01-05 子供時代の話。(魔王編)

「……と、リカは言ってくれるが実際のところ、そこまでカッコイイ話ではない」


 ワーワーギャーギャーと賑やかな勇者パーティの面々を玉座に腰かけて見守っていたジーが不意に口を開いた。静かだがよく通る低い声に勇者パーティの面々はピタリと黙る。

 かと思うと――。


「それはつまりお前が勇者様をだましていたということだな、魔王!」


「それは極論が過ぎるでしょう、ラレン」


「俺もそれはキョクロンが過ぎると思うぞ、ラレン」


「そんなことない! 絶対に騙してたんだ! 魔王コイツが!! 勇者様を!!!」


 再びワーワーギャーギャーと騒ぎ出す。そんな勇者パーティ三人に動じることなくジーは淡々と話を続ける。


「昔からどうも私は感情が顔に出にくいらしくてな。彼らいじめっ子たちに殴られても殴り返さなかったり、怒鳴りも泣きもしなかった私をリカは良く言ってくれるが本当のところは違う」


「本当のところは!? 本当のところはどうせ勇者様を騙してたんだろ、勇者様を失望させるような結果なんだろ、魔王!!?」


「期待に満ちた顔だな、ラレン」


「期待に満ちた顔がゲスいですね、ラレン」


 なんて白い目を向けつつもラレン同様に身を乗り出してジーが語る真実を待っていたオリーとバラハは――。


「本当のところ、心の中はギャン泣きだった」


「ギャン泣き……」


 淡々と真顔で話すジーにそろそろと前のめりだった姿勢を戻しつつ明後日の方向に目をやった。


「殴り返さなかったのも、怒鳴りも泣きもしなかったのも、ただフリーズしていただけだ」


「フリーズ……」


「ああ、そうだ。心の中はギャン泣きだった」


「ギャン泣き……」


 魔王が、いじめっ子にいじめられて、ギャン泣きからのフリーズからのギャン泣き。

 リカの話との落差といまいち結びつかない単語の羅列に明後日の方向を見つめていた三人だったけれども――。


「で、でも、ほら! やっぱりコイツは勇者様を騙してたんですよ! 勇者様! コイツ、勇者様が思っているようなヤツじゃなかったんですよ!」


 真っ先に気を取り直した勇者崇拝過激派のラレンがビシッ! と玉座に座るジーを指さした。


「それはキョクロンが過ぎるだろ、ラレン」


「極論過ぎてゲスいですよ、ラレン」


「オリーとバラハに白い目で見られようがさげすまれようが痛くもかゆくもない! 僕が気にするのは勇者様にどう思われるかだけだから! 勇者様だけだから!」


「ひどいな、ラレン」


「ゲスいですね、ラレン」


「ほら、勇者様! コイツに騙されていたんですよ! 失望したでしょ、勇者様!」


 改めて、ビシッ! と玉座に座るジーを指さして叫ぶラレンにリカは困り顔で微笑んだ。


「その話、仲良くなってすぐにジー君から聞いてるんだよね。なんていうか、表情と感情のあまりの落差に……」


「落差に……!」


 期待に満ちた目でリカを見つめて続く言葉を待っていたラレンは――。


「もっとジー君が好きになりました!」


「勇者様の色眼鏡の色が想像以上に濃いっ! 何も見えてないんじゃないかと疑ってしまうほどに濃いっっっ!!!」


 膝から勢いよく崩れ落ちると魔王城のどんよりとした色の床に思い切り拳を叩きつけたのだった。

 そして――。


「頬を赤らめながらそんなこと言いやがって。お前は恋する乙女か、リカ」


「とか言いながらスクワットを再開しやがって。あなたは筋肉バカですか、オリー」


 フン! フン! と暑苦しい声をあげながらスクワットを再開するオリーと、そんなオリーを冷ややかな目で見つつツッコミを入れるバラハと、そんなオリーとバラハなんて完全無視で絶望しているラレンと、自分に抱き着いたままニッコニコの笑顔を浮かべているリカの顔をぐるりと見回して――。


「ふむ、やはり君たちはとても仲の良いパーティだな」


 ジーは深々と頷くと大真面目な顔でそう感想を述べたのだった。

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