学園天国

結丸

第1話

 それはなんてことの無い箱だった。

 安い段ボール素材で作られた箱。その中に入っているのは人数分の紙。

 紙に書かれているのは、1から順に振られた数字だけだ。

 しかしその数字は、引いた人間のこれから1か月、あるいは数か月にわたる運命を左右するものだった。

 恋する者、遊びに勤しむ者、睡魔に身を委ねる人間ですら、その紙切れに祈りをささげる。

 多くの人間の心を揺さぶるその箱とは。


「うわー! ロイヤル席(教卓の真正面)来た! 授業中寝れねえ!」

「えー、また同じ席なんだけど」

「やった、〇〇君の隣の席!」

「一番後ろの席だ、さぼって遊べる!」


 ずばり、学校の席替えのくじ引き箱だ。


 自分の新たな席に大騒ぎする中学生。

 それを見ながら、担任はやれやれとため息をついた。

 たった1か月そこらの席順で、よくもまああそこまで騒げるものだ。

 そういえば昔そんな歌があった気がするなあ、なんて考えながら見守る。


 しかも彼らは、くじ引きの運に身を任せるだけではない。

 くじを引き終わったら、今度は交渉が始まるのだ。


「なあ、俺目が悪いから、席代わってくれねえ?」

「私背が低いから、後ろだと見えないんだよね。交換しない?」

「確か1番後ろがいいって言ってたよね? 替えようよ」


 さまざまな理由をつけて行われる数字交換。

 少しでも自分の狙った席に近づこうと、皆が必死だ。

 しかし教卓の目の前、つまり授業中もっとも教師に注目されやすい席(通称ロイヤル席)はどうにも人気がない。当たってしまった生徒は取り換えることもできず、他の人に慰められるだけだった。

 教室内でさまざまな交渉が行われた末に座席が決定する。

 黒板にそれぞれが名前を書き、最後にそれを学級委員が記録して、ついに席替えは終了した。


 最後に数字の紙を回収して箱を預かる。

 毎月大騒ぎに付き合わされるくじ引き箱。文句も言わず、もくもくと数字を吐き出し続けるその箱を、担任はそっと撫でた。

 また来月もよろしく頼む、と念を込めて。

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学園天国 結丸 @rakake

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