第10話 タロス国魔道具工房
――――船に揺られる事2日間。
丁度正午を迎える頃に巨大な山の聳える大陸、タロス国へと到着した。
島の中央に隆起した巨大な山があり、周囲は森の緑に囲まれた場所だった。
気温は思っていたよりも高く、雪や氷塊は一切見受けられなかった。
座標的に寒冷地のはず、しかし不思議と温暖な気候に感じるのは地熱のせいだとスピカが話す。
船酔い中にタロス国が紹介されていた本を噛り付くように読んでたから、そこで得た知識だろう。
「タロス国グルメ巡り」とか「一押しの隠れた名店!」とか「超食べ歩きの聖典」という食事が中心の雑誌を仕入れて、船酔いの
・・・どんだけ食いしん坊なんだよ。
港で荷物を下ろし準備された荷馬車へと移す。
そして港から馬車で揺られる事約1時間、島のシンボルとなっている大きな山が見えた。
運の良い事にモンスターは出現する事は無く、レヴィンの活躍を見る事は出来なかった。
森林地帯の中央に位置する島のシンボルとしても有名な巨大な山へと到着した。
「おお~!すげぇな!」
「うん、本で見るより壮観だ。」
僕はスピカと一緒に山頂を見上げる。
この島は元々火山活動で出来た島で、中央には噴火の時に隆起した巨大な山とそれを
歴史の教科書によると約250年前に調査が行われて、この島の巨大な火山は"死火山"と判定され、その内部を高位の
この島の電力は周辺の地下を流動するマグマ溜まりを
エネルギー使用量を調整する事で、地震流動や火山活動を制御・抑制しているらしい。
面白い点は、巨大な元火山の内部を
そして、火山の外側が巨大な防壁の役目を担っている訳だ。
入口の関所で入国審査を済ませ、タロス国へと足を踏み入れる。
この国は
確かに入国審査をしていた職員や、街の至る所で浅黒い肌質の黒髪の
この場所なら僕の黒髪も目立たなそうだな。
案外
この都市は元火山内部という場所の為、暑くて暗いイメージが有ったのだけど気候は港よりも涼しく快適だった。
街の内部は結界が張ってあるなとスピカが話す。
照明に関しても上部の噴火口部分だった場所から太陽の光を取り込み、壁の内側の光苔のような物が自然発光して明るく街全体を照らしていた。
「火山の内側から噴火口を見上げるって、なんか不思議だね。」
「標高は800メートルくらいらしい。雰囲気も悪くないだろう?僕も何度か遠征で来た事有るけど、この国の飲物が豊富で美味しいんだ。」
レヴィンは何度か遠征で来ていると話していた。
食事に話しにスピカが喰いつきレヴィンが質問責めにあっていたのは言うまでもない。
道すがら公園のような場所の中央に巨大な銅像が目に入った。
黒衣に身を包み、蛇が二重螺旋を形作り巻き付いた杖を掲げた長髪の
これは伝説の英雄の象らしい。
なんでもこの国の王様は、かの伝説に名を刻む異界の使者"ハーデス様"の血脈らしい。
今は失われた
-シルベール商会 魔道具工房-
「ようこそ、お待ちしておりました。」
街の中でも比較的大きな工房の前に辿り着く、この場所はセロ商会と懇意にしている大手取引先のシルベール商会が経営する魔道具工房だ。
そこで1人の
彼の名前はルドルフ。
僕等が研修する工房を経営している人らしい。
彼の見た目は30歳くらいだが
余談ではあるが、出会ったばかりの頃ネイに年齢を聞いたら65歳と言われ驚いた事があった。
見た目は身長が高めの10代後半といった感じで2、3歳しか違わないと思っていたからだ。
かなり年上だと知って少しばかりショックだった、やはり"ネイさん"と呼ぶべきだろうかと真剣に悩んでしまった。
レヴィンが"ネイ様"と呼んでいたのは年齢による敬意も含まれているのだろうか?
