公園でのんびりしてたらトラックが突っ込んできてぽんこつ女神の世界にデバッカーとして転生しました

 ぱらぱらとライトノベルをめくった。


 みんみんとセミが鳴いている公園のベンチでカバーのついたラノベを読むのが俺の日課みたいなものだ。学校の帰りにスマホのイヤホンをして、適当にかっこいい音楽を流しながら読む。


「それにしてもみんなトラックにひかれすぎだろ……」


 少し笑える。ライトノベルの主人公たちは異世界転生をするためによくトラックとかにハンバーグにされることが多い、あと子供が車道に飛び出しまくる。


 ぱたんを本を閉じてカバンに入れる。俺も異世界転生してぇなぁ……いや冗談だけど。それにトラックにひかれるのは嫌だし、俺はスマホの音楽を止めて立ち上がった。


 ああ、いい天気だ。今日の夕飯なんだろ。


 ぷっぷー


 あ? なんだ、公園の入り口からドゴオ! と轟音喚き散らしながらトラックが侵入してきてる……は? え? なに? ちょっと、俺に向かって一直線に進んでくる。


「え? え? え?」


 ぷっぷー。ごおおおおおお!


 クラクションを鳴らしながら俺に突っ込んでくる、ちょっ、やめ――ここは公園ですよ?!




「は!?」


 どこだここ! 真っ白な部屋??

 

 えっと俺、さっきまで公園で本を読んでいただけで、あれ、なんで……なんもない白い部屋で椅子に座ってんだ。


「おちつけ、おちつけ」


 言い聞かせる。これじゃまるで異世界転生する前の主人公みたいじゃないか。


「お目覚めになりましたか?」


 女性の声にはっと顔をあげる。そこには白い髪をした女の子が俺に微笑んでいた。


「わわぁ、い、いつの間に」


 さっきまで誰もいなかったはずだ! てか、ひっくり返って、椅子ごとたおれそうに……ならない。体が宙に浮いてる。はは、なんだこれ。


「こらこら危ないですよー」


 ふわっと体が浮いて、ちゃんと椅子に座りなおす。……俺の意志じゃない。この女の子がやったのか? よく見ると背中に小さな白い羽がある。


「は、はは、はは」


 これ、現実だよな?


「あれ? どうしたんですか片桐 刃(ジン) さん」


 こいつ俺の名前も知っているよ……たぶん天使か女神なんじゃないかな。


「お、俺死んだんですか?」

「あ、察しが良くて助かりますー! それじゃあ異世界転生してみましょうか?」

「いや、待って。説明端折りすぎですよ!?」


 異世界転生したいとか言ってねぇ。ちゃんと説明して。あ、あと俺まだ生きてたいんですけど。


「お、俺生き返らせてくれませんか!? 普通に家に帰りたいんです!」

「えー? 日本の男子学生は異世界転生したらみんな喜ぶって聞いたんだけど……おかしいなあ」


 情報偏りすぎだろ。


「あ、僕は女神ファルリム。説明と言うと、これからあなたは私が初めて作った世界、『ライトラム』にデバッカーとして転生してもらいます。これでいいかな? じゃあ、行こうか!」


 まってー! まてまてまてまてまて。


「いや、俺家に、カエリタインデス!」

「うん! これからライトラムが君の家だよ!」

「言葉は通じるに話が通じねぇ! あ、あとデバッカーって何? 勇者とかじゃないんですか?」

「くす、勇者になりたいの?」


 は、恥ずかしくなるようなこと言わないで……。俺は、頭を振って悩んだ。デバッカーってあのゲームとかのバグを探す人だよな? 発売前にプレイして異常を探したりする……。


 意味わからん!


 俺の周りが青く光り始めた。


「な、なんだ」

「ジン君……」


 俺の前で女神が微笑んだ。正直ドキッとするほどに美しい。


「ライトラムにようこそ?」


 人の話を聞かないところを除けばかわいい女の子だ! まばゆい光が俺の視界を閉ざした。


 ☆


「ジン君。起きて」


 あ、あれ? 目を開けるとそこにはファルリムさんの顔があった、大きな瞳に俺の姿が映ってる。ちょっと恥ずかしくなる。


「え、えっと」


 俺は仰向けに倒れてたみたいだ、体を起こして周りを見る。


 青い空の下に草原が広がっていた。俺の隣に座っているファルリムさんはにこにこと微笑んでいる。まじか、ほんとに異世界なのか。


 胸が高鳴った。……わくわくしないというと嘘になる。でも帰りたい。複雑なんだよ!


