箱とわたしと生命体

sayaka

これはびっくり箱なのかもしれない。

わたしは開けるのをためらっていた。

立方体の形をした箱には、何枚ものおどろおどろしいお札と蛍光色のガムテープで派手な封印が施されている。


どうして連れて帰ってきてしまったのだろう。

帰り道、草むらにぽつんと佇む箱がどうにも気になってしまい、辺りを見回し誰もいないことを確認してから、実行した。


変な視線を感じていた。

勿論、箱に目がついている筈がないので、これはただの思い込みだろう。

でも、まるで生きているかのような雰囲気があり、不気味というよりもむしろ庇護欲をそそられる。


この箱に名前をつけて、一緒に暮らすことを決意した。

正方形だから、ましかく。

なかなか良い名前だ。

箱もきっと気に入ってくれるだろう。

そっと撫でながら、名前を呼ぶ。





翌朝、ましかくはズタズタに切り裂かれていた。

ダンボールの全身に切り傷があり、まわりには蛍光グリーンやイエローのガムテープがくしゃくしゃに丸められている。


ましかくと呼びかけても返事はない。


それにしても、中身は一体何だったのだろう。


部屋の中を見回してもそれらしいものはない。


まさか、空っぽだったとか?


持ち上げたときに確かな重みを感じていたけれど、錯覚だったのかもしれない。今となっては記憶が曖昧すぎていた。





それ以来、箱を見かけると開けずにはいられなくなってしまった。


誰かに開けられてしまうくらいなら、わたしが開封したい。

その思いは日増しに強くなり、でも開けるべき箱が見つからない。もどかしい。


箱を自作することにした。


決して開けられないような厳重な箱を。


まず、ダンボールを用意する。

そういえば市販のダンボールは長方形のものばかりだ。

なんとなく正方形が恋しくなる。


その中に、緩衝材を詰める。

百均で売っているような品でよい。


そしてここからが重要。

箱に命が宿るよう、お手製のコアを中心に置く。

わたしの一部を切り取ったものだ。


「立派な箱になりますように」




〈 おわり 〉

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箱とわたしと生命体 sayaka @sayapovo

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