愉快で幸せな日常は続く

『一体どんな手品を使った!! いや、傭兵の貴様ら、さてはビアード家に先に雇われていたな!! そうに違いない!!』

「ねぇレイト。こんな展開どこかで聞いたよね?」

『多分、あの趣味悪かったどっかの家のボンボンの報復的なやつ』

「あー、例のアレ」


 そういえばあの時も完膚なきまでに負けたのに喚いていたよなぁ、と思い出した。

 その後にイリーガルな事をしてきた、してこようとしている辺りも思考回路が似ている。

 別にこちらに関わらなければいいだけなのだから、潔く負けを認めたほうが恥も少ないのに。


『おいおい勘弁してくれ。俺達傭兵は確かに金さえ貰えりゃグレーな事も喜んでやるが、そんな真似をする馬鹿はここに居ない』

『うるさい!! 父上からあれだけの金を貰っていたというのに裏切りおって!! ええい、この決闘は無効だ!! また後日、今度は我が家の機兵団を連れて!!』

「却下。言いましたよね? この決闘に勝ったら金輪際関わるな、と。それに、わたしが彼等を雇った証拠は? 仮にそうだったとしても、それに気付かず金を払ったなんて…………貴族らしくないお馬鹿な行動をあなたはしたと、そう自白するんですね?」


 カタリナの言葉に相手は言葉を詰まらせる。

 カタリナの言ったとおりだ。

 伯爵家の者が、3日もかけ、親から金を貰ったのにも関わらず、相手の息がかかった傭兵を器用に全員金を払って雇ったなど。

 それは間違いなく彼の貴族としての力が足りなかったことを白状する真似に過ぎない。


『くっ、所詮はハインリッヒのおまけ程度の女が!! 傭兵共、更に金は積む!! そこの機体を何としてでも落としてその女をここまで連れて来い!!』

『おいおい雇い主様よ。こっから機体を動かすためにゃOSを実践仕様でリブートしろって事だ。そんな事を敵の目の前でしたら落とされちまう。そもそも落とせったって……土台無理な話だ』

『なんだと!! 雇い主は俺だ!! あのいけ好かない白い機体を落とせ、と俺は言ったんだぞ!! 黙って従え!!』

『…………まさか彼を実弾でも何でも使って殺せ、と?』

『そう言っている!!』


 その通信はもちろんカタリナにも、レイトにも聞こえている。

 2人は溜め息を吐き、行く末を見守る。


『だったら簡単だ。わりぃが、俺は降りる』

『俺もだ。死にたくないんでな』

『なっ、なんだと!? この俺の指示が聞けないのか!!?』

『そうは言うがな。相手側の機体はエネルギー兵器を積んでいる。間違いなくスイッチ一つで出力上げれるんだよ。そんでもって、戦って分かった。俺等じゃ実弾積んでも勝てやしねぇってな』

『傭兵は確かに何でもやるが、命は惜しい。やるんなら一人でやってろ、お坊っちゃん』


 傭兵達が次々と依頼を破棄することを口にする。

 OSのリブートは1分もかからない。だが、誰もがそれをやらない。


『懸命な判断、感謝するよ。そうだ、折角こうやって知り合ったんだ。明日にでも飲み屋でお酒1杯程度なら僕からサービスさせてもらうよ』

『そりゃありがてぇ。ってな訳で、だ。おい、お坊っちゃんにつく奴はOSのリブートをしろ。そうじゃねぇやつは回収されるまで何もするな。あのスナイパーに即座に殺されるぞ』


 誰もOSはリブートしない。

 つまり、そういう事だ。


『決闘審判の権利の基、ビアード家の勝利を担保する。以後、決闘の勝敗に異議を唱えたいのであれば、学院に直接物申す事だ。それと、カタリナ・ビアード嬢。相手側の不愉快な発言及び今後の行動は学院が責任を持って監督し、あなた方の安全は学院が保証させてもらう』

