Arcana

目蛾遺体

第1話儚い魔女


「はぁはぁ…痛いなぁ…」路地裏に逃げ込み、ゴミ箱の裏に隠れていた。

 脇腹に刺さったナイフを抜き、投げ捨てる。

魔女の子供だからという理由で指名手配までされるようになった。

 私が何をしたと言うのだろう、ただこの世に生まれただけなのに、何とも理不尽だ。

 もうすぐ死ぬからだろうか、卑屈な考え方をしてしまった、だがもう無理だ、この傷の深さは助からないだろう、魔女の魔法やらを使ったら治るだろうが、生憎、魔女の子供だからといって魔法が使える訳じゃない。

「最後に彼氏でもできたらよかったのになぁ…」半笑いで言った。

 意識が遠のく、ここら辺で終わりなようだ、来世はもっとまともな人生を送らせてください、神様。

¿

「…うるさい」

 なんだろうと、小窓のカーテンを開ける。

「魔女狩りか…」憂鬱な気分になりながら、布団から出て冷蔵庫の中身を確認する。

「たまごと牛乳が無いな…買いに行かないと」この時期に外に出ては危険だ、一般人も魔女と疑われ、殺害される、はた迷惑なことだ。

着ていたキャミソールを脱ぎ、私服に着替える。用事が無くても着替えないとなぜか落ち着かないのだ。

 バァァン!!!!!

私の家の近くで爆発音がした。

「思ったより近いな」着ていた私服を脱ぎ、キャミソールにまた着替える。

「なんか、服着るのもめんどくさい…」

着かけのキャミソールを無視し、ベットに潜り込む。

 パリンッ!!

小窓が割れた、気分よく寝ようとしていたのに、小窓から顔を出し下を見下ろす。

「あそこにいるのは、魔女の家系の人か…可哀想に」

 なぜ分かったのか、それは鎖骨辺りにあるアザだ、形ごとに能力が違う、例えば炎の形をしたアザが鎖骨に出たのなら、炎系の能力だ。

 1番少ないのは氷、正確に言うと、1人しか確認できていないのだ。

 氷の魔女の一族は生まれた瞬間死ぬか、殺される。

 体が氷の能力に適応できない、適応できても危険と判断され、殺される。

 その魔女は憐憫の魔女と憐れみの目を向けられている。

「キャミソールはやっぱり慣れない…」

?

「はぁはぁはぁ…やめてくれませんか…?いやらしい目で見るの」私はギリギリ意識を保った、保ったのはいいが、逃げ場を無くし、追い詰められてしまった…

「ほほぉ、上玉じゃねぇか!」その中に聖騎士が1人。

 しかも、魔女専門部隊の隊長だ。

「私1人に隊長が出てくるんですね…」私一人じゃ勝てない、いや、この王国の魔女全員でも勝てない。

 20年前、魔女の中でも最強と呼ばれた、炎の魔女を単独で撃破した男なのだ、そんな化け物が私を殺そうだなんて…

「そりゃそうだろ、この世で1番危険な魔女、雷の魔女の子供なんだからなぁ!紹介が遅れたな俺の名前はエルセルってんだ、お前は?」

「エセナ…」この世で1番危険な魔女は氷だ、まぁ存在するかどうかも怪しいぐらいだから、この表現も間違ってはいない。

「おい、魔女の奴隷化って今月何回できるんだ?」体を舐め回す様にこちらを見てくる。

「こ、今月の奴隷化は後2回です!」

「 んじゃ、こいつを捕まえたら好きにしていいぞ」

「まじっすか!!!」

 ¿

家の下から少女の叫び声が聞こえる。

「助けてっ!」小窓では全体が見えなかった為、ベランダに行き、ベランダから少しだけ身を乗り出して、少女を見ていた。

「可哀想だな…」私が助ける義理は無い。

 助けたら助けたで私が魔女だとバレてしまう。

 追われるのはめんどくさいし、平穏に暮らせない。だから助けない。あの子が死んでも私には関係ない。

踵を返す様に、部屋に戻ろうとした。「もう…やだよ…お母さん…魔女の子供ってだけで…こんなの」泣き声が聞こえた、私もそんな事があったなと思い出した。

「はぁ…仕方ない…」ベランダから身を乗り出し、少女の前に着地した。

「な、なに…?」泣き顔が凄く可愛かった、涙ボクロが印象的だ、胸も大きいし綺麗な太ももをしている、これは襲ってしまうのも無理はない…か。

「聖騎士団がこんな事してるなんて、最低ね」

「あぁん?誰だお前、こいつの仲間か?空きはあるんだ、お前も奴隷にしてやるよ!」

「お姉さん逃げて!あいつは魔女専門部隊の隊長なんだよ?噂ぐらい聞いた事あるでしょ!一般人じゃ勝てないよ!」この状況で自分より他人の心配か…いい子に育ってるようだ。

「私はお姉さんと言われるほどの歳じゃないよ、まだ17歳だ」

「敵に背を向けるとは馬鹿め!」

「…グラキエス」

?

 目の前が真っ青になった、あの魔女専門部隊隊長、エルセルも氷漬けにされている。

「え、え?何が起きて…氷?」

「あっ範囲ミスっちゃった…」

「お姉さん何者なの…」氷の魔女がこんな少女だなんて、ありえない。精霊の能力か?けど精霊は見えない。

「お姉さんじゃない、エーデル・ヴァイスだよ、本当の名前は、ルーナ・レクス」

「私は、エセナ…ありがとう、助けてくれて」感謝の意を伝え、急いで逃げた、この人に迷惑をかけたくないからだ。

「待って」呼び止められた。

「は、はい?」

「私は君に一目惚れした、私の家においで」

「えぇぇぇぇ!!!!!」なんやかんやあり、エーデルの部屋にお邪魔させてもらった。

 いい匂いだ、落ち着いた雰囲気を覚える。

「ところでさっきの事は誰にも言わないでね、平穏に暮らしたいからの…」

「じゃ、なんで私を助けたの?」

「同情かな…?」随分はっきり言うな…

「私は君を助けたんだ、礼はしてもらうよ」

 エーデルは私の前まで詰め寄り、ベッドに押し倒した。

「え!?ちょっと…///」

「綺麗だ、エセナ」エーデルは、綺麗な白い髪をしている、美人だ、儚いと言う言葉が1番合うのだろう、大きい胸にと色白な肌、飲み込まれそうな青い目。「ほんとに綺麗…」さっきの事なんて忘れてしまった。

「エセナ、大丈夫だから、身を委ねて…」

 私は抵抗出来なかった、いやしようとしなかった、なぜなら私は……完全に一目惚れをしてしまった。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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