第18話 一級建築士の話

一級建築士と聞いて何を思い浮かべるだろうか?建築に関するエキスパートと思うのだろうか?資格というのは一過性のもので、受験の時には知識があったかもしれないがその後については不明というのが実際だろう。但し実務の中で、こんな感じのものがあったよなと気づけるという点で効果がある。何の知識もない田中角栄が一級建築士登録1号だということから考えても、資格というのは参考でしかないのである。

ところが現在、一級建築士を取得するのは結構難しい。私より前の人は実務をきちんと行っていれば合格すると言っていたが、問題は年々難しくなっていて実務だけでは絶対受からない。日建学院とか総合資格協会といった予備校に通わないとほぼ合格しないといってよいだろう。かといって、資格を持っているから知識が豊富とか但しいいことを言うと考えるのは間違いで、弁護士にしても医師にしても同じである。合格率というと一級建築士は医師よりも低いとされる。医師の場合は志の高い人が受験をするのに対し、一級建築士は会社から強制的に受験させられる人が多いということがあるので、合格率が低いから難しいということではない。私の周りにも付き合い受験をする人は多く存在するのである。そして、専門的知識に明るい人は正答しにくいという点もある。問題は一般的な常識に対して出題されているが、設問でできないとされていることでも最先端技術ではできることもあるからである。だから、予備校で模範解答を学ばないと合格しないのであるが、皮肉だ。要するに試験の為だけの勉強をしないといけないのである。

一級建築士の試験には1次と2次がある。1次は学科試験で2次が製図である。学科は私の受験時には4科目だったが、現在は5科目となって関門が高くなった。そして2次、現在の若い人は図面を手で書くことはおそらく皆無だ。CADが普及したからである。でもなぜ手書きなのか?インターネットを探ると何となく答えがわかる。CADにはいろいろなソフトがあるので、試験に一つのソフトを指定するのは不公平感という点で難しいということがある。試験会場に全員分の電源を準備する事にも難があるということもあるようだ。試験開催側の都合だ。一方、昔は試験開始まで課題はわからなかったが、現在では課題が事前に発表される。であれば、事前に練習ができるわけだから不合格になる方が難しいということなのではないかと言ったら受検者に失礼か?

一級建築士の試験、特に一次試験が難しくなるにつれて、設計事務所に一級建築士が減ってきた。設計事務所には管理建築士の任命が必須だ。設計事務所を運営する条件だからである。管理建築士は常駐であり、複数の設計事務所の兼務は許されない。私の経験で、結構歴史があり団体の代表を務めていた設計事務所とお付き合いしたことがある。私の現場の担当者は一級建築士を持っていないが、時々一緒に立ち会う先輩格の方が一級建築士だった。おそらく70歳は優に超えていたと思う。何かのタイミングでその設計事務所を訪問することになったのだが、入り口に管理建築士の任命書が掲示されており名前はその先輩格の人だった。要するに事務所には一級建築士が少なく、この先輩格の人の名前を使って設計しているのだった。おまけに、この人と話をしていても何を言っているのかわからないことが多かった。極めつけは、建物がだいぶ出来上がってきたころ1Fに設置するターンテーブルの強度が不足しているので何とかしてほしいと言ってきた。なんともなるわけがない。竣工後どうしたかまでは知らない。関わりたくもない。こんなことを書いていて設計事務所のHPを見てみようと思ったら、すでに倒産していた。資金繰りが原因と書いてあるが、一級建築士がいなくなったからかもしれない。

以前は建設業界で3年の実務を積まないと受験資格がなかった。しかし今は、大学で勉強したての状態で受験できるように改正された。合格しやすくしようと言うことらしいが、なんだか変である。但し合格しても実務を3年積んでから資格証の発行となる。2次1次試験合格後2次試験で失敗した場合、以前は1次試験の合格が翌年まで有効だった。要するに1次試験免除である。ところが今は翌々年まで有効となり甘くなった。

建築で施工を担当する場合に一級施工管理技士というのがあるのだが、こちらは1次試験が4択か5択で(たぶん4択だったような)2次は筆記試験であるのだが、昔は両方に合格しないと一級施工管理技士を名乗れなかった。ところが現在では1次試験さえ合格すれば一級施工管理技士補を名乗れるようになった。これも建設業への入職者が減ってきたことに対する、資格者を増やすための方策である。特に零細企業に有効だ。こんなことをしているから労働条件が悪く施工能力も低い数多くの施工業者が生き残るのである。できることならやめるべきだ。

他の資格についても、追々紹介したいと思う。

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