secret service
SACK
secret service
「最近肩こりが酷くてさ…。昨日も頭痛やばかったー」
友人のアヤと遅めのランチをしている土曜日の午後。
1日8時間以上のデスクワークで重度の肩こりに悩まされているルナは、首を左右に捻りながら呟いた。
コロナが猛威を振るっていた頃はルナの会社もリモートワークになり、自宅の座り慣れた椅子で仕事ができたり、体に疲労が溜まってきた時には軽くストレッチをしたりして上手く解消出来ていた。
それなのに、通常出勤になってからは悪い方向へ逆戻りだ。
「うちの会社一応ITなのに、通勤しなきゃいけないなんて全然ITじゃないよ」
「まぁ、どこもそんなもんだよねー。うちもリモートで済む会議をわざわざ出勤してやったりしてるよ。全く何のための出勤なんだか」
食後のカフェラテを飲みながらアヤも溜め息混じりに話す。
「あ、そうだ。ルナってマッサージ普段行く?」
思い付いたようにアヤに聞かれ、デザートのチーズケーキを食べていた手を止めた。
「マッサージ?前に整骨院には行ってたけど、最近は全く。何で?」
「ルナにオススメのマッサージの店があるんだー!私の紹介カードがあれば、30%オフになるから是非行ってみて」
ニコニコと笑うアヤの財布から取り出されたメンバーズカードは、くすんだ薄いグレーの厚紙に箔押しで【secret service】と店のロゴが表記されている。
「secret service…?」
「オイルリンパマッサージって感じ。完全会員制の店なんだけど、すっごく気持ちいいからルナに紹介してあげる。予約しないと入れないから、裏の電話番号に連絡して行ってみて!」
「ふーん。じゃ今度行ってみよっかな」
貰ったカードを財布にしまい、手が止まっていたチーズケーキを再び口に運んだ。
マッサージに行くのはいつぶりだろうか。最近はマッサージに行く時間があれば家でゆっくりしたい、と思うようになってしまった。
たまにはプロにお願いしてもいいかもしれない。
そう思いながら、アヤが話す仕事の愚痴に耳を傾けた。
週明けの月曜日。
土日休んだはずの体が、1日で再び凝りを取り戻した。
最近は気温も低く、外を歩いてる時に猫背になり、自然と首をすくめたような体勢になるのも原因の一つ。
帰宅して、夕食を食べているとふとアヤから貰ったカードのことを思い出した。
「secret service…ねぇ」
財布からカードを取り出し、上質な厚紙を指で撫でる。
軽く咳払いをして、少し緊張しながら記載されてる番号に電話をかけてみた。
「はい、secret serviceです」
数回の呼び出し音の後に、男性の落ち着いた低い声が聞こえた。
「あ、すみません。友人から紹介して頂いたのですが、予約って今取れますか?」
「ありがとうございます。ご予約承っております。現在ですと水曜日の夜20時からが最速となっておりますがご都合いかがでしょうか?」
キッチンに掛かってるカレンダーを振り返って確認した。
その日は18時退勤予定で、もし残業になったとしても20時には間に合いそうだった。
「その時間で大丈夫です」
「畏まりました。では、水曜日の夜20時にお待ちしております。お気をつけてお越しください」
「はい、よろしくお願いします」
とても丁寧な対応で安心した。
初めて予約の電話をする時はいつも緊張する。たまに怒ってるのかな?と思うくらい無愛想な人がいるからだ。
経験上、電話対応の良い企業は他のことに対しても丁寧で信頼できる企業が多い。
ルナは立ち上がるとカレンダーに(20:00〜マッサージ)と記入した。
曇り空の水曜日。
翌日が雨の予報のせいか、どんよりと曇った空と低気圧で朝から頭痛と眩暈に襲われた。
頭痛薬を飲んで無理やり出勤し、デスクに着きパソコンを開くと目を刺すようなブルーライトにまた眩暈がする。
最悪なコンディションだ。
顔色も悪かったのか、隣に座る同僚からも思わず心配された。
「イガラシさん、大丈夫?顔色悪いよ」
「気圧のせいか頭痛くて…でも痛み止め飲んだからもう少ししたら効くと思うんだよね」
「そっか。無理しないでね」
