2.未完の魔法使い
それはいつのことだったのだろうか。
正直な話、自分が何歳なのか分かっていない⋯⋯いや、数えられていない、と言うべきか。
というのも、僕の身体はどうやら不思議な魔法にかかっている様で、百歳を疾うに過ぎてもこうして、姿形は少年のままなのだ。
それどころか、右目は薄まった黒、左目は黒ずんだ赤ときた。
この見た目に加え、老いない化け物なのだから、僕の居場所など何処にもない、という訳だ。
僕は元々は双子だったそうで、母親には腹の中で沢山負担をかけたことだろう。
こんな最貧国では医者など居らず、無事産めただけで幸運そのもの。
とうとう腹も膨らみきり、母子共に生死をさ迷っていたとき、僕を救ったのは魔法使いだった。
魔法使いは、母親に問うた。
「双子を両方とも助けることは私には出来ないが、二人を腹の中で融合し、子の生き長らえる確率を上げることは出来る」
そうして、僕は無事“一人”として産まれ、母親は程なくして死んだ。
その後、魔法使いに引き取られた僕は、五年ほど彼のもとで育った。
彼に教わった魔法はたったひとつ、それが先の融合魔法。
魔法には大きく三種類ある。
融合魔法、物理魔法、そして治癒魔法。
その中でも融合魔法というのは非常に扱いにくく、どんな生き物でも融合可能といった便利なものでは無い。
まるで凹凸の様に、ふたつの遺伝子がきっかり組み合わされなければ、ひとつの体で互いが反発しあい、挙句は死に至るそうだ。
更に、第三者にのみ適応できる唯一の“縛り魔法”で、自身には適応できない。
彼は僕に融合魔法のすべてを教え、謎の失踪を遂げた。
さて、天使と悪魔の伝説に戻ろう。
魔法には分離魔法は存在しないが、あの伝説がもし本当なら、僕の分離も可能なのだろうか。
神さまが居るのなら、魔法使いの行方も分かるのだろうか。
未完の魔法使いという名は忘れ去られ、僕はいつしか「旅人」と呼ばれるようになった。
南東には、周辺国を取り囲む程の広大な森林地帯があり、その先には更に広大な砂漠地帯がある。
無限にも思える砂漠地帯に反し、国はたったの二つしかないと聞いた。
それが、《天使の国》《悪魔の国》と呼ばれているのだから向かう他無い。
森林地帯に足を踏み入れては、近くの国へ引き返し、物資を揃えてはまた森林へと向かう日々を百年以上繰り返している。
どれだけ進んでも森林地帯から出られないのだから、心をへし折られてしまいそうにもなるが、老いて死ぬことも出来ないのだから仕方がない。
そんな百年話、僕の生い立ちさ。
そうして今日、この森で君と出会った。
さて、次は君の話を聞く番だ、黄色い髪の少年よ。
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