蝉のように儚く
櫻井賢志郎
第1話
人生で最も輝く時はいつなのか。誰にもわかるはずのない答えを、バスに揺られながらふと考える。
「人間は、みんなに愛されてるうちに消えるのが一番だ」誰の言葉だったかは知らないけれど、僕にとってこの言葉が意味するものは、まさに人生の輝く時を知ることにつながるんじゃないだろうか。
そして、彼女が死んだのもきっとこの言葉が意味するところなんじゃないか、、どうして死んだのか、何かしてあげられることがあったんじゃないか、そう思って考えるのを辞めた。
死んだ人のあれこれを勝手に考えるのは辞めようと頭の中で別のことを考える。
今日カウンセリングに来た悠太くんの話を思い出しながらカウンセラーになった今ならきっと彼の力になれる。ならなきゃいけないと心から思う。
あれから数年が経ち、今僕はカウンセラーとして中高生を相手に仕事をしている。この職業に就いたのも今思えば不純な動機だったかもしれない。この仕事に就く事で少しでも彼女の事を知る事につながれば、あの時何もできなかった僕の気持ちが少しでも軽くなればなんて思いもすべては結局、自分だけのためのものでしかないのかもしれない。
それでも、この仕事に就いた事に対しては後悔をしていない。
子供達の話を聞く中で、小さな悩みから大きな悩みまでその子にとっては関係なく重要なものであり、時にはそれが死に直結する内容である場合だってある。
心の中を覗く事はその人の人生を覗くことと等しく近いものなのかもしれない。
そんな繊細な仕事だけれど今はこの仕事について良かったと思う。たくさんの悩みを抱えた子どもたち、その周りの大人たちがどんな風に生きていくのかを知りながら、少しでもその人のためになる事ができたら、少しでもその人がその悩みを超えることのできることへの手助けができていたなら僕は嬉しい。
どんな結果になるかはわからないけれど僕がカウンセリングをして救えた命があったなら、あの頃の僕に自信を持って今の自分を誇る事ができる気がする。君が進んだ道は間違っていなかったよとあの頃の僕の背中を押してあげる事ができる。そんな気がしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます