第20話 依頼達成

――開店2日目。


 昨日の忙しさが嘘のようにお客様の流れが緩やかだった。

 店内の広さ的に最大30名程度は余裕で入れる。

 昨日は常に満員だったけど今日は15名程度が入れ替わりで入店している感じだ。


 その為、皆も余裕の有る接客を行っていた。

 リアナ先輩も今日は製造業務に入り、僕の横で店舗販売分の在庫補充を行っていた。

 僕は国から依頼を受けた商品を集中的に造っていた。


「流石に昨日ほど混んで無いね」

「そうですね。皆、昨日は後半腐敗生命種ゾンビみたいになってましたからね」

「それは言い過ぎ! ……でも笑える」


 僕はリアナ先輩と話しをしながら武器を作製していると、店内をうろついていたスピカがやって来た。

 そして、何やら不敵なドヤ顔をしている。

 こういう顔をしている時はこちらから「どうしたんだ?」と聞かないと、僕が聞くまで目線を合わせてウロウロと周囲を練り歩き続ける……非常に面倒くさいのだ。

 一緒に過ごす時間が長くなり、だんだんスピカの行動パターンが読めるようになって来た。

 本当に可愛いヤツだ。


「どうしたんだ? 何か良い事でも有ったのか?」


 僕はいつものように何くわぬ顔でスピカに問い掛ける。

 スピカは「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに目を輝かせ鼻をフフンと鳴らし話し始めた。


「ラルク! お前の造った1文字ロングソードな、俺様の巧みな話術で売ってやったぜ! どうだ! 凄いだろ! 褒めても良いんだぜ!!」


 1番安い商品を売ってドヤ顔で自慢して来る。

 安価で売れ筋だから接客をしなくても勝手に売れている商品なんだけどな……。

 しかし、目の前のスピカの褒めて欲しそうなキラキラした瞳を見ると邪険には出来ない。


「凄いな、流石はスピカ! 次はあの1番高いグラディウスをスピカの可愛さを活かして頼むよ!」


 全部で5本造ったミスリル鉱グラディウスは、昨日2本売れて在庫は残り3本。

 高額商品なのでそうポンポンと売れない、むしろ2本売れたのが凄いとさえ思う。

 可愛いと言う言葉に反応し、目を見開き耳をピンと立てる。

 これはスピカが嬉しい時に自然と出る仕草だ。


「……おうよ! 俺様に任せとけ!! 店の在庫全部売ってやるぜ!リアナ! 怠けずに造れよ!」

「怠けないし!! ったく! でも、期待してるよスピカ!」

「おう! 任せとけ!!」


 リアナ先輩の激励を受け、スピカは上機嫌で店内に戻って行った。

 ……ふふふっ、チョロ可愛いヤツ。

 実際、喋る黒猫という希少種のスピカは街の住民だけではなく、冒険者達にも人気が高かった。


 その後、2人で武器を作製していると裏口の方からレヴィンが訪ねて来た。


「やぁ、ラルクにリアナさん。開店おめでとう!昨日は済まなかった、忙しくて顔を出せなかったんだ」


「忙しい所わざわざ顔を出してくれてありがとう。おかげさまで結構繁盛してるよ」


 開店日当日、レヴィンは護衛の仕事で抜ける事ができなかったらしい。

 しかし今日は時間を割いてわざわざ激励に来てくれたようだ。


「レヴィンさん、お疲れ様です。昨日は行列整理の為に衛兵を派遣して頂いてありがとうございました」


「いえ、僕は口添えをしただけなので。うん? これは国の依頼の品かい?」


 レヴィンは出来上がったミスリル鉱グラディウスを手に取り興味深そうに眺めていた。

 そういえば、このルーングラディウスは騎士団に支給されるって書状に書いて有ったな。

 そうか、この武器はレヴィンの部下が使う事になるんだ。


「うん、僕が責任を持って造らせて貰うよ」

「期待しているよ、ラルク」


 レヴィンの期待が口調から伝わって来る。

 普段色々とお世話になっている分、こういう機会に恩を返していきたい。

 そう思っていると、僕の横にいたリアナ先輩がしきりに「てぇてぇ、てぇてぇ……」と頬を高揚させて呟いていた。

 その時、何故か先輩の集中が途切れたのか、不意に「バキンッ」と音を立てて造っていた2文字刻みのロングソードが壊れてしまった。

 そして、先輩は「あ”あ”あ”あ”……」と泣きながら項垂れていた。

 ……何を考えていたか分からないけど、先輩どんまい!


 しばらく話をしていると騎士がレヴィンを訪ねて工房を訪れた、どうやら彼を迎えに来たようだ。

 そしてレヴィンは短い休憩を終えて騎士と共に仕事へと戻って行った。


 その後も僕と先輩はルーン武器を造り続けた。

 結局、僕はルーングラディウスを本日4本作成し、合計で10本完成した。

 実質2日間くらいで10本完成できたのは、結構良いペースだと思う。


 店舗の方では皆が丁寧な接客を心がけ、昨日ほどでは無いが高い売上を記録していた。

 そして閉店時間となり2日目も滞り無く終わった。

 ちなみに本日の売上は895万ゴールド、4文字刻みのミスリル鋼グラディウスが1本売れたのが大きく貢献した。

 ちなみにスピカが休憩所で昼食を食べているうちに売れたらしく、泣いて悔しがっていた。


 その後もスピカは250万のルーングラディウスを売ろうと奮闘していた。

 しかし冷静さを欠いて、脅しに近い接客を始めていたのでカルディナ先輩から強制退場させられていた。

 そして、ふてくされたスピカは僕の頭の上で力無く項垂れていた。

 ……スピカ、どんまい!



 ――開店3日目。



 今日はネイが訪ねて来た。

 彼女と出会うのは実に2週間ぶりだった。

 毎回最初に聞かれるのは「元気? 風邪ひいてない?」と母親のような言葉だ。

 しかし、その台詞を聞くと凄くホッとする自分がいた。


 今日も今日とて僕とリアナ先輩はルーン武器を造り続けていた。

 ネイは僕の真正面に座りジッーーっと僕の作業を眺めていた。

 お昼時になると、あらかじめ造って来た手造り弁当を木製のスプーンで口元に差し出す。

 先輩がいる手前、気恥ずかしくて「切りが良い所で終わって自分で食べるよ」と言うと、無言で首を横にふり「……むぅ!」と少し怒った表情をする。

 それが少し申し訳なくて、僕は諦めてされるがままに食べさせて貰っていた。


 そして今日もリアナ先輩が「てぇてぇ……」と呟いていた。

 その時、「バキンッ」と音を立てて造っていた2文字刻みのロングソードが壊れ、またしても先輩は「あ”あ”あ”あ”……」と泣きながら項垂れていた。

 ……少しだけ、この先輩が不憫でならない。


 2日目よりもお客様の入りが少なく、余裕になった店内から先輩達が見学という名のサボりに工房へ入って来た。

 昼食を食べさせて貰っている僕を見て男の先輩達は嫉妬と羨望の眼差し、女性の先輩からは「赤ちゃんみたいで可愛い」とか「ラブラブねぇ」と揶揄からかわれる始末。

 僕はこの状況が非常に恥ずかしいのだけれど、ネイは全く気にして無いのが不思議でならない。

 意識して恥ずかしがっている僕が異端者なのだろうか?

