火星より
ノート
火星より
基地エンジニアとして火星開発に参加していた私は、クルーの要望からとある箱を人数分開発した。
その名も星間移動棺JIANGSHI。
火星テラフォーミング計画は、黎明期に比べれば安全性が向上しているが、それでも命の危険を伴う。しかし地球から遠く離れた星で死んだクルーをそのまま埋葬するとなると、遺族も黙ってはいない。
そのための措置だった。
この棺桶は基地外で死んだクルーを回収するため、火星の地形をインプットし、AIで最適のルートを選択する。
どんな場所にもたどり着く3対の脚に加え、前後に1対ずつある全長2mのマニピュレータは、あらゆる岩や瓦礫をどかし破壊できるよう設計してある。
そして遺体を回収し終えた後は、自動的に地球に帰還。遺体を遺族のもとに届けるのだ。
ある時私は、ほんの些細なことでメリッサというクルーと口論になった。
その時の私は、あろうことか彼女の暗殺計画を立てたのだ。
計画はこうだ。メリッサの船外作業中、事前にプログラムを弄った棺桶に彼女を襲わせる。彼女は抵抗もできず閉じ込められてしまうだろう。そしてそのまま地球に発送……当然棺桶に生きた人間が入ると、宇宙空間でたちまち呼吸できなくなり、凍り付いてしまう。
結論から言うと、暗殺は成功した。
しかし私は詰めが甘かった。
コードをどこか誤ってしまったのだろう、全ての棺桶が死体ではなく生きた人間を地球に帰還させるようプログラムが変わってしまったのだ。
最初に襲われたのは船外作業員だった。
その後基地内にあの動く棺桶は押し入ると、どんどんクルーたちを飲み込み、飛び立ってしまう。
棺桶にはいかなる防壁も通用しない。その強靭なマニピュレータでこじ開けてしまう。
棺桶にはいかなる攻撃も通用しない。対宇宙デブリ用に作った装甲には、いかなる銃弾も跳ね返す。
もう私1人だ。
だがこのバリケードは突破できまい……宇宙船の壁より硬いこの防壁なら。
ああそんな、神よ!窓に!窓に!
火星より ノート @sazare2023
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