第8話 魔力か聖力か


 この世界に来て、まだほんの数日。

 こうして侯爵様に抱っこされて移動するのは何回目だろう……

 歩く速度にあわせてゆらゆらと揺れるのが心地よく、眠くなりそうだ。


「さっきの、あれはなんだ?」

「えっと、さっきの?」

「最後に魔獣を倒したアレだ。まるで、全てを浄化したかのような」

『正解、あれはプリンセスの浄化魔法』


 私はぼんやりとしていて、頭が回っていないようだ。

 そんな私をフォローするかのように、フィーネが代わりに答えてくれている。


「魔力で浄化は行わないはずだ。浄化や治癒といった能力は聖力で行うものだろう」

『プリンセスに聖力なんてない』

「というか、あの世界にそんなの持ってる人いたのかな。お父様から魔力と聖力の違いについては聞いたことあるけど、聖力なんておとぎ話の世界の話だと思ってた」


 魔力と聖力は似ているようで、相反するものだと教わった。

 魔力は基本的に無から有を生み出すことや、物事を破壊するのが得意だという。

 例えば、火や風を起こしたり、何かを攻撃したりなど。

 もちろん、それ以外にもできることはたくさんあるけれど。

 対して聖力は元々あるものの力を増幅させたり、何かを浄化したり、治癒させたりするのが得意らしい。

 例えば植物の成長を促進させたり、荒れた地を復活させたり、病気や怪我を治したり。

 けれど、私の魔力はちょっと変わっているらしい。

 私は魔力を使って何かを浄化したり、病気や怪我を治したりすることができる。

 お父様曰く、聖力のそれとは異なる浄化や治癒能力らしいのだけれど、聖力の使い手には残念ながら出会ったことがないので、正直違いはよくわからない。


「あれは魔法だったと?」

「はい、あれは正確には水魔法の延長みたいなものなんです。私の得意魔法、水魔法なんです」

「水を操るのが得意ということか」


 少し、勘違いをされている気がする。

 人は道具を使って、火や風を起こすことはできる。

 けれど、水を作り出すことはできない。

 水は自然界にあるものしかなく、本来人には増やすことも減らすこともできないものだ。

 だから水魔法といっても、もともとあるどこかの水を借りてきて使うような形になるのが一般的である。

 侯爵様はおそらく、そうして借りてきた水を操って何かしらの魔法を使うのが得意だと思っていそうだ。

 まぁ、そういった魔法も得意ではあるのだけれど。

 フィーネが説明してくれるかな、と期待したけれど、めんどくさくなったのかいつの間にか精霊石の中に入ってしまった。


「私は、私自身の魔力を源にして水を出せるんです」

「そんな事ができたら、世の中の全ての水不足を解消できそうだな」

「はい、だからちゃんと有限です。私の魔力を使い切るまでしか出せません」

「だったら、魔力が尽きる前に回復させれば……」


 そこまで言って、侯爵様は何かに気づいたようだ。

 本当によく理解していらっしゃる。

 説明は非常に簡単に終われそうだ。


「だから、おまえの魔力は他者が回復させてはダメなのか」

「はい、私が他の人の魔力を回復させることはできますが、逆はできないようになっています」


 誰かが私の魔力を回復させようと魔力を送り込めば、それは私の中で毒となりかなり苦しむことになる。

 さらに、体内の魔力を奪われ、魔力の回復も余計に時間がかかってしまう。

 たくさん送り込まれてしまうと死に繋がるかもしれないから、十分に気をつけるようにとお父様によく言われてた。

 もしも私の魔力を回復することができれば、代わる代わる魔術師が私に魔力を供給することで、無限に水を出すことができ、無限に人々の病気や怪我を治せてしまうかもしれない。

