れん@ハコ
すらなりとな
ダンボール戦争!
「れんちゃんとたんちゃーん?
お父さんが治す方法見つけたみたいだから、ちょっと研究室に行ってあげて?」
お母さんにそう言われて、私ことれんちゃんは、お父さんの研究室へ向かった。
ちなみに、たんちゃんというのは私の妹だ。
自称研究者のお父さんが開発したゲームをやっていた私は、設定したアバターの宝石になってしまい、その宝石を拾ったたんちゃんに憑りついてしまった。
治す方法見つけた、というのは、お父さんが私をたんちゃんから引き離し、宝石から元の人間に戻す方法を見つけ出したのだろう。
――はあ、ようやく元の生活に戻れるわ。
頭の中で、たんちゃんの声が響く。
こんな感じで、私はたんちゃんと意識を共有しながら、たんちゃんの身体で生活を送っていた。なお、私の本体は、首から下げたネックレスに引っ付いた宝石だ。
(うーん、私としては、もうちょっとこのままでもよかったんだけどな?
たんちゃんの学校に行くのも面白かったし?)
――私はよくないから!
さっさと戻してもらいに行くわよ!
たんちゃんの声にせかされるようにして、お父さんの研究室へ。
研究室なんて言っているが、ただの物置だ。ただ、扉に「七瀬理研究所」という、ダンボール製の怪しげな看板がかかっている。
「お父さーん、治す方法見つかったってホント?」
「ああ、ホントだとも。
棚の奥から声をかけられ、物置の奥へと向かう。
なお、
たんちゃん、れんちゃん、というのはあだ名である。
もっとも、本名で呼ぶのはお父さんくらい。
みんなあだ名で呼ぶものだから、すっかりあだ名の方が定着してしまった。
つまり、そのくらい、お父さんと私たちが顔を合わせる機会が少ない。
といって、仲が悪いわけでもない。
「単、ギャルの格好も似合っていたが、そっちの格好も似合うじゃないか?」
「そうでしょ? たんちゃんもギャル以外の可能性を探してみればいいのに」
――余計なお世話よ! それより、さっさと治して!
普段、ギャルメイクに着崩した制服という格好をしているたんちゃん。
しかし、今の私inたんちゃんボディは、ナチュラルメイクに加え、制服もきちっと着ている。私の好みもたんちゃんの好みも許容してくれるくらいには、お父さんは私たちに目を向けていた。
「えっと、たんちゃんが余計なお世話だから、さっさと治して、だって!」
「ん、そうだったか? では、さっそく私の研究成果をお披露目しよう!」
ただ、家族と同じくらい、訳の分からない発明品を作るのが好きなだけだ。
そんなお父さんが取り出したのは、ただの箱。
ダンボール製で、両手で抱えられるくらいの大きさだ。
「ええっと、これでどうすればいいの?」
「うん、これぞ引っ付いてしまった魂を引きはがす霊的制御マシン試作弐拾四号機!
その名も! 試作型ただの箱くん二十四号だ。
ちなみに一号から二十三号はお母さんに間違って資源ごみに出されたり、幽霊にさらわれたり、別の次元に転送されたりてしまって行方不明だ」
「そうなんだ。それで、どうやって使うの?」
「簡単だ。ネックレスをこの箱の中に入れればいい。ごみ箱に捨ててもダメだったが、箱の中に入れさえすれば単と連は離れられる」
――突っ込まないからね?
突っ込まないという台詞で突っ込むたんちゃんを無視して、私は「ただの箱君二十四号」を観察する。
名前の通り、見た目はまったくのただの箱、それも、通販の商品が入っていそうなダンボール箱だ。蓋を開いても、それは変わらず、装置的要素はどこにもない。
(大丈夫かなぁ? 嫌な予感がするなぁ?)
――それはそうだけど、やってみないとどうしようもないでしょ?
今度はしっかり突っ込んでくるたんちゃん。
私はネックレスを外し、ダンボール箱の中に入れた。
そして、蓋を閉じた瞬間。
視界が暗転した。
―――――☆
「! 戻ってる!」
私ことたんちゃんは、ついに元の身体に戻った。
これでお姉ちゃんの訳の分からない行動に悩まされることはない。
お父さんも歓声を上げる!