「ありがとうございます。こうも大声でこちらの誘拐計画と婚約者の殺害計画を話されたんですもの。相応の沙汰が下ることを願います」


 そして先の発言は、決闘を取り仕切る学院にとっても看過できない言葉だ。

 負けたから駄々をこね、最後は相手を殺せなど。一貴族どころか、人としてありえない。

 特に、前回ビアード家には決闘起因での問題、しかも貴族が賊を使って貴族を襲撃するという最悪の問題まで起こった始末。

 あの件は一応揉み消されたが、一部ではしっかりと事実として扱われている。故に、学院もそんな事は起きていないと表面上は言えても、無視はできない。

 もしもこれと似た事件をあと1度でも許してしまっては決闘制度どころか学院に対する信用問題にまで発展するのは確実だろう。

 故に学院から派遣された決闘審判という立場で、今回の沙汰を学院に報告し、カタリナに万一が無いことを約束した。

 これは実質的に学院並び、そのバックの国が約束したと言っても過言ではない。

 今だけではなく、未来の貴族の子息を守るために。


『貴様、学院の審判ごと──』

「はい、相手船からの通信カット。聞いてるだけで不愉快だからね」

「ですね。でも、お嬢様も言うようになりましたね?」

「レイトが居るからだよ。何やらかしてもレイトが守ってくれる。そう信じてるから」


 そんな事が起こっているとは実は微塵も思っていないカタリナさんは通信をカットした。

 何かあってもレイトとランドマンが居れば問題ないだろうとも思っている。

 ここで裏の裏まで深く考えられない辺り、カタリナは貴族に向いていない。ただし、それは本人も自覚していること。

 カタリナは普段の可愛らしい笑顔を浮かべ、レイトに話しかける。


「それじゃあレイト。地上に戻ってデート、しよっか」

『是非とも。エスコートしますよ、お嬢様』

「うん、期待してる」


 そうしてカタリナの身に起こった厄介事はまた収束し。

 以降、あのボンボンはカタリナに話しかけてくることはついぞ無く、時折しょんぼりと肩を落として歩くあのボンボンを見かけたという。



****



 それ以降、カタリナの身をかけた決闘は数度行われたが、そのどれもが召喚したレイトの活躍によりビアード家の勝利と相成った。

 なんなら、この事から力のない男爵家の長男次男、令嬢などから報酬ありの代理決闘を頼まれ、それらを了承し、勝利。

 なんやかんやでハインリッヒ家、ビアード家と様々な貴族家との縁を結ぶのに役立ったりした。

 カタリナはもう貴族としての地位こそ失ったが、そんなカタリナと個人的な友達の貴族令嬢はそこそこ居る。身内ばかりの結婚式にも友人枠として数人ほど呼んだくらいだ。


「懐かしいなぁ。途中からレイトを使うんなら有給使わなくてもいいってミーシャさんから許してもらえたりしたし。あれ、業務の一環になってたよね?」

「その先にある様々な貴族家との良縁奇縁を優先したからですね。レイトを1日派遣するだけでそれが成せるんですから、十分業務扱いですよ。それに、酷いときはレイトとランドマン殿のタッグとかいう悪夢も出てましたし」


 たーーーっぷりと準備期間を作った結果ぞろぞろと出てきた傭兵&お抱え機兵団計60機vsレイト&ランドマンという対戦カードで相手に地獄を見せたのは懐かしい話だ。

 審判が変な笑いをする程度にはひどい蹂躙だった。

 ちなみに、レイトの召喚回数があまりにも多かったからか、途中からランドマンは「もう帰ってもいいかな。必要なさそうだし」とか思ってた。

 それを察してたまにランドマンを使ってたけど。


「さっ、そろそろレイトも帰ってきますね。彼を迎える準備をしましょうか」

「はーい。あっ、そういえば一つ気になったんだけど」

「なんでしょう」

「メルってもういい歳なのに彼氏くらいできないのかなって…………うんごめんね、わたしの専属で時間なかったんだもんね。だから真顔で全身に火をつけないで! こっちに向かって火球作らないで!! 相変わらず人間じゃない!!」

「よくぞ言いましたね。ではくたばりやがってください。秘技、火遁の術!!」

「あっぶぅ!?」


 こうして、愉快な主従は家主を迎えるまで、楽しく喧嘩した結果、顔面引っかき傷みれのメルと黒焦げになったカタリナは笑顔で帰ってきた家主を迎えるのであった。



****



 あとがきになります。

 最後の方に語ったレイト無双だったりレイト&ランドマン、最凶タッグ編の話はいつか、もしかしたら書くかもしれません。

 ということでカタリナ学生生活編も終了。次回はミサキエピソード後日譚編とは名ばかりのミサキちゃん、普通が脱兎の如く逃げていく編です。

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