夢は病か幻か

蒼井 狐

第1話

 ……昔です。いえ、まだまだ昔。人語もなきようなその昔……。

 ヒトは虚偽というものを信仰しておりまして。それは今なお続くものでして……。

 ハテ、人は何から虚偽を生み出したのか……。咄嗟に出たもの、そういう考えは私にしてみれば、それを言い始めると全てソレで片付いてしまうというもので……。マァ、咄嗟と一つ言いましても、その咄嗟が出るに至るまでの経緯や経験というのが、本人の自覚なしにあるとは思いませんか。

 ホホホ、そうでしょう。……サテ置いて、虚偽、それを作るにはまず虚偽を虚偽であると理解する能力が必要になりますね。そして、虚偽を作る能力も必要です。……えぇ、その虚偽を作るキッカケ、それはなんなのでしょうか。私は、みなさんが眠る時に見るであろう夢にあるのではないかと思うのです。

 みなさんは日々想像に難いほど、多くのものを見聞きしています、それが今までの人生続いてきたと思うと、膨大な量のものを記憶しているはずです。

 では、貴方たちが絵を描くとしましょう。それは今までに見たことがある複雑なものを描くとします。キャラクターであっても、人物画であっても構いません。ですが一つ条件がありまして、それは、思い出しながら書いてもらうということです。思い出しながら描くことによって、その絵には、実際のものとは大きく相違の生じた点がいくつか見られるでしょう。その相違が、虚偽を生み出す一つのヒントとなります。貴方たちは今、ここに新しい虚偽を意図することなく作り上げたのです。記憶を頼りに思い出せないところを無意識下に虚偽で補った、というとわかりやすいでしょうか。そのズレが大切なのです。

 そして、虚偽を生み出す二つ目のヒントが、私の考える夢なのです。夢とは、みなさんが今、朧げな記憶を頼りに生み出した虚偽の絵とは比にならないほどの奇ッ怪さを有しています。夢の中で起こり得る事象は、顕在的なヒトの脳では生み出し難いものを容易に生み出すことができるのです。そして、みなさんも経験があるとは思いますが、夢の中とは、ハッキリと何かを見るのではなく、ボンヤリとしたものの流動と言いますか成り行きと言いますか……。

 起床した後に夢を思い出そうとすると、あの場所はどこであったかとか、あの人は誰だっけというように、ふわふわとした記憶になりますよね。思い出そうとして色々な場所や人を思い浮かべてみると、どれも当てはまるようでしっくりこないといったような経験もあるかと思われます。時系列、人物、場所さえも混同し、全てがスープのようにかき混ぜられた、あやふやな記憶となるのです。

 例えばそれにより、いろんな動物の特徴を有したキメラという生き物を作り出してしまったりするわけですね。

 しかし、このような事象は夢だけに起こり得るものでもないのです。朧げであれば現実にも起こり得るのですよ。暗闇の中で何か影のようなものが見えると、それを幽霊だと言って、その時にみた影の形を思い出しながら描いてみると、奇妙なものが完成し恐ろしいものを見たと口伝されたり……。

 斯様にして生み出されたのが神だとか精霊、悪魔や幽霊などと言われるわけです。

 ここでようやく本題に触れます。幻覚という言葉を聞くとどのようなイメージを持ちますか。おそらく、薬の副作用だとか、なにかしらの精神疾患の症状であったりを思い浮かべると思います。思い浮かべたどれにも共通する皆さんのイメージがあります。これもおそらくですが、間違いという認識を持つのではないかと思われます。

 例えば、薬物乱用をした当事者が見ている幻覚を、側から見るいわゆる健常者には見ることができませんね。逆に、いわゆる健常者からは薬物乱用者が見ている幻覚を見ることもできません。これは精神疾患の症状にも同じく言えることです。

 皆さんがこの二つの例、幻覚の話を聞いた時には薬物の乱用者・精神疾患者もしくは、いわゆる健常者の見ている世界はどちらが正しいと思いますか。

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