『空き箱』の中身は、『空』

大黒天半太

「空き箱」の中身は「空」

 インタホンを通じて配達員の

「お届け物です」

 と言う声に返事をして、マンションのドアロックを解く。


「ありがとうございます」

 数分待って自宅玄関のドアホンのチャイムが鳴り、ドアを開けて受領書に判を捺き、荷物を受け取る。


 軽い。

 封をされた段ボール箱だと言うことはわかるが、あからさまに軽い。

 箱を両手で抱えたまま、上下左右に振ってみるが、中からは箱とぶつかる中箱のような固形物の音も、紙や布などの何かが擦れる音もしないし、重心の移動が起きた気配もしない。

 極論、中で、何かが動いた気配がしない。


 これだけ軽くて、箱の反応からも、あからさまな空き箱と思われるものを、料金受け取って送付先に送るって、宅配業者は、受注する際に、どこかで誰かがモラルチェックを入れるべきではなかったか?


 少なくとも、差出人が正気かどうかは疑わしいし、正気だったなら、送り先に届いた箱から中身が無くなっているとのクレームが出ないよう、受理した宅配業者は何らかの手段を講じておくべきだろう。


 差出人が、というか差出人の住所がもう、当てにならない。北海道の住所が書かれてはいるが、受付印は、東京・上野駅の最寄り営業所で、改札から五分もかからない所なのだから、最寄り駅なのかどうかの推定さえ怪しくなってくる。


 私は意を決して、段ボール箱の梱包テープを剥す。


 上下左右に蓋を開くと、段ボール箱の内側いっぱいに膨れた厚手のビニール袋が姿を現す。ビニール袋を先に箱に入れた状態で、何かのガスを充填してから封をしたのか、ぴったりと内側に張り付いている。

 無色透明にも見えるが、段ボール箱のせいで陰になっている部分もあり、断言はまだできない。

 袋内部のガスが、呼吸できる空気なのか、可燃性の有無、毒性の有無も含め、何もかもが、不明だ。


 段ボール箱から、ビニール袋を慎重に抜き出す。ピッタリ密着している分、強く引けば、擦れたり、引っ掛かったりで破れるかも知れない。

 突然、小さな破裂音とともに、ビニール袋が凹み出す。

 しくじったか!?

 袋を力で引き抜こうとすると、折ったカッターの刃か何かが内側に貼り付けてあって、袋が裂ける仕掛けになっていたようだ。

 と袋の中のガスに警戒する。とりあえず、窓を全開にし、換気を最大にするが、特に可燃性も毒性も無いようだ。

 悪臭も特に無く、ビニール袋から吹き出す淀んだ空気の不快感だけが残る。


 考え過ぎたかと少し反省し、箱からビニール袋を取り出す。


 危険を回避したと思い込んだ、無造作なその動きに反応するように、段ボール箱の底面内側に描かれた魔法円・魔術式が、急速に稼働する。


トラップか?!」

 やれやれ、だ。


 魔法円が、一瞬で全てを吸い込む。


 部屋は窓が全開となったまま、無人となった。

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『空き箱』の中身は、『空』 大黒天半太 @count_otacken

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