第4話(完)
昼休みになってからようやく教室に戻った私と絢ちゃんは、好奇というより奇異の視線でみんなに迎えられた。するとわかりやすく絢ちゃんが身を縮こまらせたので、リラックスしてもらおうと「大丈夫だよ、私がついてるから」と小声で言って、絢ちゃんの唇にキスをした。
キスをしている間は脳が溶けているみたいで、見られていたことなんて完全に頭から飛んでいた。とはいえやっぱり教室ってことはうっすらと自覚していたので数秒だけで我慢して、離れてから振り返ると、みんなは露骨すぎるくらいに視線を逸らした。多分こんなに可愛い絢ちゃんとキスをしている私が羨ましくって、見ていたくなくなったんだと思うけれど、そういうことならしてよかったなって思った。絢ちゃんに変な目を向けられるなんて耐えられないしね!
絢ちゃんと私が相思相愛だってことがちゃんと知れ渡ったのか、昼休みも五限目と六限目の間の休み時間も私たちに話しかけてくる人なんて誰一人いなくって、だから絢ちゃんと二人きりに集中出来て、とても捗った。今までは夢の中でしか会えなかったし、夢の時間なんて短いときもあれば長いときもあるような不安定なものでしかなかったけれど、こうして絢ちゃんが現実として出てきてくれたんだったらいつまでも一緒にいられるし、私は本当に幸せだと思う。
ふふふん♪ なんて鼻歌を歌ってみたり足をぷらぷらさせてみたりしながら、六限目を過ごして、残すは帰りのホームルームだけ。それが終わったら、絢ちゃんとの楽しい放課後だ! なんてテンションMAXでわくわくしながら待っていたら、ホームルームをしにやってきたのは担任じゃなくて、タヌキとクマの
どう考えてもおかしいのにみんなはそれを当然のように受け入れていて、じゃあおかしいのは私の方か? と混乱したけれど、絢ちゃんの方をみたら不安たっぷりに瞳を潤ませていたから、おかしいのはどっちかなんて評価基準はどうでもよくなって、絢ちゃんを守らなきゃ! って一心で私は絢ちゃんの手を取って駆け出した。
学校の中も微妙に違和感はあったけれどじっくり見ている余裕なんてなくって、一直線に昇降口へ向かった。そして学校から飛び出したところで私たちの目に飛び込んできたのは、ヘンテコな――いや、違う。そこは現実と夢とがぐちゃぐちゃに混ざり合った世界だった。
「――っ、早く行こう!」
どこへ行けばいいかわからなかったけれど、考えるよりも先に行動と言わんばかりに、私と絢ちゃんはその場を離れた。けれど学校から離れてみても世界はぐちゃぐちゃのままで、そこら中に地球上の生き物と似ているけれどどこか違う生き物がうようよ歩いていた。どうやら世界全部が変わってしまったみたいで、これはどこへ逃げても同じかもしれないなぁと思ったところで、視界全体を覆うように大きな影が落ちた。
顔を上げてみるとそこにいたのはゴ○ラとキング○ングが混ざったみたいな巨大な怪獣で、米粒くらいにしか見えないはずの私たちのことをなぜかじっと見ているように見えた。足を竦ませて冷や汗をだらだら流しつつ背中を冷たくしていると、絢ちゃんがつないだ手にぎゅぅっと力を篭めるもんだから「絢ちゃんのことを守らなきゃ!」なんて気持ちがもりもり湧いてきて、こんなわけのわからない怪獣なんかにやられそうになっている場合じゃないって気合いが入った。
「おらぁ!!!」
私が縄文杉みたいにでっかい怪獣の足を蹴り飛ばすと、どかーん! って膝から下が爆散して怪獣が崩れ落ちた。いやいやこれは下敷きになっちゃうって思った私は、絢ちゃんをお姫様だっこして抱えると、地面を蹴って空を飛んだ。直後に、ずずーん! って怪獣が地面に倒れて、家とかビルとかの破片で出来た砂煙を巻き上げちゃって「危なかったね、巻き込まれるところだったね」って顔を青くしながらも「空にいたおかげで助かったね」って絢ちゃんと笑い合った。
念のため少し距離を取って着陸したら、今度はゴゴゴゴって地鳴りみたいな音がして、なんだろうと思って見てみたら、自衛隊や軍隊のような戦車やらヘリやらが私たちを囲んでいた。最初は保護しに来てくれたのかなって思ったけれど、明らかに雰囲気が剣呑で銃や砲身までこちらに向けているもんだから、すぐに狙いは私たちだって気が付いた。
「――総員、構え!」
戦車についた大きなスピーカーから声がするとともに、チャキッと狙いが完全に私たちに定まった。
「撃てーーっ!!」
宣言と共にバババババッ、ドーンッって銃弾やら砲弾やらが飛んでくる。うかうかしていたら蜂の巣どころか塵芥になっちゃうので、私は前に手をかざしてそれらを空中に静止させた。
「やめてください! なんでこんなことをするんですか!」
私が言うと
「抵抗しても無駄だ! この世界にお前たちの逃げ場なんてどこにもない!」
なんて返してきた。
「何で私たちを狙うんですか!」
「この奇妙な現象はお前たちが原因だろう! お前たちは人類の敵だ!」
わけのわからないことを言っているけれど、その声色はどこまでも本気で「ありゃ、これはもう駄目だ」って悟った私は絢ちゃんをぎゅっと抱きしめて「大丈夫、絢ちゃんは私が守るから」って安心させるようにはっきりと言った。
「撃てーーっ!!!!」
二度目の掃射指示。私たちを消し飛ばすように現代科学兵器の暴力が迫りくる。けれど、それはさっきと同様に、私たちには届かずに手前で停止する。
「撃てー! 撃てー!」
その間に私は集中して準備を進める。十分に整ったところで絢ちゃんに「よしっ、行こう!」と言うと、私たちの周囲が目を開けていられないくらいに眩しく光りだした。
「逃がすな! 撃てー!」
うるさいなぁ、なんて思いながらその光に身を委ねて待つ。聞こえる声がだんだんと遠くなっていき、やがて完全に収まったところで目を開けると、そこにあったのはただ真っ白なだけの、絢ちゃんと私以外に何も存在しない世界だった。
つまり、その世界は完全完璧で、全てがあった。
「ここなら大丈夫。もうずっと一緒だよ」
私が微笑むと、絢ちゃんも同じような顔をして
「うんっ」
と今度は絢ちゃんの方からキスをしてくれた。
夢と現実が混ざったので 金石みずき @mizuki_kanaiwa
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