そのろく
明石は早朝から裁判所にいた。
今日はカワチの事件の公判だ。
大久保に頼まれたというのもあるが、自分自身でも気になっていたのでむしろ来られて良かった。運良く整理券も取れた。
恐らく事情が事情なので情状酌量で殺人でもそれ程重い罪にはならないのではないか、と大久保は言っていたが、それでも心配だった。
あの事件以来、カワチの両親は家も車も売り払い田舎の親戚を頼って引っ越しをし、兄マサツグも会社をクビにこそはならなかったがむしろ会社からの温情として海外への長期赴任が決まったという。結果的に最悪の形での一家離散となったが、しかしあの家族に取ってはそれで良かったと明石は思っている。
被告人席に立つカワチは凛としていて、明石が最初に見た不幸そうな女はどこにもいなかった。彼女は入廷した時、傍聴席に明石がいる事に気付いて小さく会釈してきた。
その背中には何もなく、ひとりの女がそこに静かに立っていた。
Superstition タチバナエレキ @t2bn_3
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