05-03 ……赤い、目?
「お見苦しいところをお見せしてしまって……息子が無事に帰ってきたことがうれしくて、ついつい」
「うれしくて、ついでジャンピング拳骨ぶちかますのかよ……って、ふぐぅっっっ!」
「あなたたちも勇者様といっしょなら早くそう言いなさいよ。まったく、もう……本当に気の利かない子で困りますぅ」
「口をはさむ暇もなく怒鳴られ、けなされ、まくし立てられた気がするんですが……いいえ、なんでもありません」
ホホホと笑う母親に裏拳を食らったオリーとフフフと笑う母親ににらまれたバラハが撃沈し、沈黙するのを見てラレンは引きつった笑みを浮かべた。
そして――。
「初めまして、リカルド・ウィンバリーです。共に旅をする仲間としてオリーとバラハにはいつもお世話になっています。僕のことはオリーやバラハと同じように〝リカ〟と呼んでください」
さっきまでのダダ洩れる殺気はどこへやら。
リカは銀色の髪をさらりと揺らし、金色の目を細めてにこりと微笑んだ。老若男女問わず
「久々に真っ当な勇者様を見た……まともな勇者様を見た……!」
なんだったら歓喜の涙を垂れ流している。
「オリーとバラハが本当に勇者様といっしょに旅をしていただなんてねえ」
「女神アルマリアと同じように銀色の髪と金色の目をしてるとは聞いていたが、どうせ本当のところは白髪に琥珀色の目。うわさに尾ひれがついているんだろうと思っていた」
「いやぁ、それがまさかこんなにも見事な銀色の髪と金色の目だとは」
「なんて美しいんだろうねえ」
「そうでしょう、そうでしょう! この世のものとは思えないほどに美しいでしょう! なにせ勇者様は女神アルマリアに愛され、神剣を授けられた方ですからね!」
リカを取り囲んでやんややんやと盛り上がる村人たちを前になぜかラレンが胸を張る。そんなラレンを見上げて小さな女の子が不思議そうな顔で言った。
「でも、こっちのお兄ちゃんもきれいよ。金色の髪に青い目をしていてお人形さんか絵本の中の王子様みたい」
「みたいじゃなくて本当に……っ、ふぐっ!?」
「なー、お人形さんみたいだよなー」
「ねー、お人形さんみたいですよねー」
〝本当にアルマリア神聖帝国現国王の息子で王子様なんだよ!〟と胸を張って高らかに宣言しようとしているラレンをオリーが羽交い絞めにし、バラハが口をふさいだ。
「ふぐ……ふぐぐっ……!」
「すまんな、ラレン」
「でも、落ち着いて考えてほしいんです、ラレン」
ジタバタと暴れるラレンにぐいっと顔を近付けたオリーとバラハが声をひそめて言う。
「ここは魔王領に一番近くて土地の痩せた貧乏村。アルマリア神聖帝国の最果ての村だぞ」
「そんなところに王族がいるなんて知ったら村人全員、失神します。まちがいなく失神します。腫れ物扱いされたいですか、ラレン」
バラハに尋ねられてラレンは首を横に振った。ただ、まだちょっと不満そうな顔をしている。
でも――。
「あと、王族にタメ語きいてたなんて知られたら俺が母ちゃんに殺される」
「同じくです。まちがいなく母さんに
それを聞いてラレンはスン……とした顔になった。腫れ物扱いも困るがそれより何より自分が原因で数年ぶりの親子の感動の再会が悲劇の子殺し事件に一変するなんてイヤ過ぎる。
そんなバカなと笑いたいところだけどオリーとバラハの声が真剣過ぎて怖い。笑い切れないのだ。
無言でこくこくとうなずくラレンの目をオリーとバラハは念押しするようにのぞきこんだあと、そーっと解放した。
と――。
「なあ、こっちの背の高い兄ちゃんは赤色の目をしてるぞ! 赤色の目なんて初めて見た!」
「ねえ、片方の目を黒いので隠してるの、なんで?」
小さな男の子二人が無邪気な笑顔でフードを目深にかぶっているジーを指さした。ジーの肩がビクリと震える。
そして――。
「……赤い、目?」
「赤い目で、隻眼だって……?」
村人たちのまとう空気が一瞬でブリザード状態に変わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます