第26話
僕はこの名前の通りに誰かの希望になる事が出来ているのだろうか。僕は僕自身の事もきっと理解できていない。そんな僕はカウンセラーとして人の痛みを解ることのできる人になれるのだろうか。
なにより、優香にとっての希望に僕はなれていたのだろうか。
少しでもなれていたらと思いながら、これから先の人生は名前に負けないくらい大きな海のように色々な人の痛みや辛さを包み込める人になっていこうと胸に誓った。
しばらくして試験の結果を知る。合格だ。
初めて進学校に入学してよかったと思った。
途中で志望校を変えたにも関わらず無事に合格できた事はきっと今までコツコツと勉強をしてきた成果だと思う。
無事に合格できた事で残りの高校生活は少しは気楽に過ごす事ができる。
そんな思いで和馬にLINEを送る。
「受かったよ」
「おめでとう!さすがだ!」
「ありがとう。空いてる日カフェでも行かない?」
「いいね、ちょうど俺も話したい事があったんだ」
高校三年生の三学期という事もあってあまり学校に行く事もなく和馬と会う事もかなり減っていた。
久しぶりに会うことへの喜びと共に和馬からの話したい事が気になった。
和馬はいつも気さくでどんな話にも上手く合わせてくれるやつだった。
そんな和馬から改まって話があると言われるとどこか違和感を感じる。
受験が終わってひと段落ついたこのタイミングでの話と言われるとどうしても優香のことだと感じてしまう。
何か大事なこと、優香のもう一つの生活について和馬は何か知っているか、もしくは何か気付いていたのかもしれない。
待ち合わせの時間通りにカフェへと着くと、和馬の姿はまだなかった数分遅れて到着した和馬に手を振り、久しぶりと言った軽い無駄話をしてから店内へと入る。
いつもの席に案内をされ、2人ともメロンソーダを頼む。
「合格おめでとう!」
「ありがとう」
和馬からの祝福を受けて改めて僕の進路が確定したのだと身に染みる。
それから少し、しばらく会っていなかった間の話をする。和馬は大学の野球部の練習に参加したりと何かと忙しい日々を送っていたらしく、試験勉強だけが高校生の姿ではないんだと知る。
少し無言が続きどちらから話を切り出そうかというタイミングで和馬が口を開く。
「優香のことなんだけど」
思った通りと言わんばかりに僕はじっと和馬の目を見つめて次の言葉を待つ。
「勝手にこんな事言って良いのかわからないけど、家庭環境が酷かったらしい。前に優香と仲の良かった子と話をしてそこで聞いた事だけど、日頃から暴力を受けて虐待の中で育ってるって噂があったらしい」
少し腑に落ちた気がした。僕たちには見せていなかった生活のこと、店員さんが言っていた話のこと、あれらは全部優香が家庭で受けていた虐待が関係していたのかもしれない。
そのまま、和馬は話を続けて3人で過ごした期間、優香がいたあの頃の事の出来事の中で不思議に感じていた事が少しずつ解消されていく。
それと同時に僕が知ろうとしている事が優香にとって本当は知って欲しくない事なのかもしれないという気持ちが頭によぎっていく。
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