとどなたですか? たぶん何かの間違いだと思うよ? だって僕とは初対面」


「タンスの右端の小さくなって着なくなった服の中、週刊」


「わーッ! わーッ! わーッ! 言わなくて良い! 言わなくて良いからッ! あ、そうだそうだ! 昔、良く一緒に遊んでましたッ!」


 なんてこった、即落ち二コマかよ。しかも昔のお宝本の場所までバレテーラ。え、つまりは……。


「た、確か両親が仲が悪くていつも家に遊びに来てた、お隣の一橋さん?」


「そうだけど、昔みたいに名前で呼んでよ……もぅ。それと、引っ越した後にお父さんとお母さんが事故で死んじゃったから今は宮崎ね! アレ? なんか昔と目の色違う?」


 なんで気がつかないかなぁ、昔の僕……。


「えぇ……」


 やっと会えた。と言いながら中々の双丘を押しつけ抱きつく彼女に対し、僕はただ周りからの殺気と、主人公サマからの刺すような視線を肌で感じため息をついた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 お久しぶりです! 荒星です! 色々あって長いこと小説書けなかったんですけど再開します! 前のはプロットが中途半端だった上にデータの海に消えてサルベージ不能になったので新連載って事で許して許して……。ただ今回のは完結までキチっとプロット書き上げて伏線も仕込んだ上に、ちゃんと保存してあるんで安心してください!多分2日~3日ペースで上げてくのでよろしくです!

 

 

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