ここは天国?地獄?気がついたらパラレルワールドに飛ばされた。
おにまる
第一章 パラレルワープ
第1話 ここは天国?地獄?
俺は今日も何一つ変わらない日常を送っていた。毎朝6時に起きて7時には出社する。引っ越し屋さんの朝は早いのだ。この生活をもう7年は続けている。
引っ越し屋さんの業務は過酷である。ある時は冷蔵庫を一人で背負い団地の7階まで階段で運んで行ったり、くそ重い段ボールの箱を何十個も階段で運ばなければいけなかったりする。
引っ越しする中で重い物は何かご存じだろうか?テレビ?否、冷蔵庫?否、本である。
衣装ケースびっしりに詰め込まれた本などはまさに凶悪だ、重さにして50kgは有る。こんなんお前運べるかと言いたいが依頼人はそんな事考えないのである。しかもそれらは普通に取っ手を掴んで持ち運ぶととケースが破損するので、下から抱えるようにして持たないといけない。これがくそ重い、しかも階段とかマジ死ぬ。
しかもうちの引っ越し屋さんの売りはタンスの中の服は入れたまま運びます・・・だ。
服の入ったタンスの引き出しが開かないように上からすっぽりと伸縮性の布を腹巻の様に被せるのだ。これにより中の衣類が飛び出ることもないしタンスも傷つかず一石二鳥って、これ幸いとくそ詰め込むのはホント止めて下さいと泣きたくなる。
大体新人で入った人の二日目は全身筋肉痛だ。二割ほどの人は二日目で来なくなる。
そんなタフな世界で7年もやって来た俺、
しかも格闘オタクで観戦は大好きだが実戦はほとんどやった事が無い。人を殴ると言う事にどうしても抵抗があるのだ。今はもう居ないじっちゃんが空手の達人だったので、その技と体を鍛える事は、小さな時からやってきた。
その日の朝は少し早かった。
「水城君ごめんねー朝7時の現着で頼まれてるから、明日はよろしくね。」
昨日スケジュールキーパーの早美さんに頼まれてたのである。
グラマーでスルリと細く色っぽい、そしてサラリとしたストレートの黒髪に赤縁メガネ、どストライクの女性に色っぽい声で頼まれたら、その日の疲れも忘れて、俺の顔は緩む。
「全然大丈夫っす」
すこし言った自分を後悔しながら・・・。
(いつかあの乳もんだる・・・)
そんな想像しながら朝5時に起きて出社し一人で準備しトラックを飛ばし現場に向かう、着いた現場は、単身サラリーマンっぽい男性の一人暮らしの家だった。
「おはようございます、引っ越し屋さんの方ですよね」
その男性は今か今かと玄関で待ってた様だった。
「おはようございます、よろしくお願いします。」
「すみません、こんな早くから来てもらって、こちらですどうぞ、」
案内された部屋には俺の大好き?なはずは無い、本とマジックで書かれた段ボールが山積みされてた。
「二階にも荷物有るんですけど・・・9時には出れますか?」
ササッと一階と二階の荷物を確認し。
「全然大丈夫っす」
「助かります、10時に打ちあわせ入ってるけど今日の午前中にここ出ないといけなくて。」
内心んじゃ、昨日の内に出てけよと思いながらも、そんな素振りも見せず笑顔で答える俺ってプロ。
「んじゃ早速取り掛かりますね」
「お願いします」
サッサと作業にとりかかる。こんな仕事なぜ続けてられるかって?結局は引っ越しが好きなんだと思う、作業しながらその人の生活ぶりや人生が少し見れるのだ。この人は何の仕事だろうとか、もちろん中には綺麗な女性の依頼人だったったりするときは、テンション100倍になる。
引っ越し屋さんには下着の収納されてるの等見られても平気な人がいるのは最初は驚いたが、病院で裸になるのと同じ感覚なんだろうか?引っ越し屋さんは見慣れてると思われてるのかもしれない。
タンスの中の量だけ確認させていただけますか?と言っても 自ら平気で開いてくれる人もいる。もちろん全員では無いが、そこは下着ですのでと拒否される方もいるが、笑顔で対応する。
そんなこんなで一階が終わり二階を取り掛かると出ました、押入れから、衣装ケース満載の本、まじやめて・・・。
この人は何か出版とか執筆とか本に関わる仕事をしてる人なんだろうなと言う事が分かる、もくもくと仕事をしてきた人の感じが出てる。
そして年齢は35歳くらいだろ、ひたすら仕事で女性に目を掛けることもなく真面目にすごしてきたんだろうなーと言う事が作業してて分かる、いわゆる女っけが全く無かった。
黙々と俺も仕事してるから俺も同じようなもんだ、予定の時刻より30分早く作業を終える、俺ってやっぱりプロ。
60キロ程離れた新居に13時の約束をする、山一つ越えないといけないから少し時間の余裕を取った。荷物満載のトラックじゃ飛ばせないし山は時間が掛かる。
ほんとは全然余裕だけどねー昼寝でもしちゃおうかなーぐらいに考えてた。
