第13話 村の少年

「それで、エルク。この気配は知り合いか?」

「お気付きでしたか。紹介しましょう。ベルカ!」

「お呼びですか、エルク様」


 エルクが名を呼ぶや否や、木の上から声と共に一人の少年が現れた。速いな、とカヴォロスは胸中で感心する。気配はかなり離れた所にあったと思ったのだが。


「こちらはベルカ。この先の村に住んでいる子供です」


 ざっくばらんに切られた焦げ茶色の髪、あどけなさがありながらも凛とした顔立ちの少年である。年は13、4くらいだろうか。安手の布の服を纏い、背には弓矢を携えている。


 彼はエルクの紹介に預かると、佇まいを直してカヴォロスへ頭を下げた。


「ベルカと申します。よろしくお願い致します」

竜成たつなりだ。よろしく頼む。こっちは結花ゆか

「よ、よろしくね」


 ベルカは結花にも頭を下げる。


「にしても、俺が怖くないんだな」


 魔族であるカヴォロスを前にしていても、このベルカと言う少年は平然としている。


「肝が据わっているでしょう? 弓の腕もよく、この任務が終わったら私の小姓に迎え入れようと思っているくらいです」

「ほう……」


 腕がいいのは確かだ。先程の気配だけでカヴォロスはそれを察していた。気配の絶ち方も巧みで、カヴォロス程の者でなければ気付きもしない程だ。


「それで、こんな所までどうした?」

「はい、エルク様のお帰りが遅いので、様子を見に来ました。しかし申し訳ございません。エルク様はともかく、お二人のために馬を連れてこればよかったですね」

「ちょっと待て、ベルカ。私はともかくとはなんだ」


 口を挟むエルクに、ベルカは何も悪びれた様子もなく首を傾げる。


「何か問題がありましたか?」

「あるに決まっているだろう。私だって立派な客人だぞ?」

「……成程、つまりはあんな下手な詩しか歌えない吟遊詩人のクセに、客として持て成せ、ということですね」

「下手なのか」


 すかさず訊ねたカヴォロスに、ベルカは粛々と頷く。


「聴かない方がいいですよ。耳が腐りますから」

「そこまで言われては黙っていられないな。竜成殿、結花殿、私の名誉の為にも、どうか一曲お付き合いください」


 と、エルクは荷物の中からハープを取り出し、弾き始める。音色は美しく、心地よく響くものであった、のだが。


 演奏が終わると、ベルカがこう言った。


「……エルク様の名誉の為に言っておきますが、演奏だけは上手いんです。演奏だけは」


 エルクが歌い始めた瞬間、ベルカは両耳を塞ぎ、カヴォロスと結花は悶絶し、挙句の果てには銀狼がエルクに襲い掛かろうとした為、エルクはそこで演奏を止めたのだ。


 美丈夫の意外な短所を見て、カヴォロスは溜め息を吐きたくなった。

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