 水を出すことも、病気や怪我を治すことも、時には人の生死にかかわるようなことだ。

 だから、そんな事ができてしまえばもはや神のようだが、私は人間なのでちゃんとそんなことはできないようになっている。

 他者に魔力を供給してもらえないのはもちろんだが、たくさんの水を出せば、普通の魔法よりずっと疲れるし、数日は魔力が回復しないこともある。

 その上全魔力を使い切ったとて、実はそんなにたくさん水を出せるわけではない。

 水不足なんて、到底解消できないだろう。

 また、治癒魔法も、もし命にかかわるような病気や怪我を治すとなれば、こちらも命がけになるだろう。

 できることはちゃんと限られているのだ。

 魔法は決して万能ではない。世の中、よくできている。


「水って汚れているものをきれいにすることができるでしょう?さらにきれいな水は傷や病気の回復を助けることもあります。だから浄化や治癒の魔法ってそういう水の特性を利用した、水魔法の応用みたいな感じなんです」

「つまり、あくまで魔法であって、聖力による浄化や治癒とは別もの、ということか」

「はい」


 納得してもらえたのかな、と思ったけれど。

 侯爵様は、また何か考え込んでいる。


「まだ何か気になることが?」

「ああ、魔獣を攻撃せずに浄化した理由は?」

「えっ?だってあれ、瘴気のかたまりでしたし」


 この世界のように獣の形はしてなかったけれど、私の世界にも瘴気のかたまりのような生き物は現れたことはある。

 そもそも、あれを生き物と呼ぶことが正しいのかわからないが。

 あの世界では、うねうねしていて、なんかおばけみたいな存在だった。


「攻撃して瘴気を砕くのも有効的ではありますが、浄化してしまった方がたぶん早いだろうなって」


 だから侯爵様より私がやってしまうのが早く終わると思った。

 けれど、こんなにも疲れるだなんて予想外だ。

 今後はあんなものが現れても簡単に浄化できそうにない。


「そうか、魔獣も所詮瘴気のかたまりにすぎない、か……」


 瘴気をまとった獣だと、侯爵様は捉えていたようだ。

 だが、私の浄化により跡形もなく消え去ったのを見たのだ。

 違っていたのだ、と気づいてくれただろう。


「おまえといると、今までの俺の常識が崩されていくな」

「あ、ごめんなさい、そんなつもりは……」

「いや、責めているわけではない。あれが瘴気のかたまりだったとして、やることは今までと変わらないしな」


 おそらく浄化ができる私だから気づけたことだ。

 とはいえ、あれが瘴気のかたまりであれ、瘴気をまとった獣であれ、浄化魔法を使えるわけではないなら、おそらく対処法は何も変わらない。

 となれば、それは微々たる誤差にすぎない。


「どっちでもいいが、おまえはもうやるなよ」

「へ?」

「魔獣を倒すたびに倒れてたんじゃ身がもたないだろう」


 魔獣を倒すのは、この国では魔法騎士様のお仕事なのだそう。

 確かに、ただ武器で攻撃するだけでは、あれは倒せない。

 あれを倒すには魔法で攻撃するか、もしくは……


「そういえばこの世界に聖力を持っている方、いらっしゃるんですか?」

「ああ、魔力持ちほど多くはないがな。神殿に何人かいるが、あまり大きな力を使うやつには出会ったことないな」

「というと?」

「浄化といってもたいして浄化できていなかったし、治癒魔法といっても多少痛みが和らぐ程度。気休めくらいだな」

