03-06 〝くまのパン屋さん マルシェ編〟。
「それにしても……あれだけの数のゴーレムを作って維持していたというのはにわかに信じがたいですね」
眉間にしわを寄せてぼそりとつぶやくバラハにオリーとジーが首をかしげた。
「へえ、魔法使いの感覚だとそうなのか」
「信じがたいと言われても……間違いなくあれらは私が土魔法で作った物だ」
「ジー一人で、ですか?」
「ああ、そうだ」
うなずくジーにバラハはますます不満げな表情になる。そんなバラハの隣で同じく杖持ち、魔力使いな白魔導士のラレンも不満げな表情をしている。
「僕たち全員が魔族だと思い込んでいたくらいにリアルな出来映え。魔力量だけじゃなく魔法の造詣の深さも気色悪いレベルだよね。土魔法が特別に得意なのか、それ以外の属性の魔法も得意なのかは知らないけど」
「……気色悪い」
ラレンの言葉にジーは肩を落とした。あいかわらず表情には出ないけれど落ち込んでいるらしい。
と――。
「ジラウザ様の魔力量と魔法への造詣の深さは歴代の魔王様の中でも群を抜いております。特に土魔法が得意ですが、それ以外の属性の魔法もそこいらの魔族・人族では敵わないでしょう」
「ジーキル!」
ジーの後ろに伸びる影の中から黒い執事服を着た老紳士・ジーキルが姿を現わした。
一見すると老人だが相手は純血の魔族。それも魔王城で働き、魔王に仕える魔族だ。
「……」
オリーとバラハ、ラレンがそれぞれの武器を構えるのを見てジーは無言で手で制した。
勇者パーティの三人の様子を横目にジーキルは話を続ける。
「なぜ、ジラウザ様の魔力量が多く、魔法への造詣が深いかと言えば幼い頃からのたゆまぬ努力ゆえ。日々の鍛錬の積み重ねです」
「ジー君の子供時代の話! 僕が知らない子供時代の話!」
目をキラキラとさせて食い付くリカを横目にジーキルは話を続ける。ちょっと胸を張った気がするけれど、それはさておき話を続ける。
「ジラウザ様は魔族と人族のハーフ。魔族たちは魔王の息子である以上に人族の血を恐れました。そういう事情もあってジラウザ様には同年代のお友達はおらず、家庭教師との勉強の時間以外は一人で遊んでらっしゃったのです」
「さらっと切ない子供時代を話すの、やめてくれないか、ジーキルさん」
「つまり魔族はジー君を爪弾きにしていたと。よし、滅ぼそう。やっぱりすべての魔族を滅ぼそう」
ジーキルの話にオリーは目頭を押さえ、リカはニッコニコの笑顔で神剣をすらりと鞘から抜こうとして――。
「……」
「ジー君……!」
ジーに無言で止められた。そんなジーとリカを横目にジーキルは話を続ける。
「そんなジラウザ様が覚えたての魔法で始めた究極の一人遊びこそがゴーレムを使った〝ごっこ遊び〟。小・中型のゴーレムながらも最大五万基を動員しての超大作でございます」
「ゴーレム五万基!? 子供のごっこ遊びの域じゃないですよ、それ!」
「〝くまのパン屋さん マルシェ編〟では出店数一○○店舗以上、来場者四万人をゴーレムで完全再現……!」
「超大作とか言うから戦争スペクタクル超大作的なのを想像してたら、まさかの〝くまのパン屋さん〟!? しかも、〝マルシェ編〟ってシリーズ物ってこと!?」
ぎょっとするバラハと半分切れ気味にツッコむラレンを淡々とした表情で見つめてジーは言った。
「田舎町の小さなお店を借りる資金を貯めるために主人公のくまちゃんが工事現場で働く〝開業資金編〟から始まる全十五編のシリーズ物だ」
「見たかった……ジー君脚本・監督の超大作〝くまのパン屋さん〟シリーズ……見たかった……!」
「あいかわらず表情は変わらないけどちょっと胸を張っただろ、ジー。今、絶対に胸を張っただろ」
「開業資金という単語が現実的過ぎてちょっと悲しくなってくるのですが」
「子供なら子供らしくもっと夢があって壮大な感じの物語で〝ごっこ遊び〟しろよ、魔王」
過ぎ去った時間に思いをはせてほろほろと涙を流すリカと、あきれ顔のオリー、バラハ、目をつりあげるラレンを横目にジーキルの話はいよいよ熱を帯びる。
「くまちゃんのパンを食べて感動したマルシェの来場者たちが次々に光魔法を放ち、マルシェ会場がさながらライブ会場のような盛り上がりを見せ、くまちゃんが生きる伝説となったときには涙が止まらなくなりました! それまでのくまちゃんの苦労を見てきたからこそ、なおのこと……!」
「子供らしいかはさておき、ものすごく夢があって壮大な感じの物語だったーーー! 魔王のクセに! 魔王のクセに!! なんかムカつく!!!」
「……ムカつく」
八つ当たり的な感じで地団駄を踏むラレンの言葉に肩を落とすジーの横で、思い出し涙を流すジーキルをリカは涙目で見つめた。
「僕も……僕もリアルタイムで見たかった……ジー君脚本・監督の超大作〝くまのパン屋さん〟シリーズ……僕も見たかった……!」
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