第四章 現在と未来

第十三話 飛散型生物災害(前編)


 俺の部屋で鳴り響く呼び出し音!

 

 特殊個体が出た……それも、二種類同時に!

 現在時刻は早朝四時過ぎ、昨日の佐原の懸念が早くも的中してしまった!


『金谷管理官、手筈てはず通り俺は金谷浩平隊長と一緒にハワタリの対処に向かう!』

「了解陸佐、俺達はシンリンを食い止める!」


 よりにもよって、かよちゃんがいないタイミングに!


 かよちゃんは岩手県遠野市の機関本部に戻り、各国支部とのリモート会議を行っていた。

 ここ、平泉までは車で一時間以上かかる!


「シンリンが出た。準備を!」既読3

『了解』

『うっす』


 佐原と沙苗、いやにそっけない……それに、谷丸からの返信がない!?

 普段なら誰より早く返ってくるのに、まあ、既読がついてるならいい、考えるのは後だ!


 三人はワゴン車の前で待機していた。

 俺も乗り込み、エンジンをかける!


「手短に話す、シンリンは最初の交戦地点付近で「山」に擬態していた」

「それが今、動き出したってわけね」


「そうだ佐原。進行ルート予想はあてにならないが、とにかくアレを市街地に出すわけにはいかない」

「勝てるの? あの蝶に」


 さっきから谷丸と沙苗が妙におとなしい。おとなしいどころか無言だ。


「どうにか約一時間、俺達で食い止めたい。そうすれば勝機はある。谷丸も沙苗も、聞いてるか?」

「一時間、ね。詳しく教えて? 確認させて欲しい」

「ちゃんと聞いてますよ謙一先輩」

「っす」


 谷丸と沙苗さっきからどうした!? 眠いのか?


「かよ……あ、いや、ある人の力にかかってる」


 考えてみたら、かよちゃん……お座敷様の立場や素性すじょう、能力詳細をどこまでコイツらに明かして良いのか分からない。本人や杉山陸佐に確認しておけば良かった。


「カナヤ君、それってもしかして遠野かよさん?」

「うわ出た……遠野」

「マジだったんすか、マジだったんすね、あの話」


 何か知ってるのか!? どこから情報が漏れた!? 反応に少し違和感があるが、コイツらがかよちゃんを戦力として認知しているなら話が早い!


「そう、彼女は……おざ、いや……か、遠野さん、その人がシンリン無効化の、初動しょどうかなめとなる!」

「いいよカナヤ君、かよちゃんって言っても」

「全部知ってますから私達」

「っす」


 何で!?

 お座敷様と言いかけてマズイと思って、かよちゃん呼びもちょっと違うと思ったらこれって、何が起きてる?


 いや、わかった。作戦行動上で大切なことだから、直属の部隊員である佐原・谷丸・沙苗にはお座敷様との共同戦線が通達されていたに違いない!


「分かってんなら話は早いな、かよちゃんが到着するまで持ちこたえるぞ!」

「あー、うん」

「わかりました謙一先輩」

「っす」


 テンションどうしたコイツら!?

 いや、機関トップのお座敷様と共同任務なら緊張もするか。

 服や髪型見たら驚くだろうな!



 カルロ掃討戦の時と同じ、いや、それ以上の自衛隊支援だ!


「こちら金谷管理官、距離をとること……それを最優先に! 航空機も車両も歩兵も全て、決して蝶に接触するな!」

「軍用投光器とうこうき、便利ね。谷丸ちゃんの絶対零度アブソリュートも」

「反射して蝶も見えやすいですもんね、葵さん」

「っすね」


 どうした!?

 任務に支障はない、だが、明らかに三人と俺の温度差がおかしい!

 なんか、冷えてる!


「カナヤ君、少し作戦と関係ない話をしてもいい?」

「え!? ああ、内容次第だが構わない……風薙ぎの弾幕は維持してくれ」


 こんなこと言う佐原、初めて見たぞ!?


「あのね、私はカナヤ君が誰とどんな関係を持つのも自由だと考えてる」

「お、おう」


 いや少しどころの騒ぎではない。一ミリも作戦と関係なくないか、この話。

 谷丸と沙苗は無言で、絶対零度アブソリュート念動力サイコキネシスをそれぞれ使いガラスの蝶を駆逐。


「でも、嫌がってるのを無理やり……って正直どうかと思うの」

「待て佐原、何の話だ?」

「知ってるんですよ私達。謙一先輩、最低ですよね」

「見損なったっすカナヤさん」


 話が見えない、噛み合わない!


「結果的に本人が幸せだったのなら、私が口を挟むことではないけれど……でも、軽蔑する」

「さっきから何を言ってるんだ!?」

「もうよくないです? 葵さん、遠野本人は喜んでましたし。謙一先輩きしょいカスですけど」

「っすね」


 きしょいカス!? 何でそこまで言われなきゃならねえんだ!

 これアレだ、俺がこの世界に転生してきた日を思い出すような空気感だろ、まるであの日と同じ。

 

 いや、それ以上だ。ここまで酷くなかった!

 

 しかも今は沙苗も追加されてる!

 さっきからどさくさ紛れに俺の腹狙って局所的ピンポイント友軍誤射フレンドリーファイア念動力サイコキネシスをネチネチと撃ってきてんの、分かるぞ!?


「待て、みんな……シンリンがさっきから組み上げてるアレを見ろ!」

「話そらすのダサいです謙一先輩」

「っす」

「違う谷丸ちゃん!沙苗ちゃん! 空を見て!」


 どうする、沙苗に頼んで丸ごと押し潰すか、佐原か谷丸の手を借りて俺が直接叩き込む? いや、焼夷ナプラム手甲ダストァナはまだ使うタイミングではない、だが黙って見守るのは悪手だ!


「こちら金谷!緊急だ!対空火器と航空戦力、木製の大型球体に全火力を集中! 高射特科、動けるか!?」

「謙一先輩、この際だから言いますけどサナっちだってほんとは謙一先輩のことずっと」

「あーあーあー! ダメっす! カナっち言わなくていいっすから、それ!」

「谷丸ちゃんもサナちゃんもいい加減にして!」


 嫌な予感しかしない、樹木で作られた球体は絶対に……絶対に、ヤバイ!


「破壊できない場合は撤退を! 車両投棄も視野!」

「葵さーん、見えてる蝶倒すだけの仕事じゃないんですー?」

「カナヤさんさっきから慌て過ぎじゃないっすか」

「でも、カナヤ君の悪い勘はよく当たる……」


 


 球体、爆発。


 


 空一面を覆い尽くすガラスの蝶、解放。



 

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