「わっ」


 俺、なんか冒険者っぽい服を着ている。それに腰には剣もある。あああ、興奮しちゃ……ごほん!


「さあさあ、ジン君。『ステータス』って叫んでみて!」

「ステータス? ゲームみたいな……」

「そうだよ、僕はこの世界の創造主だからね、なーんでも知っているんだよ。ステータスっていうと今の自分の状態を確認できるウインドが開くよ」

「まじかよ、ステータス!」


 ぱあっと俺の前の空間に小さく透明な窓が開く、そこには文字が刻まれていた。


『縲後&縺ゅ&縺ゅ?√ず繝ウ蜷帙?ゅ?弱せ繝??繧ソ繧ケ縲上▲縺ヲ蜿ォ繧薙〒縺ソ縺ヲ?√?

縲後せ繝??繧ソ繧ケ?溘??繧イ繝シ繝?縺ソ縺溘>縺ェ窶ヲ窶ヲ縲

縲後◎縺?□繧医?∝ヵ縺ッ縺薙?荳也阜縺ョ蜑オ騾?荳サ縺?縺九i縺ュ縲√↑繝シ繧薙〒繧ら衍縺」縺ヲ縺?k繧薙□繧医?ゅせ繝??繧ソ繧ケ縺」縺ヲ縺?≧縺ィ莉翫?閾ェ蛻??迥カ諷九r遒コ隱阪〒縺阪k繧ヲ繧、繝ウ繝峨′髢九¥繧医?』



「…………」

「…………」


 も、文字化けしてる。。


「あ、あはは、お、おっかしいな。ぼ、僕としたことがこんなことないんだけどなー、ちょっと調整するね―」


 ファルリムさんがウインドに手をかざす。ぱあっと光っている。


「片桐仁 :16歳

女の子タイプ:バランスの取れた体つきでかわいい系の女の子が好き。僕っ子キャラなどは好物であり、彼のパソコンのフォルダ『数学Ⅱ』には様々な画像――」


 ああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 


 やめてぇ! 俺のステータス(個人情報) を開示しないで。こういうのは俺のレベルとか攻撃力とかを表示するんじゃないの??


「あれ? あれ? お、おかしいなぁ、僕が間違えるはずないんだけどなぁ。うわ……君、そんな趣味があるんだね」


 よ、読むんじゃねぇ!



「ステータスはもういいです」


 なんかふくれっつらをした女神に俺は宣言した。


「あれはたまたまだよ」

「たまたま傷つけられた俺の心を想ってください」


 草原を歩く、なるほどこの世界はバグってるらしい。ファルリムさんはぶつぶつ言いながら「違う、僕のせいじゃない」とかいってる。


 あ、人がいる。いや、ていうかその前にぶよぶよしたなんかもいる。


「お、ジン君。イベント発生だね。あの人の前にいるのは雑魚モンスターのスライムだ」

「イベント発生って……ほんとゲームみたいだ、おーい大丈夫ですか?」


 スライムの前に直立不動をしているのはおじさんだった。村びとっぽい服を着ているな、おじさんは俺の方を振り向いた。


「(テキストがありません)」

「!!??」


 は? テキスト?