「私の世界にはそもそも聖力を持った人がいなかったし、魔力が強い世界だと、強い聖力は現れないのかも……」


 聖力保有者による浄化も効果があるかも、と思ったけれど。

 この国ではあまり期待できないようだ。

 でも、瘴気のかたまりがあんなにたくさん現れるなんて驚きだな、そんなことを考えているとまた眠気が襲ってくる。

 眠ってしまわないように、目をこすりながら必死に耐える。


「眠いなら寝てろ。このまま部屋まで連れて行ってやるから」

「だ、大丈夫です……」


 運んでもらっているだけでも、申し訳ないのに、このまま寝てしまうなんて。

 そう思うのに、まぶたがどんどんと重くなっていく。


「眠いんだろ、無理しなくていい」


 おまえのおかげで助かったのだから。

 優しい声でそう言われ、私はとうとう降りてくるまぶたに抗うことをやめてしまった。






 眠り込んでしまった私を、侯爵様はお部屋に運んでくれて。

 ミアさんは、寝ている間に着替えさせてくれて。

 さらに、侯爵様が呼んでくださったお医者様が診察までしてくれたそうだ。

 至れり尽くせりの状況に、びっくりしてしまう。


「でも、これは魔法を使って疲れただけであって、病気ではないんですが」

「だが、薬を飲むことで、身体の不調は解消できる。だからこれは飲んでおけ」


 お医者様曰く、特に病気ではないが疲労がかなりたまっているようだとのこと。

 まぁ今現在もとっても疲れている状態なので、それを否定する気は全くない。

 そこで、疲労回復に効くというお薬を処方してくださったらしく、その薬が入った小瓶が侯爵様から手渡された。

 正直なところ、あんまり薬は好きではないし、できることなら飲みたくはないのだけれど。

 侯爵様を見る限り、そんなことは許してくれそうにない。

 私は覚悟を決めて瓶の蓋を開け、一気に中身を飲んだ。


「うぇっ、にがい……」

「まぁ薬だからな」

「でも、よく効きそう」

「もう効果があったのか?」

「いえ、とっても苦いお薬なので、きっとよく効くんだろうなって」

「苦いと効くのか、おかしなやつだ」


 侯爵様に笑われてしまった。

 甘くておいしいお薬よりは、苦くてまずいお薬の方がずっとよく効きそうな気がするのに。


「苦味と効果はあまり関係ないだろう」

「そうなんですか?よく効くお薬は、だいたい苦かったので」


 いい薬というものは苦いものだ、といったような言葉が、なにかあった気がする。

 ちゃんと覚えているわけではないので、あんまり自信はないけれど。

 そんな事を考えていると、侯爵様が私が持っていた薬の瓶を取った。


「もう少し寝ておくか?まだ、身体つらいんだろ?」

「それは、そうなんですが……」

「どうした?」

「なんだか、ここに来てから、寝てばっかりいるなぁと」

「いいんじゃないか。今はしっかり寝て、早く回復させることを考えろ。元気にならないと剣術の訓練もできないぞ」


 侯爵様の言葉に、確かに、と思う。

 今の状態が続くと、さすがに剣を持つ気にはなれないかもしれない。


「明日元気だったら、またできますか?」

「ああ、ちゃんと回復してたらな」


 それなら今はしっかり寝よう。

 そして早く治して、また剣術の訓練をして、しばらく動かしていなかった身体をしっかり鍛えたい。

 その方が身体も疲れにくくなるだろうし。


