道行き

sui

道行き


星明かり等到底望めぬ、暗いだけの夜空。

橙色の街灯がポツリポツリと静かに存在感を放っている。

細い道には車も入らず、頼りなく人影が揺れるだけ。

時折、ガラガラと頭の上を電車が過ぎていく。



特にこれと言った理由はないのに溜息が出た。

下がる首を上にするだけで労力が要った。

丸まる肩はいつも以上に前へとのめり、ポケットへ手を押し込まなければバランスを失いそうだった。

今にも重力に圧し潰されるのではないかと、そんな不安が沸く程だった。


道を進めど気分は少しも晴れなかった。寧ろ足の一歩一歩が重たく、外にいる事実を後悔させた。

行くにも戻るにももう遠い。

こうなれば最早意志はない、ただの惰性である。それが余計に心を疲れさせた。


どんよりとした気分の儘に視線を泳がせれば、疎らな影の正体が見える。

微笑み合う者。燥ぐ者。手を取り合う者。生き生きと駆け抜けていく者。

世にいるそんな人々の姿に、きっと彼等は特別な善人なのだろう。だから幸せなのだろうとそんな感想を抱き、意味もなく羨む。

冷たい視線を浴びたようだが、それも当然としか思われない。こんな者がいる、その事実だけで人は不快になるだろう。

けれども他人が敢えて己に興味を持つ理由はない。結局はただの被害妄想だ。


寒かった。足が痛かった。手指は震えてさえいた。


いっそその場に留まってしまおうか。蹲ってしまおうか。崩れ落ちてしまえたならば。


手が顔を覆っていく。

暗闇がより近くなる。視界が減って、電車のガラガラという音が一層大きく響いて聞こえる。


ふと、何処の誰とも分からぬ悩む声がボツリと聞こえてきた。

悲しい歌が流れていた。


両の手を開けば、足元に不安を訴える言葉の紙が見えた。

先には俯く背中があった。

横では虚ろな視線が空を見上げていた。



お前もか。嗚呼、お前もか。


喜びに満たされているようで、悲しみがそこには確かにあった。


けれども共に悲しみを知る筈の己に何かを成す力はなく。

弱弱しき者達では支え合う事さえ出来ず。

傷口は直視すら適わず。


ただただ虚しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

道行き sui @n-y-s-su

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説