ココロの宝箱

七草かなえ

ココロの宝箱

 アナログ時計の針は午後十一時を指さしていた。明日も学校があるから、そろそろ眠りにつかなくてはならない。


 冬の夜は無音で溢れている。


 蛙や虫の鳴く声が疎ましいという人も多いらしいけど、わたしは彼らの合唱が好きだ。だからたまに車の走行音のみが響く冬の夜は寂しく感じる。


 そう思った刹那に、口角が上がった。


 わたしはその『冬の夜の寂しさ』と『虫や蛙の鳴き声の心地よさ』に関する感情を心の奥にある『宝箱』に入れておく。


 生まれてからまだ十六年のわたしだけど、辛いことも嬉しいことも山ほどあった。


 その良かったことも悪いことも、すべてをわたしは心の奥の宝箱に入れておくのだ。


 一見素朴で小さな小箱だけど、実は容量無限大。どんなに情報量が多くても情緒揺らぎそうな壮絶なことでも、なんでも受け入れてくれる。


 ……この時代、いいことばかりが起きているわけじゃない。


 人類は戦争を止められないままだし、気候変動と物価高騰の影響をわたしも少なからず受けている。天災は時を選ばず襲いかかってくるし、先が見えないことばかり。


 それとも先がどうなるのか、見ないふりをしているだけなのだろうか。


 地球が人間がどうなるかなんて、わたしには一切分からない。


 大人たちは若い世代に全部押しつけて死に逃げする気だとかいうネガティブな意見や、いっそ人間は生まれてくるべきではないという過激な思想すら存在している。


 それくらい疲れているのだと思う。誰も彼もが。


 それでも生きなくてはならない。とわたしは思う。


 わたしには友達もいるし家族仲もいい。家もそこそこ裕福なほうだ。


 恵まれているほうだと思う。

 だからというわけではないが、周囲の人たちのためにも生きなくてはならないのだ。


 こうして思い浮かんだ『生きなくてはならない』想いも宝箱に入れた。世界に対する憂いも一緒に。


 今日は誰が生まれた? 誰が命を終えた?

 どれだけの宝箱が、この世界にはある?


 ねえ、あなたの宝箱の中身、教えて?

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