第五章 シュナック村
翌日。早朝に宿を出た僕達は昨夜集めた情報を元にここから一番近いドワーフ族の一種でガイアーナ族が暮らすシュナック村へと向けて旅立った。
「後少しでシュナック村に着くはずよ」
「あ、あそこじゃないですか?」
皆の顔を見回してピーチが言うと、レモンが前方に見えてきた立て札を指し示しながら声をあげる。
「シュナック村……って書いてあるけど」
「村なんてどこにあるの?」
タルトが立て札を眺めて呟きを零す。アップルもそれに続くように声をあげて、左右に首を振って村を探した。
立て札の前までやって来た僕達だったが、周りを見回すもそこは岩山とだだっぴろい草地があるだけで他には何もない。
「……」
僕は何かないかと周囲を注意深く観察して探し出す。
「ねぇ。あれ」
「え?」
するとあるものを瞬時に見つけ僕はそちらへと視線を向けたまま声を発した。それにライムが反応して呟きを漏らす。
「岩山なのに洞窟?」
「地下階段があるね」
僕が見つけたものの場所まで近寄るとピーチが訝しげに首を傾げて言う。
その背後から顔を覗かせたタルトが目にした光景をそのまま言葉に出して伝える。
「この下に村があるって事なんじゃないの」
「あ、セツナ。一人で先に行かないでよ! も~……」
僕は言うと階段の方へと勝手に歩いて行く。そんな僕へ向けて背後からアップルの呆れた声がかけられたが、軽く無視してさっさと階段を降りていった。
階段を降りた先には地下空間が広がっており、薄暗く土っぽい臭いのする細い道を歩いていく。
「上り階段がありますね」
暫く歩いているとレモンが前方より見えてきたものを言葉に出す。そちらを窺うと頭上から微かに明かりが差し込んでいた。
その光へと目指して僕達は一気に階段を上り外へと出る。
「シュナック村へようこそ! こんな所まで人が来るのは久々だから嬉しいよ」
「ど、どうも……」
シュナック村へとようやく辿り着いた僕達に、第一村人が気付き笑顔で声をかけてきた。階段を駆け上がった事で疲れ果てていたライムが肩で息をしながら何とか言葉を返す。その言葉を聞き流しながら今し方着いたばかりの村を観察した。
「……陰気臭い」
「な?! ちょっと、セツナ」
不快な思いで呟いた僕に向けて慌てた様子でピーチが声をあげる。
「やっぱりそう思ったか」
「あの~。貴方は?」
そこへずんぐりとした体格の男がこちらへと近寄ってくると、渋面で僕達に言葉をかけてきた。突然声をかけてきた男に向けてレモンが尋ねる。
「わっしはこの村の族長のナンだ」
「初めまして。俺はライム。こっちはピーチでその隣にいるのが妹のレモンちゃん」
彼の言葉にライムが己を示すと自己紹介を始めた。
「こっちがタルトでその隣がセツナ。俺の横にいるのがアップル」
「そうかい。そいつはどうも……しっかし、お前さん達も大変な時にここに来ちまったな」
彼が続けて残りのメンバーを紹介すると、ナンが僕達を見やり小さく頷いた後、深刻な表情をして溜息を吐く。
「大変って……何かあったの」
「ああ。……ここから山が見えるだろう。あれはイーグズ山といってそこから質の良い鉱石が取れるんだが……」
アップルの質問に彼が頷き答えると、遠くに見える山を目線だけで示し語りだす。
「最近その山の天辺に邪竜が住み着いちまってな。何人か村人が食われちまってる。まぁ山に近づきさえしなければ今のところ害はないが。にしても……鉱石が取れなきゃこの村は終わりだな」
「それって本当に大変じゃないですか!?」
ナンの話が終わるとタルトが驚愕の表情をして叫ぶ。
「大変じゃがわっしらじゃあどうにもできねぇ」
「それなら俺達が何とかします」
「ええ、そうね。私達に任せて下さい」
彼の言葉にライムが胸をトンと叩き自己弛張する。それに同意してピーチが力強く頷き話す。
「だが危険な所だ。……お前さん達子どもが行くような場所じゃない」
「僕達は子どもだけど戦える」
「それに。皆がいればどんな危険だって平気だよ」
首を振って否定するナンにタルトとアップルが言い返した。
本当に皆どうかしているよ。助けたって何の利益もないのに。こんな村が潰れた所で僕達には何の支障もない。それなのにどうして?僕には分からないよ。
「そこまで言うんなら止めはしねぇが……気を付けろよ」
彼が渋々ながら頷くと僕達に山への道筋を教え立ち去っていった。
「よし、そうと決まれば早速イーグズ山へ行こう!」
「まさか。このまま山へ行くなんて言わないよね」
力強く右手の拳を空へと向けて突き上げ、意気込むライムへと僕は冷たい眼差しを送り聞く。
「どうしてさ?」
「何の準備もなしに本気でこのまま行くつもり」
不思議そうに首を傾げながら尋ねる彼の様子に、苛立ち始めながら言い放つ。
「何が言いたいの」
「装備も回復薬も持たずに行ったら当然死ぬよ。まさかそんな事も分からなかったとか言わないよね」
怪訝そうに聞いてくるタルトと皆同じ意見なのか、不思議そうな顔で僕を見るばかり。そんな様子に僕は口調を荒げ苛立ちをそのまま言葉に表して言い捨てた。
「ああ!」
「そうだよね」
いま納得がいったらしいライムが大声で叫ぶと、タルトもそうだったと言いたげに頷く。
「確かに……はぁ~。危なかった!」
旅慣れしているはずのアップルも、その事実を忘れていたらしく安堵の吐息を吐き出す。
「ええ。セツナが教えてくれなかったら私達死んじゃう所だったわね」
「そうですね。気付いてよかったです」
ピーチも良かったとばかりに言うと、レモンもそう言って笑った。
(やっぱりめんどう……)
ようやく理解ができたらしい皆の様子に、不快な思いで睨め付けながら内心で不満を呟く。そうして今後も続いていくであろう面倒な展開を思うと更に苛立ちが募っていった。
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