34 当たり前
ボソッと呟いてしまった言葉に、途端に恥ずかしくなってしまい、カァァァ〜と顔に熱が集まる。
何言ってるんだ!いい歳したアラサーのおっさんが!
しかもこんなオール万能イケメン青年相手に!
「 ハハハッ!な〜んて、嘘、嘘っ。全部嘘〜!
ごめんごめん、変な事言っちゃって…… 」
頭の中で調子に乗っちゃった自分をピシピシと叩いていると、腕を緩めないままヒカリ君が不思議そうに言った。
「 ?当たり前でしょ? 」
────トスッ……
何かが心に優しく刺さり、そのまま抜けなくなってしまった。
ジ〜ン……ジ〜ン……
染みる様な感動に身を震わせていると、寒いと思ったのか、ヒカリ君はサスサスと体を摩ってくれる。
それも何だか嬉しいぞ〜?
気分が良くなってニコニコしていると、ヒカリ君は一度顔を離し、俺を見て嬉しそうに笑った。
「 一生俺のためにご飯作ってね。
それと布団も干して。 」
────あ、家政婦的な感じぃ??
ニッコリ笑顔のまましばし固まり " もう少し友情チックなやつだと思っていた! " と少々複雑な想いを抱く。
しかし────……
まっいっか!それでも嬉しいし!
そう気持ちを切り替え、鼻の下あたりを人差し指で擦る。
「 ーー────っもうっ!しょうがねぇなぁ〜!
一人暮らし歴うん十年、家事はこのおっさんに任せなさい! 」
へっ!と笑いながらそう言うと、ヒカリ君は幸せそうに微笑み、そのままぎゅうぎゅうとまた強く抱きついてくる。
正直ゴロゴロついているへんなダイヤとか金とかが体に当たって痛いが、せっかくの感動シーンを邪魔したくなくて耐えていた。
────が、神様兄さんがソファーの陰から顔をチラチラ出しながら、それをあっさりとぶち壊す。
「 あの〜イシさんあげるので帰って貰えないですかねぇ〜?
俺、ちょっとこれから大事なお仕事があるんで! 」
「 ちょっ......!何サラリとまた人権フル無視の事言ってるんですか!
しかも仕事って……? 」
先程までのノリノリな様子を思い出しながら呆れていると、神様兄さんは慌てて両手を振った。
「 神様はマジ、超忙しいの!
だから、ほらほら。もう解決したっしょ〜?
帰って帰ってぇ〜。その怖いの連れてってぇ〜! 」
汗を大量に掻きながら、大人しくなったヒカリ君をチラチラ見ている神様兄さん。
そしてヒカリ君は神様を完全無視して帰ろうとしたので、俺は慌てて、神様兄さんに話しかけた。
「 あ、あの!ちょっと一回だけ地球に帰してくれませんか?
職場に謝罪と退職届……それと今まで仲良くしてくれた人達にお別れだけしたいんですけど…… 」
流石にこのまま行方不明では迷惑が掛かってしまう。
そのため一度帰りたい旨を伝えたのだが……ヒカリ君から一気に不機嫌オーラが滲み出て、慌てて口を閉じた。
更にその不機嫌なオーラを一身に当てられている神様兄さんは慌てた様子で、ポポンっ!と何もない空間から白い紙とペン一式を出す。
「 大丈夫大丈夫!
俺が完璧に筆跡真似してイシさんおお知り合い全員に手紙送っておいてあげるから!
えっ〜と……《 駆け落ちします。グッバイ。山野 石郎 》
これで完璧っしょ〜! 」
「 はぁぁぁぁぁ────!!??
いや、ぜんっぜん完璧じゃないんだけど────?! 」
必死に伸ばした手も虚しく、神様兄さんはその手紙?を折って紙飛行機にすると、ピピュ〜!と白い空間の先に向かって飛ばしてしまった。
「 は〜い☆ミッションインコンプリ〜ト!
じゃあねぇ〜!さようなら、バイバ〜イ!
出来ればもう会いたくないから、お幸せにねぇ〜! 」
「 ……えっ、ちょっ、ちょっと神様??! 」
あんなふざけた手紙が本当に届いてたら羞恥!!
すぐさま回収して欲しかったのに、神様は手に持っていたペンでサラサラサラ〜と子供の絵の様なドアを宙に描くと、そのままそこに手を振りながら入ってしまった。
に、逃げた……??