・・・今度聞いてみよう。
まずは荷下ろしからだ。
港で積み込んだ荷物を今度は工房の宿舎と工房へと運び込む作業だ。
総出で荷馬車から工房の倉庫に積荷を下ろしテキパキと検品する。
研修に参加している皆は基礎能力が高く、見ていて動きに無駄が無い。
その後、用意された宿舎の個室に荷物を置き工房内の見学が始まる。
「魔道具工房か!なんだかワクワクするな!なっ!ラルク!」
「スピカは僕より興味がありそうだな、気持ちは分かるけどね。僕も楽しみだ。」
この工房は大きく分けて3つ。
特殊な武器・防具を作成する「ルーン部門」
戦闘に特化した魔道具を作成する「兵器部門」
生活に特化した魔道具を作成する「生活品部門」
今後セロ商会で新しく発足する子会社で実用化する為の技術研修が目的だ。
僕はルーン部門に抜粋されていた。
ルーンと呼ばれる古代文字を刻む事で既存の武器・防具に様々な能力を付与する部門だ。
古代錬金術師が使用していた失われた
どの部門でも手先の器用さと
逆に生活品>兵器>ルーンの順で
その為、出発前に従業員全員の
その結果、ネイの言った通り僕は桁違いの
しかし僕は
簡単に言うと貯水量が異常に大きい入物だけれども、水の出口が異常に細いという
その為、僕はルーン部門に抜擢されたという訳だ。
この場所で基本的な技術研修を行い、タクティカ国で新しい事業を立ち上げると聞いた。
ここに集められた9名のメンバーはその新事業を立ち上げる為の初期メンバーという訳だ。
メンバーも10代から20代前半の比較的若い世代で選抜されている。
最初に訪れたのは生活品部門だ。
「属性石」という特殊素材に1度だけ
例えば属性石に炎の
それを生活用品に組み合わせて加工する事で、実際の炎を使う事無く食物を温める鍋や鉄板が作れるという感じだ。
この部門で求められるのは、斬新なアイディアと高い
次に紹介されたのが兵器部門。
先の属性石を武器や防具に組み合わせ、
主に剣や槍等の武器、より高い性能の防具を造る場所だ。
ここで必要なのは
特に
その為、僕には向かないっぽい。
最後に訪れたのが僕が研修するルーン部門だ。
ここは既存の武器に古代文字と称されるルーン文字を刻み、
最も必要な技能は
基礎魔法が使える人間の
より多くの文字を定着させる事が出来れば、それだけ強い武具が出来上がるらしい。
兵器部門の装備作成と違う点はルーン文字を刻んだ武具は、装備者の身体能力向上や装備者周囲の事象干渉を付与するというモノらしい。
実際に見比べた事が無いので正直違いを理解する事が出来なかった。
各部門の見学が終わり、それぞれのメンバーに別れブリーフィングが始まる。
それぞれメンバー同士テーブルに着き改めて自己紹介をしあう。
ルーン部門:ラルク♂15歳、リアナ♀19歳、カルディナ♀20歳
兵器部門:ボルク♂20歳、クレイン♂22歳、ロジェ♂17歳
生活品部門:アーシェ♀17歳、セナ♀19歳、ジャン♂17歳
皆同僚ではあるけど、タクティカ国出向前に港で初顔合わせした人が多かった。
自分が最年少で周囲が先輩ばかりなので、少し緊張する。
「ラルク君と同じ班なのはラッキーだな。話がしてみたかったんだよね。」
「そうそう、綺麗な黒髪で可愛いし!いつも一緒にいるお喋りする猫ちゃんって名前はなんて言うの?」
「えっと・・・、よろしくお願いします。猫の名前はスピカって言います。」
リアナ先輩は赤みがかったミィディアムボブの明るい性格女性というイメージで、カルディナ先輩は金髪ロングで動物好きな女性のようだ。
2人共会話をするのは初めてだったけど、話し易そうな人達で安心した。
そういえば、さっきまで肩に乗っかっていたスピカの姿が見当たらない。
独りでウロウロして工房の人に迷惑をかけて無いと良いけど。