「こ、これはたまたま村人の話す言葉がないんだね。あ、ははは」


 震えた声で女神がなんか言ってる。

 驚きすぎて逆に冷静になった。俺は剣を抜いた。


 ――ぶよぶよしたくそざこ鈍いスライムが現れた。


 ステータスみたいなウインドに罵詈雑言を並べたモンスター名が現れる。


 倒しにくくなるじゃないか。かわいそうで。


「が、がんばってジン君!」

「(テキストがありません)」


 おじさん……可哀そうに。うおおお、俺は剣をスライムの上から叩きつけるに切った。


――ぶよぶよしたくそざこ鈍いスライムを倒した。


 経験値を5手に入れた。

 ジンのレベルがあがった。


 うわ、なんか俺の体に力がみなぎってくる。ほんとにレベルが上がったのか。


「ほら、ジン君ステータスを開いてみて」

「……あとで」


 一人の時に開きます。ファルリムさんは不満そうだけど、貴方が悪い。


「そういえばこれ、なんかアイテムとかお金とかも落とすのかな」


 ――やくそうをおとしました。

 ――500000000000000ゴールド手に入れました。


 は? 5000兆ゴールド?


 空が陰った。あわてて俺が見上げるとそこには金の雲、いや、大量のコインが空から落ちてくるのが見えた。


「に、逃げろぉおおおお!」

「お、おっかしいなぁ、僕に限ってこんな調整不足は」


 わかった! こいつぽんこつだ!!!!!


 がっしゃーんと俺たちのいた場所に大量の金貨が落ちてくる。波のように唸り、草原を飲み込んでいく。


「ひぃいひぃい」

「ぼ、ぼくとしたことが」

「(テキストがありません)」


 俺とぽんこつとおじさんは力の限り走った。


「ま、まってジン君、ぼ、ぼくもう、だめ。走れない」


 なんで女神が一番先に音を上げるんですか??


「ぼ、僕は天界で高貴に育ったから下賤なものとは少し違うんだよ」


 置いていこう! ああ、こいつ俺の足をつかみやがった。


「み、見捨てないでくれよ」

「いや! 女神ならあの迫ってくる黄金の波を消せるだろ! なんとかしてくれ!」

「あ、そうか、僕としたことが」


 ファルリムは立ち上がった。ずざざざざざざとスライムを倒しただけで国家予算の数十年分が迫ってくる。世界を飲み込むその勢いに俺は正直もうだめだと思った。


「(テキストがありません)」


 おじさん……俺の肩に手を置いてなんか言ってくれているんだけど、伝わらないよ。結構ダンディなだけに残念過ぎる。


「諦めるにはまだはやいよ、ジン君」


 ぱあと、ファルリムの周りに魔法陣みたいなものが展開される。


「世界創造(クリエーション)!」


 女神が両手をかざすと世界が光に包まれた――



「結局これだけが残ったのか」


 手のひらで銅銭数枚を弄ぶ。


「まあ、調整がうまくいったということだよ、ジン君」


 得意げに言っているこの女神様がやったと思うのだが、目を覚ますとスライムが倒れていた場所にこれだけの金が落ちていた。あの金の海は消えていた。


 まあ、諸悪の根源はこの人なんだって知っているけど。


「ふふん。これで少しは私のことを見直したかな?」

「…………はい」


 とりあえず言っとく。高校生にもなれば大人の対応をすることくらいできる。


「あの、ファルリムさん」

「ふふ、なーにかな」

「この世界ってもしかしてまだ未完成だったりするんですか」

「……」

「だって、俺をデバッカーとして異世界転生させるとかいってましたし、おじさんのテキストはないし……」


 話していると面白いぐらいにファルリムさんは汗をかき始めた。顔はにっこにこなので俺が困惑する。


「そ、そんなわけないじゃない。こ、この僕に限って」

「……で、でもスライムを倒しただけで5000兆円手に入るのは、おかしいですよ」

「ご、ゴールドだよ、円は日本の単位だろう?」


 そんな問題じゃねぇ。

 ファルリムさんを俺は見た。ひゅーひゅーと口笛を吹こうとしてうまくいってない。


「あーもー、わかったよ! 確かにこの世界は僕が初めて作った世界でところどころバグだらけなんだ! 一人で修正するのは寂しいから君を選んだんだよ!! これでいいだろう?」


 ぷんすかと怒られても、ていうか、俺そんな理由で選ばれていたのか。


「……すごい先に進むのが怖い」

「そ、そんなことはないよジン君。世界の創造主である僕と一緒なんだから万事モーマンタイさ!」

「…………ああ、休みたい。頭痛い。村とかにつかないかな」


 初めて村とかないんだろうか、どこまで歩いても草原しかないし。


「村?」


 キョトンとした顔でファルリムさんは俺の顔を覗き込んできた。


「え?」


 はっとした、このただっぴろい草原。もしかして村なんてないんじゃないか?


