第18話 大将戦
カヴォロスは右腕を眼前に掲げ、
「中で刃が折れていたりしても知らんぞ」
「あんたこそ、骨まで砕けてなけりゃあいいがな!」
カヴォロスが大太刀を振り払おうとするのと、辰真が剣を退くのは同時だった。空振りで若干前傾姿勢を余儀なくされたカヴォロスへ、辰真は返す刃で斬り上げる。
これをカヴォロスは左手で掴み取り、受け止めた。そのまま大太刀を支点にするかのように飛び蹴りを放つ。辰真は大太刀から離した右手一つでこれを防ぐ。間一髪、カヴォロスの蹴りは辰真のこめかみにまで迫っていた。
「危ねぇ危ねぇ」
「その割には、余裕があるようだが?」
互いの押し合う力が拮抗し、膠着する。一瞬か、それとも永遠か。果て無い競り合いに見切りを付け、二人は身を翻して大きく間合いを離す。
「剣を抜け。これ以上は侮辱と見做して容赦なく叩き潰す」
「そうかい。なら――」
辰真はそろりと刀を抜いた。やけにゆっくりとした動作に、カヴォロスは時間が止まったかのような錯覚を覚えた。
「――後悔するなよ」
銀色に煌めく刃の切っ先が、カヴォロスへ向けられる。瞬間、カヴォロスは目を見開き、後ずさった。すぐさま構え直すが、カヴォロスは右手が震えているのを感じた。
なんだ、今のは。大太刀を抜き放った途端、辰真が眼前にまで迫って来たような感覚に襲われた。もちろん、辰真は今の位置から一歩たりとも動いてはいない。彼は抜身の刀を手に、ただその場に立っているだけだ。何かしらの構えすら取っていない。
カヴォロスは震える拳を握り締め――笑みを浮かべた。まさか、この四魔神将カヴォロスを一歩退かせるほどの圧を放てる者がいるとは。刀を抜く事で強まるのか、抜いたと同時に本気を出したのかは分からないが、カヴォロスですら身震いするほどの圧だ。これまで、彼奴が刀を抜いただけでどれだけの者が屈し、どれだけの者が死んでいったのだろうか。
「辰真、と言ったな」
「ああ」
「その名前、覚えておこう。正直、今のこの世界に、これほどの者がいるとは思っていなかった」
「そいつぁ結構だ。こっちこそ礼を言うぜ。こいつを抜いてもまともに立ってられる手合いは久し振りだ」
二人は笑い合う。不敵に、力強く、相対する敵に対しての最大の敬意を払うかのように。
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