こちら神佑高校生徒会
秋乃晃
青い瞳に未来が映る
「俺の未来を視てほしい」
「いいですけど、今?」
生徒会の拠点、生徒会室。その隣にある資料室に、男子生徒がふたりいる。明るめの髪色の天然パーマで、入学して早々に「染めているんじゃないか」と職員室に呼び出されてしまったほうが宗治。その宗治と向かい合うように置いたイスに座っている男子生徒は、学生服には不釣り合いなサングラスをかけている。
彼の名前は
「生徒会長に告白しようと思うんだ」
「今?」
「今!」
「何を?」
「俺と付き合ってください、って」
宗治は、新しく生徒会長となった
「へえ。がんばってください」
宗治と卓は、自身の教室からこの資料室に移動した際に、ちらりと生徒会室の中を覗いている。三年生の元生徒会長をはじめとした旧生徒会のメンバーが思い出話に花を咲かせており、一人も帰っていない。早苗を取り囲むようにして、なんだか和やかで楽しげな雰囲気ではあるが、新入りには入りにくい。
「作倉はついてきてくれないのか?」
「愛の告白をするのに、見張りがついていったらおかしいでしょう?」
「だったら、余計に視てもらわないとだぞ」
宗治は、組んでいた足を戻す。真剣なまなざしで、卓のサングラスに映り込む自分を見た。残念ながら、取り立てて秀でた容姿はしていない。標準体型の、ありふれた、ごく普通の男子高校生である。
「俺の告白は成功するのか、しないのか」
「タイミングが大事だと思いますけどねえ」
遠回しに、卓は宗治の愚かな行動を未然に防ごうとしていた。その『愛の告白』とやらは、衆人環視のもとで敢行されるものではない。決して、今ではないと思う。
「ようやく憧れの夏芽先輩との接点ができたんだから、一刻も早く仲良くなっておきたいだろ!」
宗治は、イスから立ち上がると、拳を握って力説した。
「接点、ですか」
「夏芽先輩は、部活動には入っていらっしゃらない。朝は校内外のゴミ拾い、放課後は投書箱に届いた生徒たちのお悩み解決。神佑高校生徒会の副会長として、熱心に活動してきたわけだ。そりゃ、内申目当ての立候補者なんかよりも選ばれるわけだよ。作倉も見ただろ、満票だったじゃん!」
「はい、そうですね?」
「今日から俺が、公私ともに、先輩を支えたい!」
「はあ」
これは呆れの「はあ」である。宗治が同級生の女の子よりも一学年上の早苗を目で追いかけていたのは、宗治の“善き友人”のポジションにおさまっている卓にはバレていた。だが、わざわざ生徒会の副会長へ立候補し、見事その座を手に入れるまでのモチベーションの源泉が『夏芽早苗』にあるとまでは見抜けていなかった。
「別に生徒会に入らなくとも、いつでも告白はできたでしょうに」
「いいや。作倉。甘いよ。夏芽先輩を狙っている生徒は、男女問わず、神佑高校内外関係なく、うようよいるんだってば」
「よくご存じですねえ」
「
「はあ」
二度目の「はあ」である。ただ、宗治の夏芽早苗攻略にかける情熱は伝わったので、卓はサングラスを外した。
その瞳は、左右の色が異なっている。左目が『過去を視る』赤色で右目は『未来を視る』青色だ。両目で、現在を見ている。
「で、何を視ればいいんでしたっけ?」
「俺の告白が成功するのか、しないのか!」
「しませんよ」
卓は生まれながらにしてこの能力を持ち、日本人離れしたオッドアイを隠すべくしてサングラスをかけ、日常生活を送っている。普段の暮らしに困りごとはないが、ときおり面倒ごとに巻き込まれてしまう。今回のような。
「まだ視てないだろ!」
「……はいはい」
視なくともなんとなく察するものはあるのだが、卓は左まぶたを閉じた。
こうして、未来が視える。
視える、なので、音はわからない。
宗治が早苗になんらか(文脈からすると、告白のセリフ)を言い放ち、早苗は何かの言葉を返した。お互いのしゃべっている内容までは把握できないが、宗治がくるっと回れ右をして、生徒会室から出て行く。
「どうだった!?」
というシーンまでを視て、卓はそのからだを前後に揺らされ、左まぶたを開けた。現在に戻ってくる。資料室にはふたりの男子生徒しかいないので、卓を揺さぶっていたのは宗治である。
「どうでしょうねえ」
「わからなかった?」
「視る前にわたしが想像していたよりは、悪くはなさそうでしたけど」
「なんだその、びみょうな」
「まあ、いってみたらどうです? ふられたとて、死にはしないですし」
「それもそうか。よし!」
ぱん、と両手を合わせて、気合いを入れる。卓はサングラスをかけ直した。
「いってくる」
「いってらっしゃい」
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