「おお、実験成功だ!」
「で、お姉ちゃんは?」
「なに言ってるんだ。手に持ってるじゃないか?」
お父さんの視線は、未だ手に持ったままのダンボール。
つまり、このダンボール箱がお姉ちゃんなのだろう。
思わず声を上げる。
「え? 元に戻るんじゃないの!?」
「だから、試作型だと言っただろう。まだ魂を引きはがすだけで、連の身体をアバターから還元するには至っていないんだ。
ちなみに、現状、魂をこの箱に閉じ込められるのは24時間が限度だ。再使用にはおよそ168時間かかる」
「は? なにそれ?」
思わずチンピラみたいな声が出た。
が、どこからかお姉ちゃんの声が響く。
「だいじょうぶだよ? たんちゃん、私、これでも動けるみたいだから」
声が聞こえる方を探ると、それに応えるように手に持った箱が動く。
箱はそのまま宙に浮くと、周囲の棚のダンボールを引き寄せ始めた。
箱asお姉ちゃんをコアにして、ダンボールが引っ付き、どこからか飛んできた私の予備の制服を身に着けた。あっという間に、女子高の制服を身に着けたイロモノダンボールロボの完成である。
「えっと、おかしいとこ、ないかな?」
「ああ、うん、おかしいとこしかないんだけど……」
説明を求め、お父さんに目を向ける。
が、お父さんはまるで実験がうまくいったかのようにうなずいていた。
「うん、うまくいったようだね。身体が元に戻せないなら、代わりに身体を用意すればいいという我ながら素晴らしい発想は最高の形で実現したようだ!
まさにこれぞロマン!
誰もが夢見る発明の理想形!」
やはり自称研究者なぞろくな人物がいない。
こんなものを与えられて喜ぶのは子どもくらいだろう。
「うん! れんちゃんロボはっしん!」
「いいぞ! 連!」
いや、ここに二名いた。
はしゃぐお姉ちゃんとカメラで撮りまくるお父さん。
頭が痛くなった私は、お父さんに問いかけた。
「はあ、じゃあ、またお姉ちゃんと一緒になるにはどうすればいいの?」
「え? たんちゃん、私と一緒になりたいの?」
「なりたくないけど、ダンボールロボで一日過ごすよりマシでしょ?」
「うーん、私としてはマシどころかとっても嬉しいんだけど、ちょっとすぐには戻れないっぽいよ?」
「え? どういう事?」
問いかける私に、答えたのはお父さん。
「うん、さっきも言ったが、これはあくまで試作品だからね。
24時間、しっかり経たないと箱から連を取り出せないんだ。
ついでに言うと、距離にも制限があってね?
およそ100メートル以上離れることはできない」
「ちょっと、明日、学校あるんだけど!?」
「大丈夫、ちゃんと手を打ってあるよ?」
さわやかな笑みを浮かべるお父さん。
私は、ついさっきお姉ちゃんと一緒に浮かべた嫌な予感が、現実になりつつあるのを感じた。
―――――☆
翌日。
私は普通の学校へ登校していた。
お姉ちゃんが私の間は清楚系という名の手抜き地味メイクにただ着ただけの制服だったが、今はいつも通りギャルメイクに着崩した制服だ。お姉ちゃんが通う進学校じゃどうか知らないが、私が通う底辺校ではこっちがデフォなのだ。
そのお姉ちゃんは、今、鞄の中に入っている。
ダンボールを少しつぶして、強引に入れたものだ。
まったく、つぶしやすいダンボールでよかった。
「うーん、つぶされるとちょっと窮屈に感じるんだけど?」
「仕方ないでしょ? それより、しゃべらないでよ?」
念を押して、教室の扉を開く。
我がクラスはいつも通り混沌としていた。
堂々と床に座り込んでゲームをやっている生徒や、化粧に精を出す生徒なんてマシな方。床に布団を広げて寝ている生徒に、野球をやっている生徒までいる。
普通の人なら顔をしかめる教室の喧騒だが、しばらくお姉ちゃんの中からしか眺められなかった私は、ずいぶん久しぶりの感触に、ちょっと感動していた。
が、すぐに違和感に気づく。
底辺校独特の喧騒に包まれていた教室が、だんだんと静かになっていったのだ。
代わりに、みんなの視線が、なぜか私に突き刺さっている。
何かおかしいところがあっただろうか?
