箱庭の箱庭

七霧 孝平

小さな己

「フフフ……いいぞ、小人達よ。俺の箱の中で踊れ」


男が水槽のような箱をのぞき込む。

箱の中は村のようになっていて、小さな人間が住んでいた。


『小人(こびと)族』


突如、世界に出現した、人間の手のひらよりさらに小さな生き物。

小人族に干渉しないもの、小人族をペットのように飼うもの。

そして男は……小人族の神になったつもりでいた。


男は、小人族の住処を丸々水槽のような箱に移し替えた。

そこで小人族の生態を観察しているのである。


だが、ただ観察するだけではつまらない。

ときには、実験用のネズミを放り込み小人族と争わせ、

ときには、箱を揺らし小人族の慌てふためく様子を楽しんだり、

はっきり言って趣味がいいとは言えなかった。


そんな男も普段はただの会社員だ。

朝、目覚め、朝食を食べ、仕事の用意をして出かける。

そんな毎日だ。


「……ん?」


快晴の空が一瞬、暗い影に覆われた気がしたように男は感じた。

だが周りの人たちは普通に日常を歩いている。


「気のせいか……」


男はそのままいつものように会社に行き、仕事をこなし、昼休みに入る。

その時、男の会社のビルが少し揺れた。


「おっと、地震か。この頃多いな」


だがそれもいつもの日常のように、男は夜まで仕事をこなす。

残業し夜遅くなった男は愚痴りながらも帰路につく。これもいつもの日常。


「さて、小人達はっと」


アパートの扉を開け、部屋に入るとそこは。


「ありゃ!?」


地震のせいか、アパートに置いていた小人の水槽は横になっていた。

当然小人達は水槽の箱から抜け出し、どこかへ消えている。


「あーあ、俺の楽しみの小人観察が――」


その時だった。再び地面が揺れだした。


「おっとと!? 昼の地震よりでかいな!?」


男は壁に捕まり地震に耐える。その揺れはしばらく続いた。


「ふう。収まったか……。って、ん!?」


男は窓の外を見る。

外は世界が横になったように傾いている。


「ど、どういうことだ!?」


男は慌ててアパートの外に出る。

そこはまるで、男のアパートにあった水槽のようであった。

箱の中身が崩れ落ちたかのように、アパート周りが崩れていた。

そして――


「あ、ああ……」


男を見下ろすように、巨大な人間の目があった。

箱の中の小人は小人族ではなく、男自身だった……。




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箱庭の箱庭 七霧 孝平 @kouhei-game

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