サンタの国

NADA

年の瀬迫る12月

もう日は落ちて窓の外は真っ暗だ


「サンタさんにお手紙書く?」


和美かずみは娘の結衣ゆいに夕飯の準備をしながら声を掛ける

ソファーで寝転んでゲームをしていた結衣は、書く!と飛び起きた


幼稚園の年中になる結衣は、まだサンタクロースを信じているようだ

本当のところはわからないけれど、サンタの正体を疑う様子は無い


(クリスマスが近いから、そろそろプレゼントを用意しておかないと…)


リサーチ代わりのサンタクロースへの手紙

料理の手を止めて手紙を覗き込む


「書けた?どれどれ…」


流行っているキャラクターのおもちゃをご所望のようだ

キャラクターのイラストを一生懸命見本を見ながら描いている


(ネット注文でイブまでに間に合うかな)


夢もへったくれも無いが忙しいママサンタはポチるのが現代のクリスマス


顔を上げて結衣が聞く


「ママの子どもの時もサンタさん来てくれた?」


「え?サンタさん?うーん…来てくれたかな…」


今ほどクリスマスが定着してはいなかった当時だったが、和美の家ではクリスマスを楽しんでいた記憶がある


クリスマスツリーを飾って、ホールのショートケーキ、骨付き照り焼きチキン、ブーツ型のお菓子詰め合わせ…

さすがに、親がサンタコスプレまではしなかったし、プレゼントは確か買い物ついでに買って貰っていた


「トナカイで来たの?」


純粋な目で結衣が言う


「トナカイ?寝てる間に来るから見てないかなー…結衣も良い子に夜早く寝ないとサンタさんが来てくれないよ」


はーい、と返事をするとお絵描きの続きに戻る結衣



(トナカイのソリじゃなくて、段ボール箱だったな…)


懐かしい記憶が蘇ってきて和美はひとり思い出し笑いをした

あれは幼稚園の時だったか小学生になった頃だったか…

三姉妹の末っ子の和美は二人の姉がいた

小学生の二人の姉が、ある年のクリスマスに可笑しなサプライズをしてくれたことがあった


姉二人に呼ばれてドアを開けると、子供部屋にクリスマスの飾り付けがされている

小さな子どもが一人すっぽりと入るくらいの大きさの段ボール箱が床に置いてある

促されるまま段ボール箱に入る


「サンタさんの国に特別に連れて行ってあげます!」


そう言うと、二人の姉が段ボール箱を前から引っ張り、後ろから押して部屋中をぐるぐると周り始めた

三人でゲラゲラ笑いながら、スピードを出したり転げ落ちたりして部屋を何周かした

クリスマスツリーの前に到着すると


「着きました!プレゼントをあげましょう」


片っぽの靴下を渡される

中からお年玉のポチ袋が出てきた

袋には“サンタより”と書かれている

十円玉が二枚入っていた


「何これ…二十円?」


三人でまた大爆笑する

プレゼント!と姉たちが笑いながら言う

また、段ボール箱に乗せられると部屋をぐるぐる周ってサンタの国から戻ってきた



和美は思わず吹き出した


(ふふ、楽しかったな)


毎日毎日三人で大騒ぎで遊んだ子どもの頃

近所の子どもたちも一緒に、いつも走り回って笑い転げていた


全然クリスマス感はなかったけど、とても嬉しかったのを覚えている

普段意地悪な二人の姉が私を喜ばせようとしてくれた、楽しいクリスマスの思い出


物より思い出

背景は日本の高度成長期時代の昭和だったけど、どんな高価なプレゼントより豪華な食事よりも心に残っている


(結衣にも素敵な思い出を作ってあげたいな)


肝心なのは形やプレゼントじゃなくて、気持ち

大事なことを思い出せてよかったと、和美は結衣の横に座ると、今の結衣の姿を目に焼き付けるように小さな天使を見つめた

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サンタの国 NADA @monokaki

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