箱姫

もっちゃん(元貴)

玉手箱

俺、宇良島太郎うらしまたろうの妻、姫子ひめこがガンで亡くなって早三年、姫子が大事にしていた箱が、俺の目の前にある。


箱は、昔話にでてくるあの黒い玉手箱みたいな形をしている。


今、俺がいる場所は、姫子と一緒に住んでいたマンションの一室だ。


姫子が大事にしていたから、何が中に入っているか前から気になっていた。


3周忌も終わったので、これを気に開けてみる。


「ふぅー、なんか緊張するな〜」


両手で、上蓋うわぶたを開けると、大量の煙が部屋に充満し始めた。


「ゴホン、ゴホン!!うわぁ!何、この煙‥‥」



とりあえず、近くにある部屋の窓を開けようとするが、鍵が空いているのに、窓が開かない!


「えっ!なんで!」


仕方ない、箱の蓋を閉めようと箱に手を伸ばすと、急に誰かに手を掴まれた。


「うわぁぁ!だれ?誰かいるの!?」



「ひどいなぁー、私のこともう忘れちゃったの?」



あれ?この、聞き慣れた声って!!


急に、煙が徐々に消えて行き見慣れた女性が目の前に現れたのだ。


「姫子!!」


俺は、思わずぎゅっと姫子を強く抱きしめた。



「ちょっと〜、いたいよーー!」



「あっ!ごめん!まさか、また会えるとは思わなかったから‥」



「私も会えてうれしい‥‥けど時間がないの、私がこうやって人間として存在できるのは、たった3分だけなの」



「それって‥‥一体どういうこと?」



「この箱は、私のお父さんが作った死者を3分だけ生きかえることができるものなの、しかも想い人限定で一回きり‥」


なに、その世紀の大発明!スゲェや!でも‥


「一回だけ?そんな!もっと俺は姫子に会いたいよ!」



「私だって何回も会いたいのは一緒よ!でもこの箱はこの世に存在してはいけないのよ、だってこの箱のせいで、お父さんが



「えっ!殺されたって、テレビでは病気で亡くなったって言っていたよ!」


「そうよ、表向きはね‥本当はこの箱の発売する前に情報を目にした過激派に殺されたのよ、死者への冒涜ぼうとくだ!って言ってね!」



そんなことがあったなんて、信じられないが姫子がそう言うなら、本当なんだろう。


「殺した犯人は、捕まっているの?」



「ええ、違う罪で今、刑務所にいるわ、弁護士さんから、もう出てこないときいているわ」



「そうなんだ‥」


そんなイかれた奴なんか一生刑務所にいてもらいたいと思った。


「でも、この箱がある以上、あなたを危険な目に遭うことは避けられないわ!だから私が生きている内に処分したかったけど、できなかった!だって、もうお父さんの遺品はこの箱しかないから‥」


「それって、もしかして勤めていた会社が全部処分してしまったの?」



「うぅぅ‥‥そうなの‥」


泣き始める姫子。



「じゃあ、俺が処分するよ」と言って



—カバッ



姫子をまた抱きしめてしまった。



最初は、驚いた姫子だったが‥



「ありがとう‥」というと俺の胸の中で、嗚咽をしながら泣いたのだった。



しばらく抱きしめていたら、姫子の足元から徐々に消えているのが見え始めた。



「どうやら、もう時間みたいね‥‥」



「嫌だ!姫子と別れたくない!」



また強く抱きしめていた。



「だから、いたいって!!もう、寂しがり屋さんなんだから‥私のこと忘れないでね!」



「忘れるわけがないだろう?俺が愛したのは姫子だけだよ」


俺がそう言うと、胸の中で笑顔の姫子が消えていった。


 

        ◇

翌日



俺は、とある山にいた。



箱を燃やすためだ。


「ふぅー、これだけ枝をもってくればいいかなー」


——バラバラ



集めた枝を箱の周りに、ばら撒いた。



そして、ライターで火をつけた。



だんだんと、箱を燃やしている煙が空に向かっている。



それを見た俺は、その煙に姫子がいる気がして空に向けて、大声を出していた。



「一生、忘れないよ!姫子ーーー!」



         終

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箱姫 もっちゃん(元貴) @moChaN315

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