婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者を諦めない

青天の霹靂 ～婚約解消～

「クロエ、君との婚約の話は白紙に戻したい。」

クロエ・ブライトンはその時まで、今日という日が、彼女が世界で一番幸せな女の子になると信じて疑わなかった。

17歳の誕生日に、最愛の婚約者、アリオン・ベルファストから正式にプロポーズされると確信していたから。

それなのにアリオンの口からは、到底信じがたい言葉を告げられた。

「えっと、、、はい？？ アリオン様、今なんとおっしゃいましたの？」

クロエは自分の聞き間違いではないかと恐る恐る尋ねた。

「クロエよく聞いて、婚約の話が出ていたが、白紙に戻したいと言ったんだ。本当に申し訳ないと思っている。君のことは好きだし、今も僕にとって特別な女の子だ。それは間違いない。」

クロエはアリオンの言葉で、金槌で頭を殴られた気分になった。

「なぜ？？ どうしてそのようなことを突然おっしゃいますの？？」

クロエは心の中の疑問をそのままアリオンにぶつけた。

「クロエは僕をずっと好きでいてくれたよね。本当にうれしかったし救われた。だけど、僕は君といると、本当の自分が分からなくなるんだ。結婚後の生活が想像できないんだ。」

アリオンの美しいブルーの瞳が迷いで揺れ、自信なさげに地面を見つめた。

「アリオン様、不安にさせてしまい申し訳ございません。アリオン様の気持ちを置いてけぼりにして、私の愛を押し付け過ぎていましたか？それでも、これからは時間をかけて、婚約者として尊敬し合える関係を築いていければ・・・！」

クロエが言葉を続けようとすると、珍しくアリオンに遮られた。

「君が大切だからこそ、中途半端な気持ちで結婚できない。1人の女性を好きになるということがどういうことか、僕は分かってなかったんだ。」

その言葉を聞いたとき、クロエははっとし、ふつふつと怒りが沸いてきた。

「・・・セリーナですか？」

「アリオン様に馴れ馴れしく付きまとっていた、セリーナ・レスターでしょう？何か吹き込まれましたか？」

クロエの目つきが鋭くなり、ここにはいないセリーナの名を忌々しそうに呼んだ。

「クロエ、それは違うよ。セリーナは僕に何も吹き込んじゃいない。むしろ僕に気づかせてくれたんだ。自然体でいて楽しい相手、大切にしたいと心から思える相手がいることがどんなに素晴らしいかということを」

アリオンは切なげな表情でセリーナのことを語った。つまり、自然体でいられる相手、大切にしたい相手というのはセリーナのことだろう。

出会ってから10年もの間、彼を思い続けたクロエにとって、アリオンの言葉は信じられないくらい残酷なものだった。

「・・・許せませんわ、あの女。」

「クロエ！彼女に何かするのは止めてくれ。これまでの君の彼女への行いも知っている。そういうところが僕は。。。」

「アリオン様」

アリオンに有無を言わさぬうちにクロエは言葉を続けた。

「アリオン様は、惑わされているだけです。一時の感情で、今まで積み上げてきた私たちの関係を壊さないでください。このお話は聞かなかったことにします。」

アリオンの性格上、このように言われて事を進めるほど強引でないことをクロエはよく知っていた。アリオンはいつだって、クロエの気持ちを優先させてくれるのだ。

クロエは、何か言おうとしているアリオンに背を向け、その場を去った。

呼び出されたこの場所は、幼い時からの二人の秘密の場所。

草花が見渡す限り広がる美しいこの場所で、

誰よりも大好きなアリオンからプロポーズされると思い込んでいた自分が恥ずかしくなった。

クロエは涙を流しながら家路に着いた。