えぇ〜……と目を細めてジッとそのドアを見つめていたが、突然白い空間に大きなヒビが入ったためギクッ!!と身体が固まる。
さらにはそのヒビはどんどんと大きく広がっていき、とうとう崩れ始めてしまったため、あたふたと慌てながら周囲を見回した。
「 あぁぁぁ────!!た、大変だ!空間が崩れちゃうっ!! 」
服が重くて逃げられない俺がワー!ワー!と慌てていると、それとは対照的にヒカリ君は落ち着いて俺をヒョイっと抱き上げると、入ってきた穴から軽い感じで飛び出した。
結構な高さであったため、地面に着地するまで驚いてしがみつく俺を嬉しそうに眺めるヒカリ君。
「 あ、ありがとう……。 」
お礼を告げた後、宙に空いているヒカリ君が開けた穴を見上げると、その穴は徐々に青空と混ざっていき……
やがて消えてしまった。
何やらすごい体験をしてしまったなぁ……
今の今まで神様と会っていたというのが信じられず、ボケ〜としていると、目の前には汚物を描かれている集団が、俺の姿を見るやいなや、泣きながら土下座してくる!
それも初めてされたので驚きポカンとしてしまうと、ヒカリ君がニコッ……と控えめに笑った。
「 さぁ、イシ。誰から処刑する? 」
「 ────えっ!!?
いやいや!そんな事しないよ!! 」
青ざめながらブンブンと首を横に振って否定すると、わーんわーん!と皆泣く。
本当に赤ちゃんみたいに泣いてる!
それを見て、怖かったでちゅね〜かわいそうに……と同情していると────
「 ありがとうごさいます────!!貧弱ネズ……じゃなくて逞しいネズミ様ァァ〜! 」
「 このご恩は決して忘れません、ドブネズ……じゃなくて!上品なネズミ様ァァ〜! 」
コイツら……
絶対反省してないそれはそれは逞し〜い精神力を持つ異世界の人々に汗を掻く。
更にチラッとアイリーン達にも視線を向けると、こちらもさめざめと泣きながら────
「 ごめんなさ〜い!とりあえずペットとしてなら存在しててもいいからぁ〜! 」
「 勇者様と結婚したら小屋建ててあげるからぁ〜ん!あ、犬小屋でいい? 」
「 たまに散歩に連れてってやってもいいんだぜぇぇ〜ん! 」
「 鍋底に残ったスープをペロペロしてても、もう汚いなんて言いませんからぁ〜。 」
…………これだよ。
アイリーンにメルク。ルーンにキュアは今日も変わらず精神力がゴリゴリマッチョ!
そもそも毎日の様に鍋の底に残ったスープをペロペロする羽目になったのは、コイツらが俺の分までスープを食べるから!
まったく〜!
ふざけた事をまだまだ言い続けるアイリーン達に、俺は空間に開いた多次元ボックスの入口から人数分の使用済みパンツを取り出すと、ブンブンとそこで大きく振り回してやった。
それに四人はギャーギャー!と叫びながらパンツを取り返そうとしたが、勇者様が怖いのか、少し離れた場所で手を伸ばすのみ!
ちょっとスッキリした。
ぶっちゃけ勇者様ありきだから情けないけど!
くぅぅぅ〜!
男、かつ年上としての複雑な思いに顔をぐちゃりと歪めたが、結局行き着くのは ” まっいっか! ”
結局俺という人間は、何であれきっと全力でやって意地悪されても楽しむし、こうしてちょっと他力本願な意地悪し返ししても楽しい!
つまり俺の人生って悪くない。
しかも更にそんな人生に必要としてもらえる場所も手に入れてしまったのだから、 ” 悪くない ” から ” パッピー ” に大出世だ!
チラッと俺を穏やかな顔で見つめているヒカリ君を見上げて、気分はとっても良い。
ルンルンと上機嫌で鼻歌を歌っていると、突然ヒカリ君は俺に言った。
「 ねぇ、イシはこれから何がしたい? 」
「 えっ?────……そうだなぁ…… 」
俺が決めてもいいのかな?
突然選択肢を与えられ、困った様にヒカリ君を見上げたが、そこには " いいよ " と語る穏やかなままのヒカリ君の顔があった。
” 無料なモノは全て貰うべし ”
それがモットーの俺は、ワクワクしながら、遠慮なくその希望を口に出した。
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