推しの箱
ケイティBr
濡れ鼠の番
灰色の雲が空を覆う中、シトシトと冷たい雨が降り続けるとある放課後。
高校2年生である、
その大切なスケッチブックも、すでにずぶ濡れであり、その事実が彼の心を重く沈めていた。
一方、
彼女は俯き、誰も近づかない。かつて白かった上履きは雨によって黒ずみ、その姿が彼女の足取りをさらに重くしていた。
控えめな外見と臆病な性格が原因で、
✧✧✧
自宅への近道として公園を突っ切る
なぜならば、イジメの発端になったのは彼女が学校に持ってきた、とあるアイドルの雑誌だったからだ。
その雑誌に写っているアイドルは
けれど、その会話は楽しげな物ではなく、どこか小馬鹿にした調子だった。
周りのクラスメイト達は、遠巻きに見るだけで何もしなかった。それは、
――でも、今はあの時に何もしなかった事を後悔している――
アイドル雑誌を馬鹿にしていた一人の女子が「もしかして、アイドルに憧れているの? アンタみたなのが?」
「憧れちゃ悪いんですか? 私は、アイドルになりたいんです」
「は? なにそれナマイキ」女子生徒が唇を歪めると雑誌を手に持っていた表紙を引き裂いた。
周囲は突然の事に唖然としていたが、
「HRやるぞー。席につけ……ん? 何か有ったのか?」先生がクラスにやってきて不思議そうにクラスを見渡した。
「せんせー、
女子生徒が言いながら、雑誌を旗のように振って先生に手渡した。
雑誌を受け取った先生は、顔をしかめながらその様子を見て、
「
「持ってきたのは私です」
「これは先生がいったん預かるから、放課後に取りに来なさい」
「はい……」
それから、
――この出来事に
✧✧✧
「
「だから何?
彼女の声色には、拒絶が有った。この所、クラスで話しかけられるさいは、その言葉から始まってからかわれるのだから仕方ないだろう。
「俺さ、服飾デザイナーを目指してるんだ。女性物の」
「……」
それを見た
「体冷えるよ。俺ので良ければだけどさ」
「それどうしたの? 最近は持ってきてなかったよね?」
彼は、それを手に取り捲ろうとしたが雨で濡れた紙がくっついてしまい、上手く行かなかった。
「ごめん、俺、
理由は、些細な事だった。
それがある日、クラスメイトに見つかって問題となった。
「これって、盗撮って奴じゃなーい?」「絵だから違うけど、ちょっとキモいよね」と女子生徒に詰め寄られた
「おい、テメェ、なんでこんなの描いてるんだよ」
女子生徒に乗っかってだろうか、男子生徒が良いところを見せようとして言葉が投げかけけられた。
「ちょ、ちょっと絵が好きだからさ。俺の両親は、服飾デザイナーなんだ」
それから良いカモを見つけたとでも言うのだろうか、何かとからかわれるようになった。
両親にも相談出来ずに数ヶ月が過ぎ、もうこのまま過ぎ去ってくれれば良い。ただそれだけを
✧✧✧
「そのスケッチブックが何の関係があるの?」
「実は、
彼は、彼女に何か悪い事をした理由ではない。だが、体が自然と動いてしまった。
「同情なんていらない」
「そんなんじゃない。これはもう見せられないけど、家には他にもスケッチした物があるんだ。きっと気に入ってくれると思う」
「もしかして、ナンパ?」
「ち、違うって!」
震える指先で、操作をして写真を
「私、
「はい。ありがとうございます」
ついかしこまった感じで返事をしてしまった
その笑顔は、
✧✧✧
こうして、
二人は互いの夢に向かって一歩一歩進んでいくことを誓い合い、その日から準備を始めた。
この目標実現の為には、障害が有る。二人は、次の日から保健室登校をするようになった。
クラス内に問題が有る事を訴えるのと、学園祭までの準備の時間を作る為だ。
そんな風に過ごしやがて、夏休みになると互いの家やカラオケに行って練習や衣装合わせを進めていった。
「
「ここか、うん。もう一度直してみるよ」
「ありがとう」
✧✧✧
矢のように日々が過ぎ去って、学園祭の当日となった。
「それじゃ、行ってくるね。
「あぁ、頑張って、応援してる」
この日、
「……
推しの箱おわり。
―――――――――――――――――――――――――――
あとがき
KAC2024お題「箱」です。
このお題で真っ先に思いついたのは、ココロノボックス
そして、この推しの箱でした。
『ココロコネクト』と『推しの子』が好きなんですよ。うん。
もし物語を楽しんでいただけたら、お星様、感想や応援の「いいね」、フォローをお願いします。
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それでは、また別のお話でお会いしましょう。
推しの箱 ケイティBr @kaisetakahiro
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