一応、自分の格好を確認してみたが、いつも通りだ。
首をかしげながら、席について、隣の席の友達、さっちゃんに声をかける。
「おはよ」
「お、おう」
なぜか困っているさっちゃん。どうしたんだろう?
「えっと、なんかあった?」
「あったというか、いま起こってるというか。
たんちゃん、イメチェンはどうしたの?」
そういえば、お姉ちゃんと入れ替わったの、イメチェンと思われてたんだっけ?
私はため息つきたくなるのを押さえながら答えた。
「ん? 戻しただけだけど?」
「戻したの? な、なんで?」
「なんでって、どっちかっていうと、今までが異常だったんだけど?」
「うーん、それは分かるんだけど、ね?
ほら、急に戻ったら、みんなびっくりするっていうか……」
教室を見回すさっちゃん。
私もそれに合わせて視線を動かすと、
「うそだろ……」
「おい、あの清楚系で高嶺の花系は……」
「俺の春は終わった……」
「たんちゃんマスコット化計画が……」
「アニメ見に誘おうと思ってたのに……」
「ほら、たんちゃん、みんな、前の方がいいって!」
何か教室がこの世の終わりのような雰囲気になっていた。
ちょっと失礼過ぎない?
ちなみに最後のはお姉ちゃんだ。
鞄を蹴っ飛ばして黙らせる。
その拍子だったっだだろうか。
「わ!? まず!?」
お姉ちゃんの声と一緒に、鞄からダンボールが飛び出した!
ダンボールはどこからともなく飛んでいた別のダンボールと合体!
そして、魔法少女アニメのごとく、謎の光とともに、家に畳んでおいてあったはずの予備の制服を身に着ける!
イロモノ女子高生型ダンボールロボ! 変形完了!
静まり返る教室。
だが数秒後、
「すげえ!」
「これぞロマン!」
「俺の春が始まった!」
「マスコット計画再始動!」
「魔法少女とロボットアニメについて語り合いませんか!?」
歓声が上がった。
同時、チャイムが鳴り、先生が入ってくる。
「はい、みなさん、ホームルームですよー?
今日は転校生がいたはずなんですが――って、ここにいたのね?」
そして、先生は私の横までくると、ダンボールロボの手(?)を取って、教卓まで連れて行った。
「ええっと、今日からわが校に転入することになった、
再び上がる歓声。
私はただ愕然としながら、平然と私の後ろに座るお姉ちゃんを眺めていた。
―――――☆
「で? なんでこうなったの?」
昼休み。
さっちゃんと一緒に弁当を広げながら、お姉ちゃんinダンボールに問いかける。
「ええっと? お父さんから聞こえてきた通信によると、まだ試作品だから、何かの拍子に合体シーケンスが動いたときに誤魔化せるように、短期で転校手続きをしといたんだって?」
そうか、通信が聞こえるのか。
私は突っ込まずに続ける。
「そう、じゃ、明日から一週間はチャージ中だけど、どうするの?」
「うーん、病弱設定だから、一週間くらい休めるんじゃないかな?」
そうか、病弱設定なのか。
私は突っ込まずに続ける。
「もとのダンボールに戻れないの?」
「ええっと、どっちかっていうと、こっちのロボの方がデフォなんだって?」
そうか、ロボがデフォなのか。
私は突っ込まずに続ける――前に、さっちゃんがマジックペンを取り出した。
ダンボールにデカデカと
※四個の□《ハコ》に入る名前は自由にご想像ください。
「さっちゃん!? 何やってるの!?」
「んー? 気にしないで? ところでハコちゃん、頑丈そうなのに病弱なの?」
「うん、そうなの」
「ちょっと、さっちゃん? なんで当たり前に話してるの?」
「えー、たんちゃんも普通に話してたじゃん。ねー?」
「ねー?」
可愛く返事をするイロモノロボ。
私はついに突っ込み――
「ってロボじゃねーか!?」
いや、突っ込んでない。
突っ込んだのは後ろからやってきた不良だ。
不良といっても、このクラスでは見かけない。
おそらく、隣のクラスから見に来たのだろう。
すかさず、さっちゃんがフォローに入る。