ありがとう、と呟き気合いでパソコンの画面を睨む。
頭痛が気にならなくなってきた頃にはもう終業時間になっていた。ただ、頭痛こそ良くなったものの、しっかりと今日の分の目と首の疲れは蓄積されている。
「お疲れ様でしたー」
長時間座っていたため凝り固まった腰を叩きながらタイムカードをきり、会社を後にした。
スマホの地図で場所を確認しながら歩き「目的地付近です」とアナウンスされたところは高級そうなマンション。
エントランスに入るとシャンデリアのような照明が大理石の床を照らし、やたらと煌びやかだ。
正面にあるインターフォンで、部屋番号を押すとスピーカーから「はい」と小さな男性の声が聞こえた。
「あ、あの20時に予約したイガラシです」
緊張のせいか少しうわずった声が出る。すると目の前の自動ドアがゆっくりと開いた。
「どうぞお入りください」
「はい、お邪魔します…」
本当にこんなマンションにマッサージ店があるのだろうか。不安になりながら部屋を目指す。
絨毯が敷かれた廊下を歩き、カードに書かれた部屋番号501の前に辿り着いた。
「secret service」と、小さなゴールドのプレートに刻印されている。
一応ノックしてから思い扉を開いて中に入ると、すっきりとした柑橘系の香りが漂い、空調のよく効いた暖かい室温が冷えた体を包みこんだ。
「イガラシ様、いらっしゃいませ。本日担当させていただくマツムラです。よろしくお願い致します」
緩くウェーブの掛かった黒髪に、丹精な顔立ち。背が高く、スリムなのだが肩幅はしっかりある。制服なのだろうか、白いシンプルなシャツとパンツがマツムラの体形にとても似合っていた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ふわふわとした柔らかいスリッパに足を入れ、マツムラの後をついていく。
お金持ちの一人暮らしが住むような、やたらと広いワンルームだ。
メインの部屋に辿り着くと、暖かいオレンジの明かりが部屋を照らし、アロマオイルのような物が入ってる綺麗な小瓶がヨーロピアンな棚に綺麗に整列している。
中央にダブルサイズのベッドが置かれ、皺一つない清潔感のある真っ白なシーツが掛かっていた。
「まずカウンセリングから始めたいので、こちらにお掛けください」
ベロア素材の1人掛けのソファに座らされると、マツムラが床に片膝を付き書類に色々と記入する。
「本日特にお辛い場所はどこでしょうか」
「首と肩です。今日日中は頭痛もあって…」
「首、肩…畏まりました。辛かったですね。お疲れ様です」
マツムラの低くて優しい声で労われると、まだ何もされてないというのに体が楽になってくる。
この歳になると仕事がどれだけ大変でも誰からも労われず、どれだけ頑張っても誰からも褒めてもらうことはない。
そんな心の疲弊も積み重なって体に表れているのだと思った。
「当店はアロマオイルを使用するのですが、アレルギーなどございますか?」
「特にないです」
「畏まりました。お好みの香りなどございますか?柑橘系、ミントなどの爽やか系、バニラの甘い系がございます」
「では、柑橘系で…」
「畏まりました」
一通りカウンセリングが終わり、マツムラが書類をファイルに挟み込む。
「では早速施術の方に入っていくのですが、オイルがお召し物に付かないようにこちらに着替えていただいてもよろしいでしょうか?」
差し出されたものを見て、やっぱりこれか…と内心思った。
手渡されたのは何回かマッサージで着用したことのある紙で出来た下着だ。
何回着ても慣れない、妙な小っ恥ずかしさがある。特に今回は施術者が男性だから尚更だ。
「お着替えが済みましたらこちらのベッドで、タオルをかけてうつ伏せになっていてください」
「分かりました」
扉の音がガチャリとして、マツムラが部屋を出て行ったことを確認してから服に手を掛けた。
下着まで全て脱ぎ、用意された紙の下着姿になると、ベッドに横たわって体に大判のバスタオルを掛けた。
適度にスプリングの効いた寝心地の良いマットレスだ。自宅のシングルベッドとは大違いで、きっと高級なものなのだろうと予想する。
