情緒超不安定蝶々

日笠しょう

手の目(1)

 依頼者の女性、社長、倫理感欠如外道色魔畜生こと先輩、僕の4人で囲む卓は南4局、オーラスを迎えている。


「あの、これが本当に……除霊に?」

「ご安心を、ご婦人。古来より中国では麻雀牌を混ぜる音、洗牌(シーパイ)は縁起物とされており、霊の供養に用いられておりました。我々はそれを応用し、憑かれた方と共に卓を囲むことで悪霊を祓うのです」

 社長は嘘つきだ。


「でも……わたしこんなに負けています」


 彼女の持ち点はマイナス3万を迎えるところだ。普通はマイナスになったところでゲーム終了だが、我が社はハコ下あり。むしろ負債が青天井。


「そちらもご安心を。しっかり依頼料に上乗せいたしますので」

「これってどれくらいの負けなのかしら……?」

「まあ、それは確定してからでいいでしょう。景気が良いほうが、悪霊も消えやすい」


 まだまだ搾り取る気らしい。ちなみに、社長が親なので、この人が上がり続ける限り、依頼料は高騰していく。


 が、残念ながら次の予定がある。早めの解散希望。


「リーチ」

「朔夜、親に向かってなんだそのリーチは」

「飽きた」


「俺も帰るわ」


 塵芥屑畜生こと先輩が3萬を出す。ほんとこう、なんでもわかってる風を気取ってるのが気に入らない。犬に噛まれれば良いのに。


「ロンです。さようなら」


 社長と、多分2度とお店から出られないであろう依頼者に挨拶する。


「お姉さん、憑き物なんて本当は嘘でしょ。占い師かなんかだと思ってうちに依頼したのが運の尽きでしたね。なんでもかんでも誰かのせいにして慰めてもらいたいなら、そのへんのホストクラブの方がまだ良心的でしたよ。浮気も貧乏も、あなたの性根の問題です。ーーあぁ、でもまぁ、落ちるっちゃ落ちるんじゃないですか? これから、その人の手で、自分のための恋愛も浪費もできない身体になるんでしょう?」


 うんここと先輩が舌舐めずりしている。汚らわしい。


「朔夜くーん?」


 社長が笑いかけてくる。目は笑ってない。


「次の仕事のギャラで返しますって」


 返さなきゃ、僕の命が危ないんでしょ。


「俺は男でもウェルカムだぜー」


 あんたの世話だけにはなんないよ。

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