「あの、ファルリムさん。RPGみたいに村とか町とかありますよね」

「…………も、もももちろんさ。王都があるよ、この先4345キロ先くらいかな」

「遠すぎるだろ! このぽんこつ!!」

「ぽ、ぽんこつだって??」


 危うく日本横断(3000キロ) 以上歩かされるところだった!!


「たった数年くらい歩けばつくのに、ひどいよジン君!」


 か、感覚がおかしい、人間の俺と女神の差を感じる。たぶんこんな気持ちで世界を作ったから訳が分からないことになったんだろう。


「そ、それにこの草原だっていろんなイベントがあるんだよ、例えばボスの盗賊とかがいるんだからさ。それを倒してから文句言うべきだよ」

「盗賊……」

「そうだよ、旅人の追いはぎをしている盗賊だよ。よくあるんだろう? 人間世界では」


 現代日本ではないけど、中世とかにはあったんじゃないですかね。


「俺に倒せるんですかね」

「大、丈、夫。僕がついているから」


 不安要素しかねぇ。

 


 しばらく、というか延々と草原を歩いていく、マジで何もない。

 地平の先まで緑の世界が広がっている。


 そういえばテキストのないおじさんはあそこで何をしていたんだろう、いつの間にかいないけど。


「はあはあ、ジン君。お、おんぶしてくれても、い、いいんだよ」


 おんぶ……無意識にファルリムさんの胸を見て……。


「じ、自分で歩いて」

「人でなし!」

「言いがかり過ぎる……あれ。なんだ」


 草原の真ん中に直立不動で立っているおじさんがいる。手に剣を持っている。ひげ面で悪い人って顔をしているんだけど、一人で何をしているんだろう。


「あ、ジン君盗賊だよ」

「へえ、あのおっさん俺たちが通らなかったら、ずっとあそこにいたのかな」


 ぜんぜん動かないしすごい姿勢よく気を付けしてる。


「おーい」


 俺は話しかけてみた。どうせまたテキストがないとかだろうけど。


『よくぞここまでたどり着いた、勇者よ。この魔王アスモデウスの城は堪能していただけたかな?』


 は? 城? 草原ですけど?


『しかし、それもここまでだ混沌の闇に沈むがいい。うおおおおおおおおおおお!!!!!』


 盗賊らしきおっさんは突如として巨大化し、大きな角を生やした悪魔に変貌した。

 体は紫に染まり、魔王っぽい風貌になっていく。雲に届くかのような巨体を俺は呆然と見上げていた。


――盗賊が現れた


「う、うそだろぉおお!? どうみても盗賊じゃなくてラスボスだろ!!?? イベントフラグ絶対バグってる、おい!! ぽんこつ!! あいつ城って言ってたぞ!!」

「また、ぽんこつって言ったー!! ジン君ひどい!!」


 俺とぽんこつが口論している間に魔王こと盗賊が言った。


『げへへへ、有り金を置いて行ってもらおうか??』


 くそぉ、要求が低い……。銅銭数枚を置いていった方がいいんじゃないのかこれは。


「ジン君、諦めたらだめだよ。呼ぶんだよ、聖剣を」

「せ、聖剣?」


 そんなものがあるのか? よく考えたらステータスが文字化けしてたから何ができるのかよく知らねぇ。


「心から叫ぶんだ。こい、エクスカリバーって。さあ早く」


 はずい。


「はやく! ジン君! 君ならあのくらいの盗賊は倒せるよ」


 くそ、なんでこんな辱めを。俺は自分の心に問いかけるように目を閉じた。そして叫ぶ。


「来い!! エクスカリバー!!」


 俺を中心にまばゆい魔法陣が広がる。美しい蒼い光が俺を包んで、そして背中から剣が俺を刺し貫いた。聖剣はあらぬ方向から、しかも刃を俺向きにして出現したのだ!!


