01-06 二人の戦いが今――。

「でも、どうしてジー君が魔王城に? ていうか、魔王の間の玉座に座ってるってことは魔王……なんだよね?」


 十五年ぶりの再会に大喜びしてジーに抱き着いていたリカだったが、ようやく腕を放すと今更のように尋ねた。

 一歩、距離を取って玉座に座るジーの姿をじっと見つめる。


 いっそ青白いと言ってもいいほどに白い肌や艶やかな黒い髪、赤い瞳は昔と変わらない。淡々とした表情も九才の子供だった頃と同じ。

 でも、この十五年で背はすっかり伸び、体付きも声も大人の男性のそれだ。親指ほどの小ささでどうにか黒髪に隠れていた二本の黒い角は雄牛のように大きくなり存在を誇示している。左目を覆う眼帯も子供の頃にはなかった物だ。


「前魔王だった父が数年前に死んで魔王になった」


 知ることの出来なかった幼馴染で親友の十五年間に思いをせ、リカは唇を噛んだ。


「僕の村を出る時、お母さんと一緒にお祖母さんが暮らす人族の村に向かうって……」


「そのつもりだったんだが目的の村に着く前に母が病気で亡くなってしまってな。そうこうしているうちに魔力も隠し切れないほどに大きくなって父に私の存在を気付かれてしまったんだ」


 リカの表情に何を思っているのか、いないのか。感情が顔に出にくいジーは一見すると淡々とした調子で話を続ける。


「母からは父が魔族であることは聞いていたが魔王だとは聞かされていなくてな。驚きはしたが九才の子供では抵抗することも逃げることもできない。有無も言わさず魔王城ここに連れてこられ、今に至るというわけだ」


「そっか。この十五年間でいろいろとあったんだね」


 ポツリ、ポツリと言いながらリカは壇上を降りた。魔王城のどんよりとした色の床におっぽり出していた女神アルマリアから授けられた神剣を拾い上げる。


「……長いね、十五年って」


「勇者様……」


 ジーに背中を向けたまま、悲し気に目を伏せるリカの横顔を見つめてラレンは小さな声でつぶやいた。


「僕はずっとジー君が人族側にいると信じていたんだ。だから、人族を滅ぼそうとしている魔族と魔王を倒そうと旅をしてきた。ジー君を……大切な幼馴染で親友のジー君を守りたくて旅をしてきた」


 リカの悲し気な声を聞きながらオリーは盾を、バラハは杖を静かに構える。

 そして、リカは――。


「でも……だけど……」


 神剣を握りしめてゆっくりと振り返ると凛とした表情で魔王城の玉座に座るジーを見上げた。


「ジー君が魔族側で、魔王だと言うのなら――」


 かつては幼馴染で親友だった二人の悲しい戦いが今――。

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