プロローグ

 このビジネスホテルは古いが安全だ。昔からお世話になっている。久しぶりの常宿はなんとも言えない安心感がある。

 私は充電器をスマホに差し込むとテレビを消した。

 山手線沿線某駅近く、ここら一帯は辛うじて停電を免れている。こんな日に仕事とは言え東京に来なくてはならないとは。

 真っ暗だが音だけで外の恐怖がわかる。でも私は大丈夫。胸騒ぎは消えないけれど。

 この嵐の後には必ず何かがある。

 無論交通機関の足止めで大阪に帰れない、というのもある。しかしそれだけではない胸騒ぎもあり仕事を終えたとは言え数日ここに留まる事にしたのだ。それで実際に救いたい人を救えるかはわからない。どうしてもうまくいかない案件というのはある。これはとても難しい。仕事ならまだしもここから先はボランティアのようなものだ。普段の私なら金銭の発生しない事は出来るだけしたくない。

 でも今回は自分と深い縁のあった人間が関わる事で、放っておけなかった。本来ならもう赤の他人だが、何故かあの人は放っておけない何かがある。でも人と人は元々何か紐のような物で繋がっている。恋人同士の赤い糸ではない。

 全ての人と人の因果とは紐のようなものとしか例えようがないのだ。

 一先ず今はこの災害でどこかに開くであろう穴を探さなくてはならない。そこに大事な人が落ちないように。

 大体の場所はなんとなく見当がついてはいる。しかし自信がない。朝になったらまた東京中を探し回らなくてはならない。問題を見つけて対処するのが私の仕事。


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