「じゃあ、もう少し寝ます」


 私がそう言うと、侯爵様は私をベッドに寝かせ、お布団をかけてくれる。

 本当にどこまでも至れり尽くせりな世界だ。


「おやすみ、リディア」


 優しい声を聞いて、私はふたたび夢の中へ旅立った。




 翌日、残念ながら剣術の訓練はできなかった。

 多少ましになった気はするものの、疲れは取れていなかったのか、まず朝起きれなかった。

 昼近くになってようやく目が覚めたものの、ベッドから身体を起こすのもなかなか大変で、ミアさんに手伝ってもらってようやくだった。

 侯爵様はその日、1度だけお部屋に来てくださって、剣術の訓練は逃げないから安心して身体を休めるようにと言ってくださった。

 でも、その翌日、さらに翌日も、侯爵様にお会いすることはなかった。

 毎日、ミアさんが至れり尽くせりで身の周りのお世話をしてくれるのは変わらなくて。

 ときどきルイスさんも様子を見に来てくれて、シェフの皆さんも私の身体に負担のないようにあたたかいお食事を作ってくれて。

 私はベッドからほぼ動けていないけれど、何の不自由もなかった。


「でも、なんだか寂しい……」


 たった2日、侯爵様のお顔を見ていないだけ。

 侯爵様はきっととてもお忙しい方だ。

 侯爵としてのお仕事もあって、騎士団長としてのお仕事もあって。

 私はただ、侯爵様の精神安定剤としてここに置いてもらっているだけ。

 毎日会う必要なんてないのだから、きっとこれからこういう日々が当たり前になっていくのだ。

 これだけ至れり尽くせりでお世話してもらえるだけで十分なはず。

 お会いしたいなんてわがままなこと、思ってはいけないのに。

 それでも寂しい気持ちはどうすることもできなくて。

 その日私は、この世界に来てはじめて、真っ白な部屋の夢を見た。






 ***


 翌日の剣術の訓練を楽しみにしていたリディアは、朝食の時間には起きて来れなかったようだ。

 ミアが疲れているようだから起こしたくはないと言っており、その意見に異論はなかったので自然に起きるまで寝かせておいた。

 ようやく起きたから、とミアが厨房にリディアのための食事を準備するよう依頼しているのを見て起きたことを知った。

 だから、ミアが食事をさげた頃を見計らって、少し様子を見に行き会話をした。

 そしてさらに翌日、皇太子であるアレクシス・リンデンベルクに皇宮呼び出された。


「もう、帰っていいか?」

「今来たばかりだろう!!」


 皇太子とは歳が同じで幼馴染であり、気心の知れた友人でもある。

 相手が皇族といえど、公の場でもない限り敬語を使って話すようなことはまずない。


「ここにいると、気分が悪いんだ」


 嘘ではない。

 そういえばリディアが来てから、距離にしてここまでリディアと離れたのははじめてだ。

 そのせいなのか、はたまたリディアのいう通り俺の思い込みかは知らないが、家にいるより気分はよくない。

 かといって、魔力を押さえつけなければならないような状況にあるわけでもないが。


「さすがに失礼だろ!俺、一応皇太子なのに」

「一応も何も、この国の皇太子はおまえしかいないと思っているさ」


 他に皇帝陛下に皇子もいないしな。

 だが、皇太子……アレクはどこか不満げに俺を見ている。


「で?要件はなんだ?」


 このタイミングなら魔獣の話か?

