【長編】黒曜の聖騎士〜勇者召喚に巻き込まれた俺、実はかつての最強魔族〜【連載中】

椰子カナタ

第一部

第一章 そして、時と空間を越えて

第1話 かつての戦い

 魔王城を進む、一人の少女の姿があった。燃えるような赤い髪が特徴的な彼女の名は、ララファエル・オルグラッド。魔王を倒すべくこの世界に召喚された、今代の勇者である。

 手にする剣は聖剣リュミエール・リーンフォース。この世界でただ一つ、魔王を打倒することができると伝えられる光の剣だ。


 立ちはだかる魔物たちを斬り捨てては前に進む。駆け抜ける。その先に見えてきたのは玉座の間に通じる扉。

 だが扉を前にして、ララファエルの足が止まる。


「……四魔神将よんましんしょう、カヴォロス!」

「よくぞここまできた、勇者よ」


 扉の前には一人の男が立っていた。額から生える猛々しい一本角、白銀に煌めく鱗を湛えた肌、漆黒の鎧が特徴的な壮年の男だ。

 この男こそ魔王軍最強とも謳われる猛将にして魔龍族まりゅうぞくの長、四魔神将カヴォロスである。


「どいて、カヴォロス。あなたのご主人様が何をしようとしているのか、わかっているの?」

「我らに問答は不要。ただ拳で語るのみ」


 カヴォロスはマントを外し、投げ捨てる。腰を深く落とし、構える。


「カヴォロス!!」

「わからないか? 人と我らは決して交わらない。人の世に我らの居場所はないのだ」


 ララファエルの必死の呼びかけにも、カヴォロスは顔色一つ変えることなく淡々と答えるのみ。ララファエルを真っ直ぐに射抜くその瞳に、一切の驕りなし。ただ戦士として戦うことを求める男の顔だった。


「……そう。わかったわ。なら、決着を付けましょう」


 対するララファエルも覚悟を決め、剣を構えた。


「その意気やよし。――四魔神将カヴォロス、推して参る」


 神速。それは本当に剣と拳の激突音なのか。響き渡る轟音が城壁を揺らし、大気を震撼させる。

 幾度もの激突を越え、カヴォロスが後退する。膝を突く彼の脇腹は聖剣の刃によって抉られていた。


「次で終わりにしましょう。それとも、いい加減そこをどいてくれるのかしら」

「できぬ。何があろうと、貴様を陛下の元へ行かせるわけにはいかんのだ」


 交錯する視線が違えることはなかった。敵同士であるはずの彼らは、ある意味で完全に分かり合っていた。


 どちらかが命を落とすまで、この戦いは終わらないのだと。


 聖剣を振り翳し、ララファエルはカヴォロスに向かって疾駆する。対するカヴォロスは、腰を深く落として構え直し、ララファエルを迎え撃つ。

 ララファエルとカヴォロスの位置が入れ替わる。


「見事」

「ありがとう、カヴォロス。あなたがいなければ、私はここまで強くなれなかった」


 ――時に、アルド王国歴130年。四魔神将カヴォロス、ここに散る。

 その後、勇者は魔王を討ち、世界に平穏がもたらされたのであった。

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