「ロボじゃないって。転校生のハコちゃん」
「いや、ロボだろ!? □□□□とか書いてあるし!」
「いや、それは私が今書いただけだから」
「書いたとか、お前もちょっとロボと思ってんだろう!」
「いや、□□□□はロボって呼んだりしないから。■■だから。
ロボなんて言ったら、うちのクラスのアニメ研に○されるわよ?」
二文字の■《ハコ》の中身はなんでもいい。
お好きな架空の兵器なりロボなりの呼び方をご想像ください。
ついでに、底辺校のアニメオタクと、喧嘩らしき雰囲気にひかれて寄ってきたクラスの野次馬の視線もご想像ください。
もうやめてほしい。
「で、何しに来たの?」
しかし、さっちゃんは平然と隣のクラスの不良に問いかける。
不良も慣れているのだろう、平然と答えた。
「いや、こっちのクラスにとんでもないヤツが転向したって聞いたから見に来たんだけどよー? ただのロボだったわ」
「タダノロボじゃないわよ。タダノハコちゃん。転校生よ?」
「はあ? 本気で言ってんのか? ダンボールのつくりもんだろ?」
「なに言ってんの、本物よ? ねー、ハコちゃん?」
「うん、本物だよー? よろしくね、不良さん」
「喋った!? ウソだろ!?」
うん、普通の反応だ。
どうやら隣のクラスはさほど汚染されていないようだ。
が、さっちゃんはなぜか不良にマウントを取り始めた。
「まあ、そっちにはうちのクラスみたいにインパクトのあるヤツいないし?
フツーのクラスに通ってる不良には信じらんないよねー?」
「は? なめんなよ? こっちにも転校来たし!」
「どうせタダの不良でしょ?」
「はぁ!? 見て驚けよ! おーい、転校生!」
隣のクラスに向かって叫ぶ不良。
すると、なんとダンボール箱が飛んできた!
ただのダンボール箱ではない。
あっちこっちにお札が張り付いた、やけにおどろおどろしいダンボール箱だ。
そのダンボール箱は目の前で急停止すると、目の前で他のダンボールと引っ付き、ロボの形になった!
そういえば、昨日、お父さんが「幽霊にさらわれた」とか言ってたっけ?
「どうだ! 今日、転向したばかりの、
「あ、どうも、八潮幸子です、よろしく」
「ヨ、ヨロシ、ク……」
普通に挨拶をかわすさっちゃんと転校生。
が、それをお姉ちゃんが遮った!
「ストップ! さっちゃん! そいつ!
ダンボールロボの魂解析機能によると!
野倉先生の家に憑りついてた悪霊さんだよ!」
そういえば、少し前に、今は休職中の先生のアパートにお見舞いに行ったんだった。自称ゲームのアバターとなったら魔法が使えるようになったお姉ちゃんは、その時、アパートに憑りついた幽霊を追い払ったなどとほざいている。
ちなみに、お姉ちゃんと一体化していた私には何も見えなかった。
あくまで一般人の私には見えないらしい。
まったく、バカにしているとしか思えない。
「ア、アノトキノ! ちーと女子高生!?」
が、自称転校生はそんな声を上げると、ダンボールに分離して逃げていった。
「あ、おい! ちょっと待てよ!」
「待てー!」
追いかける不良とお姉ちゃん。
私は黙ってお弁当を食べ始めた。
「あー、ほっといていいの?」
「いいんじゃない? そのうち、戻ってくるわよ」
―――――☆
後日。
残念ながらお姉ちゃんと再び一体化した私は、さっちゃんと一緒に昼ご飯を食べていた。正確には、食べているのはお姉ちゃんで、私はそれを一緒になった意識から眺めているだけだ。
「たんちゃん、おかず交換しない?」
「する!」
「あ、それと知ってる?」
「知らなーい」
「隣のクラスの転校生、のろちゃんだけど、不登校になったらしいよ?
なんでも、怖いロボに追いかけられたんだって!」
眺めているだけで本当に良かった。
という訳で、おねえちゃん、頑張って何とかしてね?
れん@ハコ すらなりとな @roulusu
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