「ぐえええ」



「いやだよ、ジン君。死んだらだめだよ……」


 大粒の涙が俺におちてくる。目を開けるとファルリムが倒れた俺を抱いて泣いている。

 朦朧とする意識の中で最終決戦ぽいな、と俺は思ったけど……全部こいつが悪い。


「まお……盗賊になんか負けちゃだめだよ、君の冒険はまだ始まったばかりだろう!?」


「魔王様の……せいにするな……」


 人のせいにするな。魔王はまだ何もしてないし、しかも攻撃を待ってくれている。

 

「おい、ぽんこつ女神」

「ぼ、僕はぽんこつじゃない!」

「どうでもいいからけがを治してくれ……痛みすらないからやばい」

「わかったよ」


 ファルリムは俺を適当に投げ捨てて、いてぇ。両手を天に掲げた。


「世界創造(クリエーション)!」



 灼熱の炎が俺を包む。

 

 体に浮かぶは最強の紋章。


 膨大な魔力に満ちた俺の肉体はそれを象徴するかのように鬼のような角があった。


 俺は魔王(盗賊) の前に立ち、言う。


「さあ、決着をつけようぜ。アスモデウス!(盗賊)」


 俺の右手に急速に魔力が高まっていく。一足飛びに数十メートルを飛び、右手を振る。魔力の塊が魔王の頬に叩きつける。


『見事だ』


 ――回復しすぎだろ、なんだこれ。別人になっているじゃねぇか。



 勢いのままにやったけど、俺めちゃくちゃ強くなっている。


 だが魔王(盗賊) も大きくその口をあけて魔力を集中する。紫の光が収束していく。あれは……世界を滅ぼす光だ……いや、自分で言っておいてなんだそれ。


「ジン君!」


 振り返ればファルリムがいる。


「勝って!」


 なんで最終決戦ぽくするんだ。あと聖剣はどこに行ったんだ! 

 

 キュイイインと魔力が収束していく音がする。アスモデウス(盗賊) が巨大な光線を発射した! すべてを滅する光が俺たちに迫る。


 俺は右手にすべてを収束する。俺の角も体の文様も消えていく。もともとも俺の体にもどっていく。全部、全部右手に集中しているからだ。


「こんな、世界から」


 俺は放たれた魔力の光線に向けて右拳を固めてパンチを繰り出した!


 思いも力もすべてを込めた俺の右拳と魔王の魔力がぶつかる。ばちばちと世界を揺らす。


「俺はこんな世界から、帰りたいんだぁ!!」


 俺は叫んだ! そして俺の拳から放たれた魔力が光線を貫き、魔王(盗賊) の体を粉砕した――



「はあ、はあ、はあ」

  

 白い雪のようなものが降っている。


「これは魔力のカケラだよ」


 ファルリムが言うが、正直どうでもいい、疲れた。見れば魔王(盗賊) も俺を見ている。

『見事だ、勇者よ。しかし、我を倒しても第二。第三の我が生まれるであろう……』


 魔王(盗賊) は消えていく。白い塵となって。


 そりゃあ、ぽんこつ女神を放置してたらいくらでも出てくるだろうよ。お前みたいな可哀そうな奴が。

 

 世界が明るくなっていく。

 

 青い空と草原が戻ってきた。


「勝ったね。やったよジン君!」

「うるせぇ……ぜえぜえ」


 この世界は何が起こるか全然予想がつかない。バグだらけ過ぎるし、調整ががばがばすぎる。いつ死ぬかわからない。


「ファルリムさん。いやファルリム!」

「い、いきなり呼び捨てはひどいよジン君」

「俺を、俺を元の世界に帰してください!」

「だ、だめだよ、僕とデバッカーになるっていっただろう?」

「承諾したことがねぇ!」


 俺は、ファルリムにつかみかかりそうになった。もう帰りたい。


「全部バグだらけの世界なんてもう嫌だ!」


 ファルリムの服をつかんだ時。


 ばしゅっとファルリムの服が吹き飛んだ。白い肌が俺の前にあらわれる。

 な、なんで??? 


「あ、あああああ」


 まっかになったファルリムが俺を平手打ちした。

 倒れながら俺は、まあましなバグだと思った。

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