僕達は今回の研修のカリキュラムを受け取り冊子に目を通す。
えーと、何々・・・。
冊子はルーン部門の作業工程が簡潔に纏められたものだった。
●第一工程 武器・防具の選定
ルーン文字を刻む素材となる武器・防具を選定する。
ルーンを刻む時に予定とする
今回は安価に量産された粗悪品のロングソードを使用する。
●第二工程 特殊溶剤でルーン文字を描く
赤いガーベラから抽出された特殊溶剤で最も効果を発揮する場所にルーン文字を描く。
例えば剣には刀身、鎧には心臓部分。
描いた文字部分が最も効果の高い場所となる。
●第三工程
特殊溶剤で描かれた文字が素材に焼き付くように刻まれて行く。
この時に大量の
文字が刻み終わる前にマナが尽きると素材が劣化するので注意。
※1文字刻み終え、2文字目途中で止めると失敗する。
描いた全ての文字に
1文字目を完成させるのに約2時間、2文字目以降倍々に時間が掛かる。
ルーン文字は全部で25字。
それぞれに意味を持ち、組み合わせる事でより上位の効果を発揮する。
文字数に制限は無く、無限の組み合わせにより完全オリジナルのアイテムが生成出来る。
※一覧と効果は別紙参照。
●注意事項
基本的に同じ文字を連続で刻むと通常の錬成よりも難易度が1ランク上昇する。
文字数が多ければ多い程、必要
※歴史上8文字が最大とされている。
今回の研修では最低2文字刻む事を目標に頑張りましょう。
・・・という事が書かれていた。
なるほど、素人にも分かり易く書いて有る。
単純そうだけど時間が掛かるので、集中力と忍耐力が鍛えられそうだ。
3人で少し話した後、解散となり本日の見学は終了となった。
明日から本格的な研修となる。
よし、頑張ろう!
その後、レヴィンの案内でネイと一緒に都市を回る事となった。
工房を出る時に行方不明だったスピカが戻って来た。
「おいおい!俺様を置いて行くなよ!」
「おかえり、今から皆で夕食を食べに行く所なんだ。」
レヴィンが食事に行くと話すと、スピカの目がピカピカと輝いた。
あの顔は食いしん坊の本領発揮って所だろうか。
「飯か!俺様もいくぞ!」
スピカはレヴィンの肩に飛び乗り、夕食を取る場所について話始めた。
レヴィンは誰とでも親しくなれる人柄の良さを持っていて凄いなと改めて思った。
少しだけ街を歩き、観光客に人気のお店で夕食を食べて工房の宿舎に帰還する。
工房の大浴場に入ろうとした時にスピカが傷に張るシール状の回復薬を銜えて渡して来た。
「うん?何これ。」
「それで隷属の印を隠しとけ。変に勘繰られたくないだろ?」
なるほど、そういえば以前スピカに教えて貰った事がある。
この隷属の印は奴隷との主従関係を魂に刻み込む呪術で、制約を破ると全身から血液が噴き出し絶命するらしい。
想像するだけでもの凄く怖い。
・・・確かに他人に見られたら厄介かも知れない。
今の所、この印を知っているのはスピカとネイだけだ。
あまり気にした事は無かったけど、これからは意識しよう。
「そっか、ありがとう。わざわざ買って来てくれたのか?」
「まぁな。俺様は気が利くだろ?」
スピカは胸を張ってフフンと鼻をならしドヤ顔をする。
「うん、いつもありがとう。スピカ。」
スピカは「エヘン」と言いながら照れているようだ。
この
もしかしてスピカも凄く年上なのかも知れない。
「女に年齢を聞くな!」とか言われそうなので、質問するのは止めておこう。
僕は手早く体を洗い湯舟には浸かる事無く、素早く上がる。
その後、少しだけルーン文字の一覧が書かれた書類に目を通しベッドに潜り込む。
そして僕は明日の研修を楽しみにしながら就寝した。
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