04-02 ……頼む。

「オリー、バラハ、ラレン。話はわかった。……なんとなく」


「そんな大真面目な顔で話し始めておいてなんとなくかよ!」


 魔王らしく凛と背筋を伸ばし、いつも通りの淡々とした表情で最後の最後にふわっとしたことを言うジーにラレンがツッコミを入れる。


「人族ではいまだに魔族との戦争が続いていることになっている。オリーとバラハの村を含めて魔族に襲われた人族の村がいくつもある。私が魔王になってからのこの五年間のあいだにも、ということだな」


 確認のためにジーが繰り返した言葉にオリーとバラハ、ラレンがうなずく。それを見てジーは最後にリカへと視線を向けた。助けを求めるような、最後の望みにすがるような気持ちだったのかもしれない。

 でも、リカはオリーたちの言葉を肯定するようにうなずいてうつむいた。


「ジー君と別れてからもずっと僕はあの町で暮らしていたけど、行商人や旅人から魔族との戦争の戦況はどうとか、どこどこの町や村が襲われたっていう話はしょっちゅう聞いていたよ」


「そうか」


「だからこそ僕は人族側にいるだろうジー君を守ろうとして魔王と魔族を倒すための旅に出たんだ」


「……そうか」


 リカの言葉に肩を落としながらもうなずき、あごに手をあてて考え込んだあと――。


「リカたちに頼みたいことがある」


 ジーはゆっくりと顔をあげるとオリーとバラハ、ラレン、そしてリカの顔をぐるりと見まわした。


「私は戦争の件も人族の村や町を魔族が襲っているという件も知らない。指示もしていないし、耳にも入っていない。だが、魔王領のすべて、魔族たちの行動のすべてを把握しているわけでもない」


 そこで言葉を切るとジーは目を伏せた。あいかわらず表情は変わらない。でも、自責の念にさいなまれているかのように拳をにぎりしめるジーを見てリカは心配そうに手を伸ばした。


「ジー君……?」


「私は先代魔王の息子で魔王の座についている身だが、私の母は人族で、私は魔族と人族のハーフだ。魔族たちの信頼も信用も得ているとは言い難い」


「よし、やっぱり魔族を滅ぼそう。ジー君を王として崇めたてまつれるうらやましすぎる権利を得ておきながら、その権利を放棄する魔族たちなんて滅ぼしてしまおう」


「勇者らしく魔族を滅ぼす気になってくれたことはうれしいですが、理由が個人的過ぎて全然、うれしくないです、勇者!」


 にっこりと微笑んですらりと鞘から神剣を抜くリカの腕をつかんでラレンがギャン泣きする。


「そういう状況だから私が把握できていないだけという可能性は否定できない。魔族は誰も人族と戦争をしていない、人族の町や村を襲っていないと断言することができない」


 ラレンとはまったく違う理由で心の中はギャン泣きなのだろうジーはうつむいたまま言う。

 でも――。


「だが、把握できていないこと自体が私の責任。信頼も信用も得られずに好き勝手を許しているとすればそれも私の責任だ。だから、事態の把握をしたい」


 魔王らしく、魔族の長らしく、凛と顔をあげたジーは勇者パーティの面々を真っ直ぐに見つめた。


「オリー、バラハ、ラレン……それにリカも。私が――魔族の長である私が自体を把握し、対処するために手を貸してくれないだろうか。人族と争っている魔族や町や村を襲った魔族のことを教えてほしいのだ」


「教えてくれって言われてもなぁ」


「なんでもいい。名前、外見的特徴、どんな服装でどんな武器を持っていてどんな会話をしていたのか。どんなに些細な情報でも構わない。……頼む」


 魔王であるジーが深々と頭をさげるのを見てオリーとバラハは困惑の表情を浮かべ、ラレンは眉間にしわを寄せた。リカはと言えば心配そうな顔で見つめている。

 でも――。


「誰が、あるいはどの派閥がそのような行為を人族に行ったのか。善良な魔族たちを危険にさらすような行動を取ったのか。私はそれを知りたい。魔族の長として知らなければならないのだ」


 ジーが顔をあげ、静かだがよく通る低い声で言うのを聞いて、にこりと微笑んだ。


「ジー君がそう望むのなら僕はいくらでも手を貸すよ」

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