第28話 熊本城の話

 ゴールデンウィークです。数ヶ月前に大分から福岡にかけて出張したのを奥さんが妬むので、大分から熊本にかけての奥さん孝行をすることにして先日行ってきた。その最後が熊本だったのですが、その報告をしたいと思う。

 熊本城は熊本地震で大きな被害を受けたということを知る人は多いと思うが、ニュースでなんとなく復旧したと思っている人も多いのではないか。私はその一人だった。しかし実際は本丸が復旧しただけで、周辺はまだまだ復旧途中であることを行って見て初めて知った。それと共に、過去の見学通路は石垣の崩壊が危険との理由で通行止めとなっており、ものすごく立派な空中見学通路が出来ていた。

 現在の本丸は実は昭和35年に建てられていたことも初めて知った。明治に焼失して、地域の人たちの要望で再建されたらしい。名古屋城は再建した鉄筋コンクリート造の建屋を木造で再建し直そうとしている話を聞いたことがあるように思うが、熊本城はちょっと違った。昭和35年に再建するに当たり、石垣に指一本触るなと言う条件で再建されたのだという。設計者はどこかの大学の教授だそうだが、石垣に強度的な負担をかけないようにと鉄骨鉄筋コンクリート造で作られた。そして、杭が設置されているのでる。現在の熊本城本丸は熊本城の歴史が学べるようになっていてなかなか興味深いのであるが、建築屋としても非常に面白い。

 昭和35年当時の杭は、人力で掘ったらしい。現在では国内すべての現場で機械を使うが、熊本城でも当時は30m以上の杭を人力で掘り杭先端の地盤の確認も設計者が自ら入って確認したらしい。工法としては今でもあるものの、私が生まれる5年前にそういう工事をしていたというのは驚きだった。

 そして、鉄骨鉄筋コンクリートの躯体である。昔の写真などを基に瓦の枚数を数えながら寸法を計算したとか破風のムクリを算出したとか、なかなか凝って再現されている。その姿は確かに素晴らしい。難攻不落の城という点でもたいした物なのである。

 話はそれるが、何故復旧工事を大林組が行っているのか疑問だった。それは昭和35年に振り返り、このときの再建を大林組が行ったと言うことなのでその流れなのだろう。テレビを見ていて、崩れそうな建物を再建しているのを見てすごいなあと思った人も多いと思う。私も思った。特にほんの一部の石垣の残骸で建物が残っている画像は驚きだったのではないか。ここから復旧したのだろうと思う人も多いと思うのだがしかし、現実はその建物は解体されていた。

 それでは本丸の何を復旧したのかと言うことなのだが、杭に破損はなかったとのことなので本質的な構造は損傷がない。皆が映像で見た石垣は崩落した。そして旧来の方法で葺いていた瓦やしゃちほこが崩れた。石垣の復旧は写真を見ながら落下した石を一つ一つ復元したと言うからそれはそれですごい。でもここにゼネコンの技術力は無い。しゃちほこは破損したので新しく作成した。瓦も割れたものが多くあったので新造した。瓦は在来の土で固める方式から番線で固定する方法に変えたというが、現代としては当たり前の工法である。ここにもゼネコンの技術力は感じない。ゼネコンの技術力としては、熊本地震と同規模の地震が来ても制震構造にすることで問題なくした点のようである。

 熊本城は見学するのに順路が定められている。下階から階段で一フロアずつ上がっていくのだが、途中階では城の中にいることをほとんど感じない。最上階のみ見晴らしが良いので城にいると言うことを感じはするのだが、その他は歴史博物館という感じだ。内容は非常に興味深い展示で、見学者を飽きさせないと思う。

 さて、ゼネコン力を感じるのはむしろ外部ではないだろうか。先ほど述べたように震災で崩れた石垣の際は危険なので、空中見学通路が出来ている。これは歴史的建造物を多少は意識しているのかもしれないが、大々的な鉄骨橋である。大林組も当初はこういう構想はなかったのかもしれないが、ここで大いに活躍した。業界的に言うならば、大いに受注量を増やし利益を上げたものと推測される。ちょっとずるいかな?

 九州は関東近辺からは遠いし、なかなか行く機会はない。東日本大震災は関東も揺れたので自分事として認識しているが、熊本地震はどこか遠い地で発生したような感じで主体的には感じていなかった。ニュースだけですでに過去のもののように感じていたが、石垣の復旧だけでも完了したのは一部だけのようだった。

 本丸が完成したという明るいニュースで終わらせるのではなく、もっといろいろな情報を発信すべきなのではないか。そういえば東日本大震災の後の現況を、どれだけの人が正しく認識しているだろうか。最近テレビ離れが進んでいるという。お笑い番組や旅行番組ばかりでなく、ファクトフルネスを発信しないと、ますますテレビは廃れる。変化できるか?

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