 ……と最近思い始めていた。


 先輩達はネイの真似をして、わざわざ自分の昼食を僕に食わせようとしてきた。

 正直、面倒くさいな……と思いつつ先輩達の「あ~ん」を見たネイがどんな反応するか気になり悪戯に付き合ってみる事にした。

 アーシェ先輩とセナ先輩が面白がって僕に食べさせてもネイは反応する事無く、むしろ男が食べさせようとすると物凄い勢いで邪魔していた。

 彼女の許す基準が良く分からないけれど、女性への嫉妬ではなさそうなので少し残念に思ってしまった。


 夕方になると彼女は王宮に定期報告に出かけ、夜には再度ワイバーンに乗って聖域へと帰って行った。

 徒歩で5日間の距離もワイバーンだと3時間で行き来出来るらしい。

 報告のついでとは言え、久しぶりにネイに会えたのは素直に嬉しかった。

 しかし終始ニヤニヤしている先輩達はかなりウザかった。


 開店3日目も終わり、「新装開店セール期間お疲れ様会」が行われた。


「皆、今日まで開店応援に来て下さってありがとうございます! 今日の売上を含めて3日間で3195万ゴールドとなりました!」


 え~と……

 1日目:1960万ゴールド

 2日目:895万ゴールド

 3日目:340万ゴールド

 こんな感じか、改めて本当に凄いなと思う。

 今日は客数も落ち着いて、体力的に余裕のある皆は売上結果に狂喜乱舞していた。


「うおおおぉぉ! すげぇ!」

「カルディナ! 後で現金を見せて!!」

「追加アルバイト代は期待しても良いですか?」

「夢があるな……俺もルーン技術を学ぼうかな?」

「ロジェがするなら私も♪」

「なんか自分が金持ちになった気分だぜ!」


 開店応援は今日で終了し、明日から皆は通常業務に戻る予定だ。

 ジャン先輩とロジェ先輩は本気でルーン技術に興味が湧いたようで、セロ社長に部署移動をして貰えるように聞いてみると話していた。

 こうして慌ただしかった3日間の新装開店セールは幕を閉じたのだった。



◇◇◆◇◇◇



 ――中央広場ルーン工房が開店してから2週間が経った。


 僕は6人の部下に完成したルーン武器を持たせ、応接室で宰相トウザ様と軍務大の臣グレイス様に報告書を提出していた。

 グレイス大臣は貴族で有りながら「S+級冒険者」でも有り、剣術においてはこの国最強という肩書を持っている実力者だ。

 その隆起した野太い筋肉は、制服の下からでも分かる程だ。

 普段は抑えているが、並みの冒険者なら睨むだけで腰を抜かすほどの雰囲気を放っている。

 大臣の実娘が僕の師という事もあり、孫のように可愛がってくれていた。


 今日はセロ商会ルーン工房に依頼していた武器の完成品を受け取り、納品する役目を担っていた。

 ルーンが3文字刻まれたミスリル鉱ルーングラディウス30本、ミスリル鉱ルーンワンド30本を部下が丁寧に机に並べる。

 そして役目を終えた部下達は部屋を退出し、通常業務へと戻って行った。

 ラルクに関係する話をする場合、必ず人払いを行う事をトウザ宰相が徹底していた。


 グレイス大臣は剣を手に取り、魔力マナを込めるとルーン文字が見事に赤く輝き始める。

 その単純な動作だけで、戦場に出る事の無いトウザ宰相でも感じる程に部屋の雰囲気がガラッと変わる。

 歳を重ねて尚もこれ程とは……大臣を引退してもらい、僕を鍛え直していただきたいものだ。


 グレイス大臣は1品1品丁寧に性能チェックを行う。

 提出前に僕も予め確認したが全て出来の良い完成品だったので問題無いはずだ。


「ほう!確かに見事な出来だな、これなら騎士団も強化が期待できそうだ。どれ、ワンドも……うむ、どちらも一級品と言っても差し支えない出来栄えだ」


 グレイス大臣のお墨付きを貰った事でトウザ宰相も納得する。

 友人が造った品が国の重鎮に高評価を貰えたのは少し誇らしい。


「セロ商会より届いた2週間分の売上と収支報告も確認したが、他国への輸出の割合を増やせば税収も期待できそうだな」