こんないいベッドで普段から寝れていたら、体の疲れも取れるんだろうな、とふかふかの枕に顔を埋めて考えた。
コンコン、とドアがノックされる音がする。
「イガラシ様、ご準備はよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「では、失礼します」
マツムラが入ってきて、枕元に立つ。棚に並んだオイルを手に取り手のひらに馴染ませている。
「首からいきますね」
暖かい手のひらが首元に触れる。マツムラの手の温度と、首元から香ってくる柑橘の香りが心地よい。
「力加減いかがですか?」
「ちょうどいいです」
凝り固まってる筋肉を、ピンポイントで親指で指圧されると鳥肌が立つくらい気持ちがよかった。
「これは…すごい凝ってますね」
「そうなんです…」
首の骨の脇を何度も行き来させ、時々老廃物の塊をゴリゴリと押し潰される。
首から肩にかけて、リンパを流すように手を滑らされる。普段生活していて首肩周りが温かくなっている感覚になんてなったことなどないが、今はポカポカと暖かい。
滑らかなマツムラの手の平が肌を撫でる度、体が解凍されていく感覚だ。
「肩もすごい張ってますね。お仕事はデスクワークですか?」
オイルが追加されて、マツムラの手が肩に移った。手首や指を器用に使って解されているが、マツムラの指が肩の筋肉に入っていかないのを感じ、自分の肩がパンパンに張っていることを実感した。
「この辺りを解すと顔色も良くなりますからね」
優しい声が徐々に遠くなる。暖かい部屋で、こんなに気持ちのいいマッサージをしてもらい、眠くならないわけがない。
夢と現実の境目を行ったり来たりしながら、時々問いかけられるマツムラの声にふわふわした返事をしていると、いつの間にか肩から足に移っていた。
マッサージの時に寝てしまうと、気持ち良さを感じられなくてもったいない!と思うリオは、なるべく起きていようと気を引き締める。
再びオイルが足され、握った拳の第二関節を使って足の裏をゴリゴリと解される。くるぶしの周りがビックリするくらい痛くて思わず体が硬直するが、すぐに優しい手つきに変わり安心した。
ふくらはぎや膝の裏側、太ももの裏側を満遍なく解され、最後にリンパを流すように足首から足の付け根までぐっと手を滑らせた。その瞬間マツムラの指が足の付け根の際どいところに触れた気がして、瞑ってた目が思わず開く。
気のせいかと思ったが、その流れが3回繰り返された時最後にマツムラの親指が内腿を通過すると、紙パンツの中に少しだけ入った。
え?今のは?
これもマッサージの一環?
頭の中が疑問でいっぱいになるが、何も知識がないせいで今はマツムラを信じることしかできない。
しかしさっきまで半分夢の中だった意識は完全に現実に引き戻された。
「では続いて仰向けでお願いします」
体に掛かっているバスタオルを取られ、仰向けに体勢を変える。
「今度は首からデコルテに掛けて、リンパを流しますね」
トクトクとオイルを垂らされ、耳の付け根から鎖骨の内側までゆっくり指を滑らせる。力加減も指圧の場所も完璧だ。
「力加減大丈夫ですか?」
瞑っていた目を開けてマツムラを見ると、真っ直ぐに自分を見下ろしニコリと微笑んでいる。
「だ、大丈夫です」
その笑顔の爽やかさに少し怯みながらも答えた。
やっぱりさっきのは気のせいだろう。この人がそんな行為をするわけがない。
再び安心し目を瞑って、与えられる快感に集中した。
首元が終わり、デコルテ部分に入った。
自分ではあまり気付かなかったが、胸の上部から脇辺り、非常に痛い。
「痛いですか?もう少し力弱めますね」
思わず力が入ってしまったのだろう。その少しの変化を見逃さず、力を弱めてくれた。
低くて男らしいが、とても優しくていい声だ。
今で言う「イケボ」という部類に入るだろう。
暖かい手の平で少しずつ解されていくうちに、最初のような痛みは感じなくなっていった。
「流していきますね」
首から胸にかけて手のひらを滑らせる。
何回目かの流れでマツムラの指先がチューブトップのような形の下着の中にするりと入った。
「っ…!」
