箱とわたしと生命体
sayaka
◇
これはびっくり箱なのかもしれない。
わたしは開けるのをためらっていた。
立方体の形をした箱には、何枚ものおどろおどろしいお札と蛍光色のガムテープで派手な封印が施されている。
どうして連れて帰ってきてしまったのだろう。
帰り道、草むらにぽつんと佇む箱がどうにも気になってしまい、辺りを見回し誰もいないことを確認してから、実行した。
変な視線を感じていた。
勿論、箱に目がついている筈がないので、これはただの思い込みだろう。
でも、まるで生きているかのような雰囲気があり、不気味というよりもむしろ庇護欲をそそられる。
この箱に名前をつけて、一緒に暮らすことを決意した。
正方形だから、ましかく。
なかなか良い名前だ。
箱もきっと気に入ってくれるだろう。
そっと撫でながら、名前を呼ぶ。
*
翌朝、ましかくはズタズタに切り裂かれていた。
ダンボールの全身に切り傷があり、まわりには蛍光グリーンやイエローのガムテープがくしゃくしゃに丸められている。
ましかくと呼びかけても返事はない。
それにしても、中身は一体何だったのだろう。
部屋の中を見回してもそれらしいものはない。
まさか、空っぽだったとか?
持ち上げたときに確かな重みを感じていたけれど、錯覚だったのかもしれない。今となっては記憶が曖昧すぎていた。
*
それ以来、箱を見かけると開けずにはいられなくなってしまった。
誰かに開けられてしまうくらいなら、わたしが開封したい。
その思いは日増しに強くなり、でも開けるべき箱が見つからない。もどかしい。
箱を自作することにした。
決して開けられないような厳重な箱を。
まず、ダンボールを用意する。
そういえば市販のダンボールは長方形のものばかりだ。
なんとなく正方形が恋しくなる。
その中に、緩衝材を詰める。
百均で売っているような品でよい。
そしてここからが重要。
箱に命が宿るよう、お手製のコアを中心に置く。
わたしの一部を切り取ったものだ。
「立派な箱になりますように」
〈 おわり 〉
箱とわたしと生命体 sayaka @sayapovo
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