出発して二時間程経った山の峠のドライブインで定食屋を発見したのでちょっと早めの昼食を取ることにした、店に入ると俺の大好きなとんかつ定食のメニューを発見。
「とんかつ定食、ご飯大盛できますかー」
「はい、山盛りにしときますねー」
と愛想のいい女性店員の受付を済ませてお手洗いに行った。
潔癖症では無いが食事の前と家に帰ってからは、石鹸で手を洗わないと気が済まない習慣があった。
たまに汚れた手を洗うと黒い汁が流れて行くのを見ると気持ちよくてそれが好きだったのである。
そして運ばれてくる肉厚のジューシーそうなとんかつを見て涎が出そうになるのを堪えてがっついた。
これぞ一日の楽しみでもある、一時の至福の時間を堪能して店を出る、いい笑顔だ。
(この山下ったらすぐだし、余裕で時間余るな・・・)
そんな考えからゆっくり進むことにすると気持ちもゆったりして来てこの7年間事故一つ起こしたことなかったこの俺が、プロにあるまじき居眠りをしてしまった。
バーーーーン
ガードレールを突き破った衝撃で目が覚める、その瞬間脳内のアドレナリンとエンドルフィンが一気に分泌されたのか一瞬世界が止まったかのように感じ、一瞬で状況を理解した。
あ、終わった・・・
人は死ぬ瞬間、走馬灯のようにそれまでの人生が記憶の中に流れると言うが、これはアドレナリンとエンドルフィンによる脳細胞の急激な活性化が引き起こすものだろう。
俺は覚悟して目を閉じた・・・また開いた・・・まだ浮いてる。
あれ!これ脱出できるんじゃね?そう思った俺は素早くベルトを外しドアを蹴り開け外にダイブした。やべ!これって外に出た方が危ないんじゃね?っと思ったけど遅かった。真っ白な光景に包まれて俺の意識はそこで絶えた・・・。
しかし終わってなかった・・・
夏の照り付ける太陽の日差しに眩しさを感じながら目を覚ました。
(なんだ夢かよ・・・死ぬほどあせったぜ・・・)
腕に付けてる安物の文字盤の時計を見る。到着時間を予想や進行時間を計算するのに文字盤の方がしやすいからだ。
それを見て焦る・・14時
(やっべ待ち合わせ13時って言ったよな・・・)
どこ!ここ・・・新居付近の公園か?あわててトラックを探すが見当たらない・・・
夢の中でガードレール突き破った瞬間の俺より焦って走り回る。
だが、トラックは何処にもない・・・途方に暮れて起きた公園に戻って、歩いていると目を疑う光景を見る。
サッカーボールが空中で止まっている・・・いや動いている・・・風船よりもさらにゆっくりとした速度ではねているようだった。その後を止まってる少年が・・・いや動いてるな・・・パントマイム?
いやいや・・・月面歩行してる動画くらいゆっくり宙に浮いてるな・・・
理解できないものを見ると人って口をぽかーっと開けて見入るんだろうな・・・
俺はそれを楽しむように見入っていた。ものすごくその動きは遅い、一度目を閉じて開いても全然進んでない・・・
すごい時間かけてその光景は進む、
俺の体内時間で5分はあったんじゃないだろうか、少年がボールを追いかけて公園を出て行こうとしてる所にこれまた止まってる・・・いやいや動いてる車がちょうど来てた。
どう計算してもこれ轢かれるだろうという絵にかいたような光景。車の速度はよく遊園地にある硬貨入れて動くようなパンダの乗り物よりも遅い速度だった・・・
俺は小走りに少年の所に行く、余裕で追いつく。そして少年の体をやさしく風船を押し戻すようにそっと後ろに押し戻す。その瞬間だけズシリと重量感はあるので慣性は働いているようだった。ふわりと少年は後ろに遠ざかっていくまだ表情は変わってない。余裕でボールまでキャッチできる。
ボールは車の前まで来てたが、ひょいっと叩いて少年の方へ戻す。
ちらりと車の方へ顔をやると、運転するおばはんの顔がすごい焦った表情をしてた。だがパンダの乗り物の速度より遅いので余裕で避けて戻る俺。
その後ふわふわと後ろに遠ざかる少年の所に走り込み、抱え込む、直後物凄い車のブレーキ音がする。
音は普通にうるさかった。
しかもそのキイイイという音がやたら長い。
その後両手に一瞬少年の重みを感じたのでゆっくり立たせ、まるで山崩しの棒が倒れないようにするようにそーっと、そして両手にボールを持たせてみた。
少しその少年を見守る。顔の表情がゆっくり変わって行き俺の方をゆっくり目で追ってきた。俺が体を動かしてもその少年の目は追って来ない。なんだか楽しくなってきた。
ブレーキ音がうるさいので離れた所から観察することにした。
少年は一瞬映った俺の姿を探してるようにスローモーションで辺りをきょろきょろしていた。
その一部始終を見て俺は、その場を後にした、ちょっと落ち着いて考えよう・・・・。
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