 セロ商会の国への税収貢献度が増すのでトウザ宰相も頬を緩ませているようだった。

 予想されるタロス国との貿易摩擦に対する協議は、トウザ宰相が上手く調整してくれるだろう。

 しばらくは輸出制限をかけて、国内流通中心での販売を指示するだろう。


「しかし3人掛かりとは言え、2週間でこの物量を完璧に造るとは見事だな」

「うむ、さぞ睡眠時間を削って頑張ったのであろう」


 もともと2ヶ月という期間を設けていたのに、まさか2週間で完成するとは思って無かっただろう。

 しかも、トウザ宰相とグレイス大臣は3人で作成したと思っているようだ。


「……いえ、それは違います」


 僕は武器の出来に関心している2人の言葉を否定する。

 トウザ宰相とグレイス大臣は何に対する否定か分からずに聞き返して来た。


「それは、……ラルクが全て1人で造りました」


 神妙な面持ちの僕に対して、2人は少しだけ驚きの表情を見せる。

 多分……いや、確実に僕の言葉が信じられないといった表情だ。


「以前、ルーン技術の事を少し調べたが1文字を刻むのに2時間、3文字だと8時間程度はかかると書いておったぞ。1人で造ったのなら2週間不眠で、しかも1本当たり5時間半で造らないと計算が合わないではないか?」


「ええ、常人ならその計算で間違いありません。……しかし制作者が天賦の才を持ち、それを最大限に活かす事のできる施設で造ったとしたらどうでしょうか?」


 信じられないのも無理は無い。

 国の重鎮達が思わせぶりな僕の質問に息を飲む。

 僕は少し間を置いて、真実を語る。


「……彼は3文字刻み程度なら1本当たり3時間で刻めます」


「なっ!? 何を馬鹿な事を! そんな事が有るはずがない!」


 僕の発言が虚偽だとトウザ宰相が叫び否定する。

 隣のグレイス大臣は僕の目を見つめ審議を確かめているようだった。


「宰相殿。どうやらレヴィン殿は嘘を言っている訳ではなさそうだぞ」


 グレイス大臣が豪剣士特有の獣の眼光で僕を試すように見つめる。

 全てを見通すかのような威圧的な眼差し。

 並みの一般兵や新兵卒の騎士なら気圧され動揺するだろう。


「彼は、天才ルーン技師です。もし信じられないようであれば御自分の目で確認してみてはいかがでしょうか?」


 少しだけ生意気な態度だと思ったが、敢えて2人を試すように振舞う。

 事実、目の前の見事なルーン武器がラルクの確かな実力を物語っている。


「くっくく・・ふははは! 面白うそうな話では無いか!ワシも"神の寵愛"を受けた少年に是非会ってみたいぞ!」


 グレイス大臣は豪快に笑い、自身の膝をバンバンと叩く。

 心底面白いモノを見つけた子供のような笑いが部屋に響き渡った。


「グレイス大臣……其方も物好きよのう。では、その件はグレイス大臣にまかせるとする。得体の知れない加護を持つ少年を城に招く訳にはいかんのでな。その目でしかと見届けてきてくれ」


 トウザ宰相は納得がいってない怪訝そうな表情でグレイス大臣に話す。

 そして、業務指示として改めてルーン工房の視察を命じた。


 その後、全ての品質チャックが終了し納品証明書にサインを貰う。

 そしてグレイス大臣の予定を確認しルーン工房を訪問する日時を決めた。


「では、当日は宜しく頼むぞ。レヴィン殿」

「はっ! 約束を取り付け、当日お迎えに上がります!」


 グレイス軍務大臣は近隣国の重鎮、国内の騎士団、衛兵、高位の冒険者等、様々な所に顔が効く。

 ラルクの実力を知って貰えば、何か有った時に後ろ盾になってくれるはずだ。

 僕は改めて挨拶を済ませて城を後にした。


 フフッ……グレイス大臣を連れて行ったらラルクはさぞ驚くだろうな。

 僕は久しく芽生える事のなかった子供っぽい悪戯心に少し胸が躍った。

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