思わず目を開けマツムラを見上げるが、彼の表情は何も変わらない。軽く微笑みながらマッサージに集中している感じだ。
だが、指先はどんどんルナの下着に侵入してくる。
マッサージの快感で不覚にも立ってしまっていた乳首に触れられてしまい、ついに声を上げてしまった。
「あっ…ちょっと…」
「どうしました?」
にっこりと微笑まれ逆に戸惑ってしまう。
「そんなところまでやるんですね。ちょっと恥ずかしくて…」
「そうなんです。とても重要な部分なので。もし気になるようでしたら避けましょうか?」
「いや、あの…」
「続けてもよろしいですか?」
「…はい」
何だろう。優しい声なのに逆らえない。
この声のどこにそんな力があるのだろうか。
オイルでぬるぬると滑らせながらダイレクトに乳房をマッサージされていく。下から上に持ち上げるように、そして4本の指で乳首をころころと転がすように。
「あっ…ん、ごめんなさい変な声がっ…」
「良いんですよ。我慢しないでください。その方が僕も嬉しいです」
柔らかく乳房を包むように揉まれ、最後に乳首をきゅっと摘まれる。腰にかかっているバスタオルを握りしめて体を捩らせながら耐えた。
これがもはやなんの行為なのかも分からなくなってきたが、マッサージ同様力加減が絶妙だ。
触れるか触れないかの距離でゆっくりと乳輪をなぞり、こちらがもどかしくなってきた頃に乳首に刺激をくれる。
その刺激を待っているかのようにずっと固く立っている自分の乳首が恥ずかしい。
「はぁ…あっ…っ…」
攣りそうなくらいに爪先に力が入り何とかして耐えようとするが、それ以上にどんどんエスカレートしていく快楽の波に飲み込まれていく。
(普通の)マッサージで血行が良くなり体は温かくなっていたが、恥ずかしさと快感で今では顔まできっと真っ赤なはずだ。
マツムラの指先が胸から離れ、乱れた下着を丁寧に直した。
「お腹周りやっていきますね」
腰周りを覆っていたバスタオルを外し、再びオイルを手に取るとウエストの贅肉を寄せ集める。
これは痩身系のエステに行った時もやられたことがある。
ただ今まで散々卑猥なことをされ全身敏感になってるルナの体は、こんなことでさえも感じるようになってしまった。
「んっ…」
手の甲で口を覆い、漏れる声を必死に殺すがビクビクと体は正直に跳ねる。
マツムラの両手がウエストからゆっくり降りて、親指が骨盤の内側を指圧する。
「硬いですね。膝とか痛くないですか?」
「えっ…?あ、そういえば何ヶ月か前に、痛かった時が…」
数ヶ月前のことを思い出す。腰から膝にかけて痺れるような痛みがあり、整骨院に行ったら坐骨神経痛だと言われた。
「坐骨神経痛ですか?」
「そうです」
ズバリ言い当てられ、ちゃんと専門的な知識もあるんだ…と少し驚く。
「じゃあこの辺りよく解しておきましょうね」
そう言って骨盤から太ももを、ゆっくりと手の平で滑らせる。
「失礼します」
片膝を持ち上げられ、マツムラの指が股関節を這った。
ドレッシングを入れるような容器に入っているオイルを今度は股関節に直接かけられ、紙の下着にオイルが染みていくのが分かる。
下着のラインをなぞるように親指が往復した後、オイルのぬるっとした感覚と共に、下着の中に入ってきた。
「あっ、そこは…!」
「痛くないですか?」
「…はい」
そういう意味じゃない!とは、心の中でしか呟けない。
オイルだけのせいか、もはや分からないくらい濡れそぼっている割れ目をマツムラの指先が這う。
「やっ…」
割れ目を掻き分け中の芯芽を探り当てると、暖かい指先がそこを刺激する。
「あぁっ…だめっ…」
制御不能で動いてしまう腰が恥ずかしい。片膝を立てているせいで下半身は露わになり、今の自分はきっと酷く淫らだろう。
きつく瞑っていた目を開き、恐る恐るマツムラを見ると驚くほど優しい瞳で自分を見下ろしていた。まるで恋人を見るような視線で。
「やっ…そんな見ないでください…」
「すみません。でも気持ち良くなってもらってると、僕も嬉しくて」
そう言いながらもマツムラの指は止まることなく、いやらしく動き続けている。
きっと短く整えてるのであろう指先は、爪の鋭い感覚を全く感じず、柔らかい。
