すべての人への呼びかけ

ケット

第1話

 わたしはこのとき、たまたま地下鉄のホームにいて、「あれ」が起きたことに気づきました。

 人々はパニックになり、いろいろな動きをします。

 意味もない暴力もたくさん。


 わたしはたまたま大したケガも負わずに、地下線路を小走りに歩いています。


 ふと、扉が見えました。

 運よく列車にはひかれなかったようです。

 扉に入って後ろ手に閉め、しばらく走ります。


 どれだけ歩いたのか。着きました。

 ここはどこでしょう?

 部屋です。

 かなりの図書室があります。

 白紙と筆記用具がたくさんあります。

 水と缶詰がたくさんあります。トイレも解決されています。

 ラジオがあります。

 コンピュータがあります。そこにはウィキペディアや、世界の主要新聞の過去記事全部がストレージに入っていることがわかります。電源の心配もありません。


 ラジオをつけると、今日がその日だとわかりました。

 人類は滅亡した。あなたは世界で最後の生き残りになるでしょう。(注)

 この部屋から外に出れば確実に死にます。

 誰も助けには来ません。

 ここの食糧とエネルギーで、数か月か数年か数十年か、生きられます。


 読んで書く。それしかやることはありません。

 本やネットの情報をもとに。

 この部屋のでわたしの白骨を見つける、将来の……昔テレビで見た、人類が滅んだあと進化した何かの動物か、それとも異星人か。

 わたしの文字を理解してくれることを祈りましょう。


 みなさんも、わたしの立場だと思って、書いてみましょう。

 何を書きましょうか。それこそご自由に。


 わたしは?そうですね……


 誰か読んでいますか?わたしは、地球人。この星に生じた、ホモ・サピエンス・サピエンスという生物種です。生物種の分類については……

 日本人……地球人は、個体ごとに意識と寿命があり群れて言葉などで制度を作る存在です。その法的な身分……

 法的とは?身分とは?

 意識とは?要するに、地球人は脳内でフライトシミュレーターのようなのを作り……




 想像してみてください。滅亡後を。破局後を。

 誰に何を伝えたいですか?

 人類とは何だったのでしょう?

 何があなたにとって大事でしょう?

 ほかにも考えるべきこと、書くべきことはたくさんあるでしょう。


 どうか書いてください。



注:人類が滅びる原因が何であっても、2024年2月現在の地球人が大馬鹿であることには違いありません。

もちろん核戦争やナノマシンによるグレイグーのような人間の行動が原因だったら大馬鹿ですが、小惑星の衝突など自然原因だったとしても、ちゃんと宇宙の外に最小限生存する人がいるよう手配していない=「宇宙船地球号には救命ボートがない」状態にしていることには変わりありません。馬鹿。

確かに宇宙全体がビッグリップとか、別銀河の砲撃の流れ弾が銀河系全部消し飛ばすとかならどうしようもないにしても。

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