 1匹1匹はたいしたことはなかったものの、あれだけの数が1度に現れたのは俺もはじめての経験だ。

 中央騎士団の騎士たちが騒ぎ、アレクの耳に入っていてもおかしくない。


「リディアちゃんって誰?」

「チッ」


 思わず舌打ちした。

 そっちの話題も騎士たちが騒いでいたか。

 しかし、随分とくだらない呼び出しだ。


「帰る」

「わー!待て待て待て!!」


 立ち上がってさっさと帰ろうとしたところを、全力でアレクに引き留められる。

 もう1度舌打ちをして、仕方がないから再び座ることにした。


「ジークの遠縁のご令嬢だって?シュヴァルツ侯爵家の遠縁にそんな子いないだろ?」


 まぁ皇太子ともなればそれが嘘かどうか調べるのも簡単だろう。

 だが、この上なくめんどくさい。

 目の前でニヤニヤと笑っているアレクが。


「ああ、いない。これで満足か?」

「いったいどこの子を引き取ったんだよ、おまえらしくもない」

「異世界から来たらしいぞ」

「俺は真面目に聞いてんの!!」

「悪いな、俺も真面目に答えている」


 これでも、アレクは俺が最も信頼を置いている人物だ。

 最初から隠す気はなかったのだが、やはりすぐに信じられる話でもないらしい。

 思えばリディアも、なかなか話そうとはしなかった。

 信じがたい話だと思っていたからこそだろう。


「え?マジなの?」

「ああ、満月の夜に、突然俺の目の前に現れたんだ」

「よりにもよって満月の日?一番ジークの機嫌が悪そうな時に……よく無事だったな、リディアちゃん」


 人をなんだと思っている。

 いくら機嫌が悪くとも、さすがにあんな小さい子どもに当たり散らすようなことはしない。


「わー!!待て待て!辛いのはわかる、わかるけどここではやめてくれ!!」

「は?」

「人のいない森でなら、気がすむまで好きに暴れてくれていいから!」


 アレクの言葉で、俺は無意識に自分の右手を見つめていたことに気づいた。

 そういえば自身の魔力を押さえつけるのに限界を感じた時も、体内の魔力を恨めしく思いながら同じことをしていた。

 そして、そのたびにアレクが皇宮所有の人のいない森の使用許可をくれ、好きに暴れさせてくれていたのだ。


「その必要は、なくなったんだ」

「え!?」

「リディアが来たら、嘘みたいに全部なくなった。今は体内の魔力も随分と穏やかなものだ」

「本当か!?」

「ああ」


 アレクはまるで、自分のことのようによかったと騒いでいる。

 こいつにも随分と心配をかけていたようだ。


「つまり、リディアちゃんはジークの恩人か」

「ま、そうなるな。本人は違うと言い張っているが」

「え?そうなの?」

「リディアが何かしたわけではないらしい。俺としてはどっちでもいいがな」

「そうだよな、今は落ち着いたってことが大事だもんな」


 うんうん、とアレクが頷いている。


「で、要件は済んだか?」

「待って!まだ聞きたいことが山ほど!!」


 山ほどあるのか……

 それだけで今すぐ帰りたい気分になる。

 そこからは、リディアについて質問攻めだった。

 どんな世界から来たのか。

 どんな容姿なのか。

 どんな性格なのか。

 どんな魔法を使うのか。

 どうして侯爵邸にとどまることになったのか。

 どうして騎士団の訓練に参加したのか。

 好奇心が旺盛すぎるようで、その後も質問が止まる気配がない。

 結局俺はリディアについて知っていることを、ほとんどアレクに話したように思う。

 日の高いうちに訪問したはずなのに、すっかり日は暮れている。

 皇太子ってそんなに暇ではないはずだろう。


「もういいだろう、これ以上は話せるようなことはない」

「ちぇー」


 どこか不満そうではあるが、とりあえず解放はしてくれるらしい。

 しかしながら、邸に戻れたのは夜の遅い時間で、リディアはすでに眠っていた。

 俺は寝ているリディアを起こさないように少しだけ様子を見てから、眠りについた。




 さらに翌日のこと。

 俺は再びアレクの呼び出しを受け、皇宮に呼び出される。


「ごめん、昨日リディアちゃんの話に夢中で肝心なこと聞き忘れててさ」


 そう言って謝ったアレクは、少しも悪びれている様子がない。


「中央騎士団が訓練に使ってる森で、魔獣が大量発生したって?」


 やはり本題はそっちだったか。

 聞く順番を間違えているだろう。

 だが、アレクの表情は昨日とは打って変わり真剣そのもの。

 これは、皇太子としての顔だ。


「ああ、あれほどの数が1度に現れたのは、俺も見たことはない」

「被害は?」

「騎士が数名怪我をした。だが死者は出ていない」

「中央の魔法騎士でも手こずるほどの魔獣だったの?」

「1匹の力はたいして強くはない、だがああも次から次へと出てくると、こっちが先に消耗させられる」

「1匹がたいしたことないなら、こっちも大勢でかかれば消耗させられる前には片づけられるか」

「まあ、そうだな」

「それならよかった!ジークレベルでないと倒せないとかだったらどうしようかと。この国にジークレベルの魔法騎士なんて他にいないからさ」


 アレクはあからさまにほっとした表情を浮かべている。


「結局ジークが1人で全部倒しちゃったの?」

「いや、最初に遭遇した騎士たちも何匹か倒していたはずだ、その後十数匹ほど俺が倒し、残りの数十匹はリディアが一掃した」

「えっ!?」


 俺はこの瞬間、しまった、と思った。

 なぜなら、アレクの表情が皇太子のそれではなくなってしまったから。

 ここから昨日のデジャブかと思うほど、今度は訓練をしていた時や魔獣に遭遇した時のリディアについて質問攻めにあう。

 そうこうしているうちに、また日が暮れていて。

 この日もまた邸に戻れたのは夜の遅い時間だった。

 リディアの様子を聞いたところ、昨日と変わりはないらしい。

 また少しだけ様子を見ようかと思ったが、起こしてしまっては困るし、変わりがないならいいだろうと思って、その日はそのまま眠りにつくことにした。

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