その柔らかい指先が芯芽に触れるたび、陸に上がった魚のように体が跳ね上がる。
「はぁ…あっ…」
「腰回り温かくなってきましたか?」
「えっ…?あぁっ…はいっ…」
半分何を言ってるのか理解出来ないくらい頭が真っ白になっている。
昔、長時間半身浴をしてしまいのぼせた時のことを思い出した。今のように意識がふわふわとして、体が宙に浮いているような感覚だった。
「もう少し深く解していきますね」
そんなふわふわとした意識の中に、マツムラの優しい声が響く。
何を言っていたのか理解する前に、マツムラの指が中にゆっくりと入ってきた。
「あぁっ…やっ…だめ…」
入り口を解すように何度も出入りを繰り返す。
細くて長いが、関節の太い男の指だ。
第二関節をくの字に折り曲げ、腹の内側に指先が触れる。
「んっ…!」
ルナの反応を見てにこりと微笑むと、そのままくの字に曲げた指を何度も往復する。
「だめ、ですっ…あっ…」
体を捩って快感に耐えているせいか、いつの間にか上半身に掛かっていたバスタオルも床に落ちていたが、もうそんなことはどうでも良かった。
スピードを上げることも下げることもせず、マツムラの指が一定の速度で内側を優しく撫でる。それだけなのに、どうしてこんなに感じてしまうのだろう。
「あっ…あ…だめぇ…っ」
自分の中からオイルとは違った質感の水音が聞こえてくる。内腿がガクガクと震えてきた。
「だめです…もう…あっ…あぁ!」
体の奥から快感が津波の様に押し寄せる。脳内まで飲み込まれると、頭は真っ白になり目の前で火花が弾ける様にチカチカと光った。
セックスの経験は何度かあるが、こんなに激しい絶頂を迎えたのは初めてだ。マツムラの愛撫には穏やかさしかなかったというのに。
内側の痙攣が徐々に治まり、呼吸を整えながら薄く目を開けた。全身が鉛の様に重く、瞼を開けるのも一苦労だ。
一糸も乱れずに自分を見下ろすマツムラは、相変わらず爽やかだ。
「オイル、拭いていきますね」
少し離れると暖かい濡れたタオルで全身を拭いてくれる。
「新しいのこちらに置いておくので、気になるところがあったらお使いください」
「…分かり、ました」
「力加減など大丈夫でしたか?」
締めの挨拶のような流れになり思わず体を起こした。
「あの…これで、終わりですか?」
「はい、本日はこれで以上となります。今度は症状がひどく出る前にお越し下さい」
それでは…とマツムラは部屋を出て行った。
ベッドには中途半端にスイッチを入れられたルナだけが取り残されている。
こんなに消化不良な気持ちになるなんて、自分はどこまで求めていたんだと少し引くが、あのマツムラの指の感覚は暫く忘れられそうにない。
濡れた下着を全て取り去り、用意してもらったホットタオルで体を拭いた。
着てきた服に着替えると、再びドアをノックする音がし「ご準備できましたか?」とマツムラの声がドアの奥から聞こえる。
「あ、はい」
そして小さなトレイに乗ったハーブティーを、ルナが腰掛けているソファの横のテーブルに置いた。
「よろしかったらどうぞ」
爽やかなハーブの香りのするカップを手に取り、口に運ぼうとした瞬間思わず手が止まった。
マツムラが身につけているタイトな白いパンツの股間が、しっかりと膨張している。
慌てて目を逸らし、温かいハーブティーを喉の奥に流し込んだ。
それから会計を済ませ、店を出た。
最後までマツムラは変わらないテンションで、変わらない笑顔だった。ある一箇所以外は。
重厚な扉を閉めると「secret service」と刻印されたプレートがきらりと光る。
一体何が起きていたんだろう。
非現実的な、幻の様な出来事に眩暈がする。
踵を返しゆっくり歩き出すと、ここに来た時よりも明らかにふくらはぎが軽かった。
あんなに辛かった首も肩も、今は何も気にならない。
こんなに体が軽くなるなら、きっとまた来てしまうだろう。
ただのマッサージだ、と自分に言い聞かせて。
end
secret service SACK @sack_ss_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。