絶対に話してはいけない!ジェットコースターの雫の話。

逢坂 純(おうさかあつし)

惨劇!ジェットコースターの雫の話。

実際に事実本当のことだとしても、これだけは絶対に肯定してはダメだ!という経験をしたことがあります。それは「実は隠し子がいた」とか、「親に黙って障害年金をキャバクラ通いのために全て使ってしまった」とか、そんな大それた出来事という訳ではありません。もっと些細な出来事なのですが、その時、僕がそれを肯定したら、多分、僕と友人との間にある友情は壊れてしまっていたでしょう。今回はそんな友情を守るために吐いた嘘の話です。

中学の修学旅行は東京に行きました。東京ドーム、国会議事堂、東京ディズニーランド、

さまざまな東京を楽しんだ修学旅行になる筈でした。

その事件は東京ディズニーランドで起こりました。ここ20年近く東京ディズニーランドには足を運ぶことがなくなったので、今はどうなっているのか分かりませんが、当時、東京ディズニーランドには、ビッグサンダーマウンテンとスペースマウンテンという二つのジェットコースターがありました。

中学時代特に仲が良かったコロンブス(というあだ名の男の友人:何故コロンブスだったのかは不明)と同じ班になった僕は、絶叫マシーン好きなコロンブスと僕と、そして友人何人かで、ビッグサンタ―マウンテンに乗ることになりました。一時間程並んだのでしょうか。

僕たちはこれからする絶叫体験に胸を膨らませて、やっと僕たちの乗る番になりました。

僕は舌足らずな声で、コロンブスにこれから乗る絶叫マシーンの事を語り合いながら、座席に座りました。コロンブスと僕は隣同士に座ることができず、僕が前の席、コロンブスはその後ろの座席に乗ることになりました。

ブザーが鳴って、ジェットコースターは動き出しました。

ガタガタとジェットコースターはレールを昇って行きます。僕は今から来るジェットコースター体験に適度な緊張とドキドキの中にいました。そしてジェットコースターは頂点に達しました。一瞬、ジェットコースターの動きが停止したかと思うと、次の瞬間、ジェットコースターは、ものすごいスピードで左右に大きく触れながら、走り出しました。

僕はその重圧とスピードに思わず、声を出し叫びました。その時、大口を開けた僕の口からヨダレが垂れたのです。そしてそのヨダレは空中に浮かび、ジェットコースターのスピードと一緒に紛れて消えていきました。

僕はジェットコースターを存分に楽しみ、ジェットコースターはスタート地点へと戻って行きました。

ビッグサンダーマウンテンに乗った友人たちと、今しがたした絶叫体験をワイワイとしていると、僕の真後ろの席に乗っていたコロンブスが僕に言いました。

「あつしさー、ヨダレ垂らさなかった?」

僕はギョッとして、頭が真っ白になりました。

あのヨダレは宙に消えたのではなく、コロンブスの顔に付着したのかー!と。

「垂らしてないよ!垂らしてない垂らしてない!どうして?!!何かあった???」

僕は慌ててコロンブスに、その『事実』を否定しました。何とかして僕はコロンブスの顔にヨダレを垂らした事実を隠し通さなければと必死でした。その嘘がコロンブスを上手く騙せたのか、それともコロンブスは真実を知っていながらも、敢えて騙された振りをしたのかは、今となっては分かりません。

もしかしたら、その当時の話を覚えているのは、僕だけかも知れません。コロンブスにとっては取るに足らぬ出来事だったのかも知れません。

そのお陰かどうかは分かりませんが、コロンブスは今でも付き合いのある僕の大切な友人の一人です。

お互いいい大人になったのですが、コロンブスにはこの話を話すのは黙っておこうと思います。

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絶対に話してはいけない!ジェットコースターの雫の話。 逢坂 純(おうさかあつし) @ousaka0808

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