第52話 訪問と来訪
登場人物
和泉 悩めるイケメン中学生
七海兄 七海の兄
氏家 七海に告白した美少女
「なにをしている?」
後ろから声を掛けられた俺は呼び鈴を押す手を止めた。
「お兄さん……」
振り返ると七海兄が立っていた。
「和泉……、夏休み中にキスするというミッションはクリアしたのか?」
彼に問われて俺は首を振る。
「ならば、お前にお兄さんと呼ばれる筋合いはない。弟ならまだ戻ってきたないぞ」
「え? そうなんですか……」
「なにかあったのか?」
「早退したんです、調子が悪そうだったから心配で」
「そうか、風邪は引いていないようだが数日前から浮かない顔をしていたな」
「え?」
「俺はてっきりお前と弟の間になにかあったのかと思ったんだが、そうではないのか?」
「いえ……、僕と七海の関係は平行線のままですから」そう言って俺は微苦笑を浮かべた。
「ふむ、弟が戻るまで弟の部屋で待っているか?」
七海兄はそう言ってくれたけど俺は頭を振って「今日は帰ります」と断り、七海の家を後にした。
その帰り道のことだ。
「和泉くん……」
家の前で呼び止められて振り返ると氏家さんが立っていた。
「氏家さん?」
「ねぇ、少しお茶しない……おごるからさ」
「うん? 別にいいけど」
「じゃあ、いこっか」
きっと俺に話があるのだろうけど、メールや電話じゃなくて俺の家まで直接来てまで話す内容ってなんだろう?
彼女の後についてやってきたのは大人の雰囲気な洒落た喫茶店だった。
マックとかミスドに入るかと思ったけど、さすがお嬢様学校に通うお嬢様だな。そんなことを思いながらメニューを開く。
「う……」
ブレンドコーヒーが七百円、たけぇ……。それにオレンジジュースが九百円ってなんでコーヒーより高いんだよ?
おごってもらうにしても気が引ける値段だけど、学校に行って寄り道せずに帰るつもりだった俺の財布には三百円しか入っていない。
「メールではやりとりしたけど、会うのは久しぶりだね」俺は言った。
「うん、そうだね」
いつになく氏家さんの態度がしおらしい。
「最近は七海と良く会ってるんだって?」
氏家さんとちょくちょく遊んでいることは七海からある程度聞いていた。
「うん……」
「元気ないように見えるけど、もしかして七海となにかあった?」
もしかしたら七海の女装がバレたのか、それとも七海からカミングアウトしたのか――。
それなら七海の様子が変だった理由に合点がいく。
キュっと唇を堅く結んだ彼女は、
「わたしね、告白したんだ」
テーブルの上で絡めた自分の指を見つめながら、そう言った。
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